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病院にて

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 僕はその後病院に運ばれて警察の方に事情聴取を受けた。今までどう過ごしていたのかとかどんなことをされたとか。先生は僕の嫌がることをしたことはなかった。だから、先生が悪いことをしている前提の話し方は少々気に食わなかった。

 僕にとって一番大切な人なんだから、でもそんなことわかってもらえるわけがないことをわかっているからこんなことになっているんだ。

「はい、では今日のところはこの辺りで撤収します。長い時間ありがとうございました」
「いいえ、お仕事ですもんね。お疲れ様です」

 警察の方や控えていた看護師達が唖然としている。警察の方の一人に至っては泣いている。外の世界では僕の意図と違う風に伝わる言葉があったのだろうか。傷つけたり、貶してしまっていたのなら申し訳ない。

「変なこと言いましたか…?もしそうならごめんなさい。僕は先生としか話したことがないので指摘してもらえるとありがたいです」

 皆さんの反応は変わらず、むしろ悪化しているようでどうすればいいのかわからなくて頭を下げて考えないようにした。弥衣さんは犯罪者と共犯とされる可能性を加味して名前は伏せておく。

「い、いいえ、変なことなんて一つも…また伺います」

 ほら、行くよと泣いている方を連れて警察の方達は退出して行った。

「本当かな…」
「本当に失礼なことは言ってませんよ。驚いただけです」

 看護師さんが僕の言葉を聞いて答えてくれる。

「驚く?」
「えぇ、大抵男性の方は女性に対していい顔はしませんから」
「なんでですか?」
「詳しいお話はまた後にさせてください。検査の用意ができていますので」

 僕は健康そのものなんだが異常がないかの検査とDNAの鑑定を行うようだ。

「では通常の健診から始めますね」
「はい、お願いします」
「ーーっ」

 本当に意外そうな顔をしている。先程聞いた話は事実なのだなと実感する。

「嫌な顔していた方がやりやすいですか?先程それが普通と聞いたんですけど」
「今のままで結構です!!その方がいいです!!」

 すごい熱量で言われて困ってしまう。

「心音を聞きますね。服の上からで結構ですよ」
「そうなんですか?本で読んだ時は服を捲り上げてたんですけど」
「それはどこのえろhon.....ゔゔん。確かに聞こえづらくはありますけど嫌がる方が多いので」
「僕は構いませんよ。しっかり調べてもらえる方がいいですから」

 そう言って服に手をかけると看護師さんに止められる。「死人が出ます」と言われたので服の上からやってもらった。先生は鼻血を出していた。

 その後も触る前に逐一触りますよとかいいですか?なんて聞かれるものだから一斉許可じゃダメかななんて思いながら滞りなく検査は進められていった。

「最後の検査は事件の被害者としての検査とは異なるのですが、男性の方には精液の提供の義務が世界的に決まっているのです。パンフレットがあるのでお読みください」

 看護師さんがあまりに淡々というものだから聞き流してしまったけれど。精液の提供の義務だって??先生はそんなこと教えてくれなかった!外の世界はこんなことがあるのか?





 精液提供に関するパンフレット

 現在世界の人口の多くは女性が占めています。その男女比は男性一人に対して女性が百人という計算になるのです!

 何もしないと人口の縮小、経済の縮小に繋がります。そこで医療機関を通して政府へ男性の精液提供していただくことで、個人間のやりとり、性交渉を回避しながら人口の安定を図っています。

 よって男性には精液を提供していただく義務が世界的に存在するのです。義務とは権利と共にあります。これに参加していただくことを前提に男性には以下の権利が与えられます。

 ランク※に生じた補助金。
 外出時の護衛の手配。

 ※精液の質よりAからCまで分かれます。また、B、Cに置いても月当たりの回数を増やすことでより高ランクと同じ待遇を受けられます。詳細は裏面。


 他にも色々まとめられていた。今回はこれのランク付けをするらしい。基本はBだという話だ。それにしてもなんともシステマチックなことだ。先生の持っていた官能小説の方が愛に溢れている。

 そんなことよりも問題は検査という関門だ。僕は今から射精をしてそれを提出するというのだ。あまりの羞恥に想像だけで沸騰しそうだ。

「では、この部屋にお入りください。詳しい説明も中へ」

 案内されて中へ入るとパソコンと向かい合う人が一人だけいた。

「やぁ、高雛零梛くん。説明からでよかったよね」
「はい、パンフレットは読みました」
「そうか、ならば方法だけでいこう」

 そう言って医師は僕にパソコンを向ける。

「ここには今病院にいる女性のデータが載っている。この子達はちゃんと資格を持っているので射精の手伝いをしてくれるので好きに指名してくれ」
「あの…絶対ですか?」
「まぁ、絶対ではないな。しかし、彼女達にとってこの仕事は名誉的な役割もあり喜んでくれると思うぞ」
「意地悪な言い方ですね」
「いいや、なに、君の様子は噂になっているからね。それならばいっそ利用してみようかと」

 悪戯に微笑む目の前の女性はどことなく先生に似ている。

「私は君を拐った犯人に似ているかい?」
「えぇ、まぁ、どことなく」
「そりゃそうだ私は鷲倉朝日、小夜の妹だからね」
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