魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女

葵むらさき

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「……」私は上目づかいでじっと父を見た。「ママには?」

「うん」父はうなずいた。「いつものように、しばらく研究旅行に出る、と言うよ。だってそれが真実、真の目的だからね」にこっと微笑む。

「……」私はさらに時間をかけて、本当に行かせていいのかどうか、考えた。

 それはつまり、ユエホワを信じてまかせてもいいのかどうか、ということだ。

「わかった」父を見上げて、うなずく。「気をつけてね、パパ」

 父は何も言わず、また私を強く抱きしめた。「ありがとう。愛してるよ、ポピー」

「うん。あたしもよ、パパ」私も答えて抱きしめ返す。

 父から離れたあと、私はユエホワの方に向き直った。

「ん?」ユエホワはすっとぼけた顔で、両腕を広げた。

「誰があんたとハグなんかするもんですか」私はぶんっと音がするぐらい強くムートゥー類に指を突きつけた。「パパにちょっとでもけがさせたら、本当の本当に時間河の底にたたきおとすからね。陛下にごまする前に、そのことをようく頭の中にたたきこんどいて」

「わかったよ」ユエホワは不服そうに口をとがらせた。「安心しろって」

 わかってる。

 これはユエホワを「信じる」のではなくて「おどしつける」という行為だ。

 でもどっちだっていい。

 パパが無事に帰ってくることを、神さまに祈るだけだ――

「そうだ」私はまた思いついた。「ルドルフ祭司さまに会ってから行くといいよ」

「祭司さまに?」父が目を見ひらく。「それはどうして?」

「きっとなにか、お守りになるものを下さると思うの」私は父に、父の留守中自分がこの腹黒鬼魔と冒険旅行に出かけたことは省略して、アドバイスだけした。

 

 そして、聖堂に寄るのなら明日出かけようということになり、なんとユエホワは今夜ひと晩、わが家の書庫に泊まることになった。

 ちなみにどうして彼がここにいたかというと――

「通気孔から入った」

とのことだった。

 上に昇るドアには鍵がかかっているから、泥棒なんかはできなかったわけだけれど、それにしても通気孔って、たしかものすごくせまかったように思う。

 もしかしたら、全身を小さなふくろうの姿に変えて入ったのかも知れないけれど、ユエホワはそこまでくわしく説明してくれなかった。

 ともかくも、母が心配して地下におりてくる前に、私はさっさと部屋へもどって眠りについたのだった。

 

          ◇◆◇

 

 翌朝。

 いつもと同じ時刻‎に起きた私は、いつもと同じように着がえて顔を洗い、朝ごはんを食べ、そして、

「フリージア。実は……」

とまじめな顔と声で母に話しはじめた父の声を背中でききながら

「行ってきまーす」

と家を飛び出した。

 ただちに箒を呼び飛び乗って、上空へとかけあがる。

 その間、なんとか母のさけび声や悲鳴やなんかは聞こえてこなかった。

 ふう、と息をつく。

 そうしながら、うしろからさっそくユエホワがついてくるのを察知した。

「おはよう」少しだけふり向いてあいさつする。

「おはよん」ユエホワは、めずらしく眠そうな顔で声をかけてきた。

 いつもは、すきあらば何かいたずらをしかける気満々なのがひと目でわかるような、ゆだんならない顔をしているけれど、今朝はなんだか、ぼけーとしている。

「あんまり眠れなかったの?」私はきいた。「書庫、寒かった?」

「いいや」ユエホワは首をふった。「羽毛があるからな、俺には」

「あ、そうか」私は飛びながら空に目を向けた。「って、やっぱ全身ふくろうになったりもするんだ」となりを飛ぶ鬼魔を見て確認する。

「まあとくに敵も危険もないときはな。それより、読んだか? あの本」ユエホワは指を立てて質問した。

「あの本?」私は思わずきき返した。

「妖精の」ユエホワは、眠そうなくせにあきれたような言い方でつけ足した。

「読んでないけど」私はむすっと答えた。「だって時間なかったし」

「だろうね」ユエホワは垂直飛行しながら腕組みして目をとじうなずいた。「そうでなきゃな。天下のポピーさまなら」

「今日読むわよ」私は飛びながらどなった。「学校から帰ったら」

「のんきな話だよなまったく」ユエホワはまたしても、あきれたような声でそう言い、しかもこんどははあ、とため息までついた。

「なによ」私はまたどなり、箒の先をすこしだけユエホワに向けた。でも箒はすぐに、学校の方へ自分で向きをなおしてくれた。

「今日の帰りまでにまたあいつらがなんかしてくる可能性だってあるだろ」ユエホワはあきれながらも私に説明した。「これから、俺も鬼魔界へ行っちまうし」

「それがなにか関係あるの?」私は眉をひそめた。

「お前ひとりじゃ、立ち向かえないと思うぜ。妖精には」ユエホワはまじめな顔で言った。

「なんで?」

「言ったろ、お前らの使う魔法とは性質のちがう、もっとたちの悪い力を使ってくるって」

「あ」私は思い出し、少し肌寒くなった。「そっか」

「ゆうべ、あの本ざっと読んでみたんだけどさ」ユエホワはまた腕組みして考えながら話した。「ちょっとだけ、もしかしたら……って、思い当たることがあるんだよな」

「えっ」私は叫んだ。「読んだの? あの本を? あのぶあつい方のやつを? ぜんぶ?」

「お前さ」ユエホワは腕組みをほどき、私を見て――もう眠そうな顔ではなく、いつもの底意地の悪そうな顔に戻っていた――「おどろくとこ、そこか? 俺を誰だと思ってんだ」とあきれたように言った。

「えっ、だって」私はコンランした。「えっ、じゃあ」

「読んだよ。ざっとだけどな」ユエホワは声をひそめた。「それで、もしかしたら、だけど」

「うん」私も声をひそめ、少しだけ肩をすくめた。そんなことしても、ぜんぜん隠れてることにはならないんだけど……

「その妖精ってやつ、誰かに、あやつられてんのかも知れないぞ」

「あやつられてる?」私は、ユエホワをにらむように見た。「なにそれ?」

「むかし妖精ってのは、ある鬼魔とつながりを持ってたらしいってことが書かれてあったんだ」ユエホワは引きつづき小さな声で説明した。「くわしいことはわからないって書かれてたけど、俺が思うに、もしかしたらあいつらのしわざかも知れないって」

「あいつら?」

「うん……あ」ユエホワはとつぜん、空中でぴたりと止まった。「やべ、もう学校見えてきた。じゃあ、気をつけてな。本も読んどけよ」ユエホワはそのまますうーっと上の方へのぼりはじめた。

「あっ、うん」私は少しおどろいたけれど、まあ学校に鬼魔をつれていくわけにはいかないので、そのまま進んだ。

「まあ、たぶんやつらの狙いは俺だから、お前に危害は加えないと思うけど」最後にユエホワの声がそう聞こえたので、飛びながら肩ごしにふり向いたけれど、もうその姿は見えなかった。
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