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手札
しおりを挟む卯城さんと話していると母さんが飲み物を持って現れる。
「朱花ちゃんお疲れ様!」
「はっ、はい!おちかれさまです!!」
相当緊張しているな。スタッフの名前をしっかり覚えているところを見ると母さんの人柄がよくわかる。
「その様子だと零梛はバレたのね」
「そうなるかな」
「零梛くんのオーラ隠せてませんからね…上品さとかスタイルの良さとか…」
「もっと変なカッコさせればよかったわね」
「かえって目立つよ」
休憩が機械調整により伸びるという声が聞こえる。もう少し二人ものんびりしていられるらしい。
「零梛はここまで見てどう?」
「まだ途中だし、なんともかな」
「嘘つき、わかるのよ零梛と朱花ちゃん、それに監督も貴方達全然満足のいく顔してない」
「そんなことはないですよ!彩美さんは最高です!!」
母さんがこんなに誉められているとなんだか誇らしい気持ちになる。想像よりもファンなんだなと思う。
「ありがと。でもこの作品の限界かもね。結局壁は越えられなかったかって感じかな」
そこへ監督が歩いてくる。
「彩美くんにそう言われるとダメな気がするからやめてくれよ…この作品はまだ成功の余地あるんだから」
「そうは言ってもまだ空いた枠一つ埋められてないんでしょ?」
「仕方ないじゃないか、これでも該当する男性俳優から少し幅を広げて無理矢理にでも集めたんだよ」
「じゃあまた男装のできる女優さんに頼みますか?一話その展開になって不貞腐れてたの監督じゃないですか」
「せーめーるーなー!!私はできる子だもん」
和気藹々と大事な話をしている。監督さんなりにこだわりと趣旨を大切にしているのがよくわかる。男性の俳優を使いたいというのは目新しさはもちろん、この業界を広げていきたいと言う願いなのかもしれない。
卯城さんが二人の会話をうんうんと聞いている。そして、スッと手を上げた。
「あの……モンスターカード使っていいですか?」
「ん?」
卯城さんがそれぞれの顔を見る。するとポケットのメモ帳を千切って天に掲げる。
「モンスター召喚!!高雛零梛!!私は彼を空いた男性の枠に推薦します!」
空気が凍った。僕はこの展開になってもいいと思って彼女に協力したし、確かに手札とも言ったけど。まさかカードゲームの手札とは思わないじゃないか。トランプとかじゃだめだったのか。それにモンスターって。
しらけすぎて人生で一番気まずい。
「高雛零梛?零梛って言えば彩美の息子だよな?」
「え、えぇ、朱花ちゃん。どうしてそんなことを?」
「零梛くんは私の手札になってくれるらしいので使い所かなと」
「どういうことなの?説明して!」
そう言って母さんが僕に焦って声をかけるし、卯城さんの行動もあって周りからこちらに視線が集まる。こちらに注目されたところでまだ、顔を晒すわけにもいかないだろう。
そんな空気を知らないスタッフさんの「もういけます!」という声でなんとなく気持ち悪い流れで撮影が再開された。母さんには「終わったらね」と冷たい目で見られた。
その日の撮影は終わった。先に車の方へ移動している。すると母さんが何故か僕より先に車にいた。
「早くない?」
「最後の方は出番ないから帰り支度してたの…それより…」
母さんだけいるのかと思ったら卯城さんが助手席に押し込められていた。ひらひらとこちらに手を振る。僕も後部座席に乗り込む。
「出発はしないわ。朱花ちゃんはまだお仕事あるみたいだしちょっと借りただけ」
母さんは多分怒っている。
「お母さんはね。二人ががこんなに手が早い人だって思わなかったの。どうやったらこんな短時間で朱花ちゃんの手札になるなんてセリフが出るの?えっちなことになったらどうするの」
「「は?」」
この人はちょっと頭がピンクすぎやなしないか。ちょっと飛躍した話になっていそうなので事情を話してみた。事情を説明している最中卯城さんはずっとニコニコしていた。
「ふーん」
「納得いってない?」
「理解も納得もできるけどちょっと言い方を考えようね」
「それにこれは良い機会だと思っちゃってさ。先生と会うための一つの道としても有効だよね…?」
「そうかもしれないけど…」
なんだか他人に聞かせる話じゃなくなってきていたので母さんは卯城さんに感謝を述べてお疲れ様と別れて車を出した。
僕自身を周りに示す方法。その一つとして僕の存在を認知させること、そして声をみんなに届くようにすること。先生を受け入れてもらうための道が見えたんだ。僕は卯城さんの手札になったと同時に、手札を手に入れたんだ。
ドラマチームからしたら突然の卯城さんの提案となったが、僕の前向きな態度や制作の問題解消となることから一旦話合わせることになったがどうやら起用の方向で動いている。という旨を母さんから聞いた。
「全く…お母さんにも相談しなさい」
「ごめんなさーい」
そう言って母さんに全力で愛想を振りまいておく。「調子いいんだから」と笑って返す。なんとなく本で読んだような親子のやりとりに近いものを感じて僕らの間に親子関係を感じた。
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Pretty good so far, lovin it ❤