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退院
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しばらくして部屋に戻った方がいいかなと思い戻ろうとするが、肝心の何階から降りてきたのかを確認していなかった。幸い看護師さんがいたので尋ねてみる。
「おはようございます。部屋がわからなくなっちゃったんですけど」
「おはようござーーーー?私今声かけ、え、?」
「はい、貴女に声をかけたつもりなんですけど…」
「そんなに甘い声で優しい口調…誘ってるの?」
「誘うというか案内を頼みたいんです」
「り、リードしてほしいってことね…できるかしら…」
なんだか会話が噛み合っていない気がする。
「部屋に戻りたいだけなんです!」
「あっ…ごめんなさい取り乱しました」
「いいえ、頼んだのはこっちですから」
そう言って部屋に案内してもらった。「ありがとうございました」と言うと看護師さんは半泣きになり少し跳ねながら戻っていった。
部屋に戻ってテレビをつけると先生のことが報道されている。それと僕のことも。
街頭インタビューみたいなことを行っていて、世の中にはこんなに人がいたのかと思う。でもみんな「早く捕まってほしい」や「可哀想」なんて好き勝手に言うものだから悲しくなってテレビを消した。
残っているコーヒーはぬるくなり始めているがカップに注ぐ。
コンコンコンとノックされて「失礼します」と健診をしてくれた医師が入ってくる。
「おはようございます」
「クッ…おはようございます。健診の結果の前に面会の方を…」
そういうと医師の後方に立っていた女性が飛びついてくる。
「あまな!あまななのよね!?いいえ、あたしにはわかる零梛よ!」
「あの、えっと…多分そうです?」
困惑が顔に出ていたと思うが医師の方に目を向ける。
「その方は高雛彩美さん貴方のお母様です。DNA鑑定でも親子の確認が取れています」
この人が僕の母親。実感が湧かない。ただ喜びながら泣きじゃくるこの女性を見ると少しだけ胸が痛んだ。これは血の繋がりからくる本能なのか、気持ちについていけない僕の罪悪感なのかはわからない。
「おかあさん?そんなに強くされると少し苦しい」
「ごめんね!嫌だったよね?零梛からしたら知らないおばさんだものね…」
「嫌ではないよ、ちょっとびっくりしただけ」
そう言って僕の上に乗っかる母の頭を撫でる。
「ごめんね…ごめんね…」
きっとこの人が一番の被害者なんだ。僕は幸せに生きていたし、心が傷ついて、自分の無力さを何年も抱えてきたんだろう。
「あの、零梛くん?質問なんだけど女性は嫌じゃないの?」
「?。女性というだけで忌避することはありませんよ?道理が通っていません」
「「「………」」」
部屋にいる人たちが顔を見合わせる。
「あのね、零梛。世の中の男性っていうのは女性を嫌がるものなのよ?」
「でも、僕がそうじゃないからと言って問題はないんじゃないですか?」
「問題はないんだけど!そうじゃなくて!」
母は一生懸命に伝えようとしているのだろうがよくわからない。
「詳しい話がまだでしたね」
昨日の看護師さんが口を開く。
「今、世界の男女比は男性一人に対して百人の女性がいるという計算になります」
パンフレットに書いてあった。
「性的な面で男性は希少価値が高くなるです。そうでなくとも、女性の方が性欲が強かったり性に対してオープンだったりする傾向にあります。一方で男性はそんな女性から自分を守るために強い態度を取ったり、関わりを根絶させる人がいたり、世間にある男性配慮を優遇だと判断して偉ぶって傲慢な態度をとる人もいます」
なんとなくはわかった気もするけど、目にしたことがないのでよくわからない。でも確かに僕はまだ自分以外の男性に会っていない。
「そう言った点から男性は女性の100分の1の人数な上に就学就労しているような方はその3分の1程度になるのです」
随分と少なく感じるが、昨日のパンフレットを思い返してみるとAランクの待遇を受ければ確かに生きていけるのだと思う。精液の提供とその恩恵で暮らしていけるとはやりすぎな気もするがそれほどまでに対策を打たねばならぬほどなのだろう。
「ありがとうございます。よく分かりました」
「いえ、とんでもないです」
「それでも僕は僕を貫きますよ」
「あまなかっこいい!!」
「検査結果ですが、健康そのものです。異常はありません。むしろ筋肉もしっかりついていて素晴らしいです」
「確かにがっしりしてるところはしてるね」
そう言って母は身体をツンツン触る。くすぐったい。
「精液のランクに関しては…Aランクでした」
その場の全員が顔を少し赤らめて僕の方を見る。なんか恥ずかしいからどうにかしてほしい。
「ですので、月一回の精液の提供で高位待遇と なります」
「はい…」
「医療機関でも良いですし、御自宅で採取したものを受け取るという形でも可能です」
「わかりました」
説明が終わって退院となる。母はサインを求められていたり有名な人なのだなと思う。荷物を車に乗せて母の運転で自宅に向かうようだ。僕はどんなところか知らないけれど。
「おはようございます。部屋がわからなくなっちゃったんですけど」
「おはようござーーーー?私今声かけ、え、?」
「はい、貴女に声をかけたつもりなんですけど…」
「そんなに甘い声で優しい口調…誘ってるの?」
「誘うというか案内を頼みたいんです」
「り、リードしてほしいってことね…できるかしら…」
なんだか会話が噛み合っていない気がする。
「部屋に戻りたいだけなんです!」
「あっ…ごめんなさい取り乱しました」
「いいえ、頼んだのはこっちですから」
そう言って部屋に案内してもらった。「ありがとうございました」と言うと看護師さんは半泣きになり少し跳ねながら戻っていった。
部屋に戻ってテレビをつけると先生のことが報道されている。それと僕のことも。
街頭インタビューみたいなことを行っていて、世の中にはこんなに人がいたのかと思う。でもみんな「早く捕まってほしい」や「可哀想」なんて好き勝手に言うものだから悲しくなってテレビを消した。
残っているコーヒーはぬるくなり始めているがカップに注ぐ。
コンコンコンとノックされて「失礼します」と健診をしてくれた医師が入ってくる。
「おはようございます」
「クッ…おはようございます。健診の結果の前に面会の方を…」
そういうと医師の後方に立っていた女性が飛びついてくる。
「あまな!あまななのよね!?いいえ、あたしにはわかる零梛よ!」
「あの、えっと…多分そうです?」
困惑が顔に出ていたと思うが医師の方に目を向ける。
「その方は高雛彩美さん貴方のお母様です。DNA鑑定でも親子の確認が取れています」
この人が僕の母親。実感が湧かない。ただ喜びながら泣きじゃくるこの女性を見ると少しだけ胸が痛んだ。これは血の繋がりからくる本能なのか、気持ちについていけない僕の罪悪感なのかはわからない。
「おかあさん?そんなに強くされると少し苦しい」
「ごめんね!嫌だったよね?零梛からしたら知らないおばさんだものね…」
「嫌ではないよ、ちょっとびっくりしただけ」
そう言って僕の上に乗っかる母の頭を撫でる。
「ごめんね…ごめんね…」
きっとこの人が一番の被害者なんだ。僕は幸せに生きていたし、心が傷ついて、自分の無力さを何年も抱えてきたんだろう。
「あの、零梛くん?質問なんだけど女性は嫌じゃないの?」
「?。女性というだけで忌避することはありませんよ?道理が通っていません」
「「「………」」」
部屋にいる人たちが顔を見合わせる。
「あのね、零梛。世の中の男性っていうのは女性を嫌がるものなのよ?」
「でも、僕がそうじゃないからと言って問題はないんじゃないですか?」
「問題はないんだけど!そうじゃなくて!」
母は一生懸命に伝えようとしているのだろうがよくわからない。
「詳しい話がまだでしたね」
昨日の看護師さんが口を開く。
「今、世界の男女比は男性一人に対して百人の女性がいるという計算になります」
パンフレットに書いてあった。
「性的な面で男性は希少価値が高くなるです。そうでなくとも、女性の方が性欲が強かったり性に対してオープンだったりする傾向にあります。一方で男性はそんな女性から自分を守るために強い態度を取ったり、関わりを根絶させる人がいたり、世間にある男性配慮を優遇だと判断して偉ぶって傲慢な態度をとる人もいます」
なんとなくはわかった気もするけど、目にしたことがないのでよくわからない。でも確かに僕はまだ自分以外の男性に会っていない。
「そう言った点から男性は女性の100分の1の人数な上に就学就労しているような方はその3分の1程度になるのです」
随分と少なく感じるが、昨日のパンフレットを思い返してみるとAランクの待遇を受ければ確かに生きていけるのだと思う。精液の提供とその恩恵で暮らしていけるとはやりすぎな気もするがそれほどまでに対策を打たねばならぬほどなのだろう。
「ありがとうございます。よく分かりました」
「いえ、とんでもないです」
「それでも僕は僕を貫きますよ」
「あまなかっこいい!!」
「検査結果ですが、健康そのものです。異常はありません。むしろ筋肉もしっかりついていて素晴らしいです」
「確かにがっしりしてるところはしてるね」
そう言って母は身体をツンツン触る。くすぐったい。
「精液のランクに関しては…Aランクでした」
その場の全員が顔を少し赤らめて僕の方を見る。なんか恥ずかしいからどうにかしてほしい。
「ですので、月一回の精液の提供で高位待遇と なります」
「はい…」
「医療機関でも良いですし、御自宅で採取したものを受け取るという形でも可能です」
「わかりました」
説明が終わって退院となる。母はサインを求められていたり有名な人なのだなと思う。荷物を車に乗せて母の運転で自宅に向かうようだ。僕はどんなところか知らないけれど。
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