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「やっぱり二人がけだ」ユエホワがうなずく。「俺にもマハドゥがきいてる」
「いや、なんで?」私は思わずユエホワを見てさけんだ。「なんでユエホワがピトゥイを使えるの?」
「俺が性格のいい鬼魔だからだ」ユエホワはにこりともせず答えた。「あとついでにシルクイザシの効能と。くるぞ!」さけぶ。
 はっと前を見ると同時に箒がぎゅんっと高く飛び上がり、私がいた位置になにかきらきら光る粒のかたまりのようなものが飛びこんできた。
「なにあれ」私は箒の上からそのきらきらしたところをのぞきこみ、その正体をみきわめようとした。
「ヘビの子どもだ」ユエホワが教えてくれた。「またくるぞ」さけぶ。
「えっ」私が前方にふり向くのと同時にまた箒がすばやくよけてくれ、私にヘビの子どもの団体がぶつかることはなかった。
「ユエホワ」姿をあらわしたアポピス類のひとりがさけぶ。「我々とともに来い。地母神界でお前の力を存分に発揮しろ」
 ユエホワを見ると、口をとざしてじっとアポピス類を見ていたが、やがて「ひとつきくが、なんで俺に命令するんだ?」ときいた。
 こんどはアポピス類がだまりこんだ。
「協力してくれ、って依頼してくるのが筋だろ。なんで俺をさらったり、上から頭ごなしに言いつけてくるんだよ。うまくやりたいならやり方を考えろよ」ユエホワはしずかな声で話していたが、赤い目はきびしくにらみつけていた。
「わかった」アポピス類がすなおにそう言ったので、私は少しおどろいた。「ではお前に――ユエホワ、君に依頼する。我々とともに地母神界へ来て欲しい。そしてともに地母神界を大きく強い世界に、鬼魔王と対等の位置に立てるまでに育て上げて欲しい。どうか頼む」
「そうそう、それだよ」ユエホワは二、三度小さくうなずき「で、俺の答えはこうだ。断る」
 しん、としずかになった。
 でも私は、うなずいていた。
 まあ、そうだろう。
 相手が命令しようとイライしようと、このムートゥー類はすなおに「わかった」とはぜったいに言わない。そういうやつだから。
「きさま」アポピス類がさけび、金色のヘビの子どものかたまりを投げつけた。
「君って呼べ」ユエホワは上に飛び上がってかわしたけどその直後に「うわっ」と悲鳴をあげて体をまるくした。
 なんの攻撃を受けたのかはわからなかったけど、私はその術をかけたのだろう鬼魔に向かってキャビッチを「シルキワス」とさけびつつ投げた。
 短縮形の誦呪だけど、充分消えてくれるはずだ。
 けれど。
 キャビッチはそのまま飛んでいき、アポピス類が片手に持つ盾にがいんっと当たって消えてしまった。
「えっ」私はびっくりしてかたまった。
「光使いか」となりでまるめた体をひらきつつユエホワが言う。「シルキワスが、光使いたちによって効かなくさせられたんだ」
「ええっ」私がさらにびっくりしてさけんだとき、背中と腰のあたりにとつぜん、ちくちくちくっとなにか小さな針がたくさんつき刺さるような痛みがはしった。「いたっ!」思わず悲鳴をあげる。
 箒が大急ぎでぎゅんっとその場から離れてくれたのでちくちく痛みはすぐになくなったけれど、顔をしかめて背中や腰をさすっても、とくになにもつきささってはいなかった。なんだ?
「うわっ」またユエホワがさけんで体をまるめた。「いててて」
「ユエホワ!」私は反射的にキャビッチをかまえたけど、何に向けて投げればいいのか? ユエホワに?
 一瞬そう思って迷ったが、よく見るとユエホワのまわりにさっきアポピス類から投げつけられたきらきらの粒のかたまりがただよっているのがわかった。
 ヘビの子どもたちだ。
「エアリイ」私はまた短縮形でさけび、なるべくユエホワに直撃しないあたりをねらって投げこんだ。
「あたたたた」それでもやっぱり、分裂したキャビッチのいくつかはユエホワにあたってしまったけど、きらきらのヘビの子どもたちはちりぢりに飛んでいった。
 まてよ。
 さっきの私の背中のちくちく痛みももしかして、このヘビの子どもたちのしわざだったのか?
 まさかヘビの子どもたちがこぞって私の背中にかみついたとか?
「いーっ」私はぞっと身ぶるいした。
「こいつだ」ユエホワがにぎりこんだ手を私の方にのばしてみせる。
「なに?」私は箒を近づけて、ユエホワの手ににぎられているものを見た。
 それは、ユエホワの手から頭の先っぽと尻尾の先っぽの一センチずつしかのぞいていなかったが、たしかに小さいヘビの形をしていて、しかも色が頭もしっぽも金色だった。
「金色のヘビだ」私はびっくりした。
 でもどこかで見たことがある、と思った。
「はなせー」ユエホワの手の中でその小さなヘビはわめいた。「てめーらやっつけてやるー」子どもなのでそれは小さくてかん高い声だった。
「うるせえつぶすぞ」ユエホワがすごむとヘビの子どもはだまりこんだ。「お前らなんでキャビッチなんか持ってるんだ」
「えっ、キャビッチ?」私は目をまるくした。
「てめーらかってにはたけつくったー」ヘビの子どもはかん高い声でさけんだ。
「地母神界のやつか」ユエホワが私を見ていう。「あの畑、めちゃくちゃにあらされてたよな」
「あっ」私は急に思い出した。
 フュロワ神がキャビッチを植える前、畑の土をつくっていたときに、地下にあったアポピス類の巣をまきこんでしまったといっていたのだ。
 そしてそのあと、土の下から、卵からかえったヘビの――つまりアポピス類の子どもたちが飛び出してきて、てんでに逃げて行ってしまったんだっけ。
「じゃあそのヘビ、あのときにげてったアポピス類の子どもなのかな」私はユエホワの手を指さした。「でもなんでキャビッチ持ってるの?」
「やっつけてやるー」ヘビの子どもはそういったかと思うと、いきなり口から小さなキャビッチをぽん、とはき出した。
 ほんの1センチあるかないかぐらいの大きさのものだ。
 それはまっすぐ私に向かって飛んできたが、箒がひょいっとかわすと、私がいたあたりでふっと消えた。
「え、さっきのあのちくちく痛かったのって、これがぶつかってきてたの?」私はまたきいた。
「たぶんな」ユエホワがかわりに答える。
「うえー」私は思いきり顔をしかめた。「きたなーい」
「てめーらやっつけてやるー」
「お前そればっかりだな」ユエホワが手を見て言う。「誰にそんな言葉おそわったんだ?」
 アポピス類の子どもはなにもこたえなかった。それ以外のことばをしらないのかもしれない。
「って、あれ」ふいにユエホワが顔を前に向けた。「あいつら、どこ行った?」
「え」私も前を見た。
 ほんとだ、アポピス類の五人の姿が消えてしまった。
 と思ったら、なにもないところからまた突然きらきら光るかたまりが投げつけられてきたのだ。
「うわっ」私とユエホワはすんでのところでそれをかわした。
 が、ちくちくちくっとまた、こんどは右腕に痛みがはしった。「いたたた」私もユエホワも身をよじる。
「あいつら、また消えたのか」ユエホワが顔をしかめながらいう。「ポピー、キャビッチと薬と両方くれ」
「うん」私はユエホワにそれを急いでわたした。
「ピトゥイ」ユエホワも大急ぎで唱える。
 たちまち五人のアポピス類が現れ出る。
「くそっ」
「隠せ!」アポピス類たちがどなる。
 ちかちかちか、と彼らの姿が点滅するように、ところどころ消えたり見えたりしはじめる。
「早くしろ」アポピス類がまたどなる。
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