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保護

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「郊外にある鷲倉容疑者の自宅にて、高雛零梛くんと思われる青年を保護しました。現在都内の病院で検査が行われています。尚、鷲倉容疑者は不在で逃亡中と見られます」

 このテレビでは僕のことを報道しているようだ。電波を受信して映像を放送する機械だ。初めて見た。

 僕は今病院のベッドの上にいる。





 扉を開けたら警察の女性たちが武装して取り囲んでいた。

「あの…それ、多分、僕ですよ…ね?」

 先生と弥衣さん以外との人と会話するのなんて初めてでこんなにたくさんの人を見ることがなくてドキドキだった。

「かっこいぃ…」「美しい…」「てんし…」

 なぜか周りの人たちがこっちを見て固まっているからどうすればいいのかわからなかった。

「ええと…先生は今いないんですけど…僕のこと保護しますか?」

「は、はっ…声だけで孕む!」
「この辺りの空気が浄化されてるわ」

 会話が成立している気がしない。それになんか色々言われているのが聞こえてきて恥ずかしくて顔が熱い。

「あの!!僕はどうすればいいんですか!!」

 大きな声を出すと後方から一人が出てくる。

「高雛零梛くんですね、保護します。鷲倉小夜はいないのでしたね。しかし、家宅捜索の許可も降りていますので入らせてもらいますよ」
「はい、でも散らかさないでくださいね。広いので案内しますよ」
「いえ、そんなことはしなくていいんですよ」
「僕がしたいんです。きっともう戻っては来れないのでしょう?貴女達がドンドンと急かすから感傷に浸る余裕もなかったんです。行きますよ」

 そう言って僕は警察官の手を引いて早すぎる帰宅をした。

ーー

「ねぇ、今手を繋いでたよね?」
「繋いでたし、話し方柔らかい」
「先輩よく耐えられてると思いますよ」
「こいつさっき出てきた時から固まってんのやばくね?」
「こんなに女いて嫌な顔とかしてなかったよね?もしかして夢女子にわんちゃんある?」
「コラ、任務中に発情するな!」
「「「「「ごめんなさーい」」」」」

ーー

 僕は警察官達と一緒に家の中を捜索して回った。

「あの…調べても大したものありませんよ?こういうのもなんですが普通に暮らしてただけなんで…」
「鷲倉小夜が隠れていたり、潜伏先がわかるかもしれない、ここでどんな暮らしをしていたのかの証拠も見つけたいと思っていますので」

 隅々まで確認しているものの丁寧に作業してくれている。

「ちなみになんですけど僕が誘拐された子どもで高雛零梛という証拠はあるんですか?」
「今のところはなんとも、しかし通報の段階で男の子が幽閉、鷲倉小夜、高雛彩美この関連性により警察、というより政府の方からほぼほぼ断定した結果というところですね」
「なるほど。わかりました。じゃあ…次は先生の部屋行きましょうか」

 僕の正体については曖昧なままだけど条件で断定されたのか、きっと先生の記録とかを調べても隠し子とかは想定されていないのか。

「先生の部屋です。仕事場の方ですね」
「拝見します」

 この部屋は資料や紙だらけなのに先生を1番感じる。

「先輩っ!!これはぁあ!!」

 一人が大きな声を出す。

「アルバムですね。先生写真を時々撮ってましたから。こんな風に保存してあったんですね」
「なるほど…これは…」
「いいものですね」
「いいものです」
「でも、劣化のようなものが見られません」

 先生を知る僕は察知する。先生はこんなふうに写真をまとめるほどマメじゃない。きっと僕の過去の写真から今に至るまでの過程を示すことで僕の存在を高雛零梛と結びつけるきっかけにしようとしているのだろう。

 そうじゃないなら、僕のこと置いてくだけじゃなくて、僕との思い出まで置いて行っているようで辛いからもっと大切に思われていると思いたい。

 警察の方も察したのか一旦回収したいと持っていった。

「最後は僕の部屋なんですけど…見ます?先生もあんまり入らないんですけど」
「入ります!!!!」
「むしろ本題まである」

 僕の部屋には大したものはないんだけどな。持ち出したいものは鞄に詰めたし。

「これは…」
「いい匂い…」
「意外と簡素…ゴミ箱はっと…」

 僕の部屋には書斎から持ち出した読みかけの本とベッドくらいしか置いていない。基本的に寝る以外この部屋にはいなかった。

「特にないですね」
「その割に長かったですねこの部屋」
「すみません…でもこれは女宿命というか」

 被害者の状態を確認するのに自室とされている場所は有用だということだろうか。プライドを持って仕事をされているのだなと感心する。


 警察の捜索は終わり僕は荷物の検査をされたが荷物を持って行くことができた。捜索の途中で先生の詰めていた荷物があって中を開けると僕のためと思われる荷造りがされていて涙が出た。

 そして振り返って思う。健康的で、文化的、そんな風に僕を育てた。なぜ先生は僕のことを誘拐したのだろうか。なぜ僕は幸せに今まで生きてこられているのか。僕と先生の交わることのなかった部分が渦巻いて解消できずに混乱する。

 なんで先生は僕を誘拐したの。なんで愛してくれたの。なんで…
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