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第3話
第3話 出発 (25)
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私達はイリーア達の乗っていた護送車より先に、何台も連なる護送車の最も一番前の護送車に乗り、真っ先に要塞に突撃した。
なぜあえて先回りするのかというと、できるだけ早く侵入してしまったほうが先程軍人が戦えと言っていた相手の軍隊の準備もまだ不十分で、比較的後に来るよりも襲撃してくる軍隊やロボットも少なく、また、他の囚人の利害の不一致等によるドンパチにも巻き込まれずに済み、私達の作戦に邪魔が入りにくいからだ。
それにより早く行動し、できる限りの安全の確保もしていなければ、他のメンバーにも指令を出しにくいだろう。
時々銃弾が飛んでくることもあるが、それは仕方のないことだと思いつつ、後ろに続いているフィシャの様子を見ながら走り続けた。
私達は囚人達が走っていくであろう真っ正面とはまったく別の、左端の壁に沿ってひっそりと移動している。
フィシャは私の事を不思議な目で見ていたが、銃弾を避けるのに必死なせいか私に質問できないでいる様子であった。
それにしても彼女も哀れですね...上の者の命令に従っただけであってそれを考えたのはあなたではないのに...
だがまあそれも仕方ないのだろう、この無法者の世界では、ただでさえ資源の少ない荒れた人工の新天地で、生き残るためには略奪もいとわないと無法者の世界に入ったのだから。それなりの力や知識がなければ一人ではこの人工の新天地では生き残ることはできないし、たとえ力や知識があったとて、いつ突然ロボットに襲われたり、資源が枯渇してしまうのかもわからないのだ。
何かに所属したり、誰かが治め管理している比較的安全な地域にいなければ、この日生き残るのすら難しい世界なのだ。
私はそんな事を思いながら銃弾をかわし、走り続ける。
しばらく走ると下に向かう階段があり、その前には「KEEP OUT」という文字と共にドクロマークが書かれたホログラムの画面が真っ赤に光りながら浮かんでいた。
だが、なぜそんなにもあからさまに隠したいものをそうやって「隠していますよー!」といわんばかりにアピールしているのだろうか。私はそんな事に呆れさえおぼえていた。まぁ、それが見破れたとしてむやみに立ち入れば即座にバレて命が奪われる事は明らかだ。しかしその突破方法さえ理解し、それを実行できさえすればより深い、相手の抱える秘密に近づけるのだ。
それは結局人間の心も人間が作るシステムもかわらないし、私がこれまで色んな所でイリーア達のチーム所属スパイとして情報を引き出せていたのも、結局はそんな考え方でなんとかなっていたのだ。
どんな攻撃的な無法者や、考え方が複雑そうな無法者以外の人間だって、その奥底にある仕組みさえ理解できてしまえば、相手は交渉に折れて承諾してくれるものなのだ。それはシステムや機械も変わらない。
私は横にある柵の、出っ張っている部分に隠されたスイッチを押すと、キーボードらしきパネルが出てきたので、私はあらかじめ調べていたコードをそこに打ちこんだ。
「ようこそ管理者様、コードを確認できましたのでお進みいただけます。」
パネルが消え、機会音声が私達にそう言った。
私達が階段を降りると、一見行き止まりのような黒い空間に出て、後ろにあった通路のゲートも閉じ、真っ暗になってしまった。
おそらくそれを知らない者だったら突然閉じ込められた事に気をおかしくしてしまうだろう。
だが、私はその突破方法を知っている。
私はこの要塞の仕組みや空間のコントロールシステムを把握しているので、この空間が形成される事もあらかじめ知っていたのだ。
私は横にある空間に触れ、隠されたへこみの部分を押すと、壁が光りパネルが表示された。
私はパネルを操作し、この黒い空間を動かした。
フィシャは今起こっていることにとまどいを感じているのか、ぽかんと口を開けながら唖然としていた。
「やはり罠でしたか。」
私は空間を操作できる事はできたが、一本道で、その壁の向こうの穴から、ロボットの銃部分とみられるものが飛び出ているだけあり、その形にする事しかできなかった。
おそらく私の前に引いてある線を越えれば狙われ、やられてしまうだろう。
何も知らなければこのまま前に進むか、ここにずっといて気がおかしくなった所を捕らえられるしか選択肢はないのだろう。
おそらく私がシステムをハッキングした事は向こうにもバレているだろう。
だが、私はなんとかしてここのシステムを把握できているので、この状況になれば何をしてくるのかすら明らかであった。というか元々は囚人として捕まる前もこの要塞に侵入した事はあるし、なんならそれを管理する職員の一員を装った事すらある。囚人として捕まったのも結果的にこの要塞内部を囚人視点から把握し、突破方法を明確にしてからイリーアに伝えるためであった。
最初はしくじって捕まり、それから要塞に送られるなんて事も想定外で、私も一時ヤバいと思ったが、その要塞がこことわかればまぁ結果的に良かった。元々イリーアを救出するという目的があってそれを遂行する事はできてるんだし。
おそらく相手はある権限のもとでシステムにアクセスし、それで空間を操っているのだろう。わけのわからない空間に閉じ込められてしまうリスクもあるが、なんなら機械を壊してバグらせるなんて手もあった。
だが、そんな事をしてしまいしくじったら、下手するとずっと変な空間に閉じ込められる可能性があるので、正攻法でいくことにした。まぁバグった空間すらコントロールするといった実験も耳にした事はあったが、成功した事例は聞いた事はない。
私はパネルに用意していたウイルスをインストールし、端末をハッキングする。そうする事でバグらせなくともシステムを突破する事は可能だ。
すると一本道である事は変わらなかったが、横の空間が1.5メートルから4メートルと広くなり、また天井が高くなり、銃口が飛び出た穴も私達から3.5メートル程上方に移動した。また、その銃口の前の空間は2メートル程の段差になっており、なんとか縁につかまり、飛び乗れば2階部分へ行けそうであった。
よし、これならいける。
「フィシャさん、あなたはこの線から前には行かず、射程外の安全地帯で待機願います。」
私は困惑するフィシャを背に、進み始めた。
銃弾は私の斜め前方の上から絶え間なく降り続けているが、それには残像があり、蛇行して走っていればなんとか避けられそうであった。しかし、この空間は広がったとはいえ幅4メートルしかない一本道なので、なんとかジャンプやスライディングで上下移動をし、銃弾の射線上にあたってしまわないように尽力する必要があった。もし一直線に射線上をまっすぐ走っていては一瞬でやられてしまうだろう。
私はそんな性質をみるに、壁の向こうにいるのは大型戦闘用ロボットだと推測できた。大型とはいえ比較的量産しやすく、安価な工場の床や壁を加工して作れるロボットであり、多くの国の軍隊で使われているというのを聞いたことがある。難点としては、安価な燃料を使っていて、かつ外装もそこまで頑丈ではないので、燃料タンクに銃弾をぶつけてしまえば燃料の暴発により中から爆散してしまう事であった。その難点を補うために高速かつ強力に銃弾を撃ち続けられるガトリングを取り付けている訳なのだが、俊敏性に乏しく、ガトリングの向きを変えるのもロボットの中では比較的遅いほうなので、素早く、四方八方に避けられる敵に対しては、一直線上に対峙していない限り倒せてしまうのだ。しかも、大量の銃弾を一気に放っているので銃弾の残像があり、それがはっきりと見えているのでそれを避ければいいのであった。
射程は100メートル、要するに命がかかった短距離走と考えればわかりやすいだろう。
私は床を全力で蹴り、風を切って走り始めた。
それと同時にロボットも銃弾を発し始めた。
私は、最初の銃弾を右斜め前への移動で避け、そのまま20メートル進む。するとまた銃弾が右方向に私に追いついてくるので、私は左斜め前へ方向転換をし、また20メートルほど進む。
あと60メートルのところでロボットは私の移動を見て学習したのか、ガトリングの横移動を一旦やめ、通路中心にに射線を固定し、私を待ち構えた。
私はスライディングで私の頭ほどの高さの射線を避け、また床を蹴って加速しつつ走り出し、それから左から右へと方向転換を行った。
それからまた20メートル程走り、あと40メートルにさしかかった所で、銃弾の射線が私の脛ほどの高さに変わり、再び私を待ち構えた。
私はそれをジャンプで避け、その勢いのまま更に加速し、また左へ方向転換をする。
100メートル走を完走するだけというのはまだ容易なものに感じられるが、自分に向かって銃弾が飛び続ける中、蛇行しながら、かつジャンプやスライディングなどの立体的な移動も行い、銃弾を避けつつも全速力で走り続けるというものは困難なものに感じられた。
そんな移動を繰り返しながらあと10メートルの地点にさしかかった。そこからはちょうど2階部分が射線を隠し、2階部分の床に当たるだけで私に銃弾があたらない。
だが一番問題なのはどうやって2階部分に飛び乗るのかについてだった。2メートルほどならかつて本で読んだバスケットボールとやらのダンクシュートのごとくつかまり、それから勢いに任せて体を上方に持ち上げればいいのだが、上に飛んだ瞬間、空中に一旦浮き、それで隙を与えてしまい、銃弾に当たるおそれがある。
ロボットから1、2メートルほどしかない距離でガトリングの猛攻を受けることに関してはおそろしすぎて想像もしたくない。
そしてついに段差部分にさしかかる。
私は壁ぞいに移動し、跳び上がって2階部分の床につかまり、そのままこの勢いで一気に2階まで上昇する。
頂点で浮いたタイミングで左の壁を蹴り、銃弾の嵐を避けた。
私の顔をかすめたが、ギリギリあたらず危機一髪であった。
切ったばかりだったというのにその髪すら切れてしまうほどの距離だったので、寒気が一気に体を走り、息が止まった。
私は2階に着地すると、左から右へと一気に床を蹴り、右の壁に駆けた。さすがにこの距離ではいくら俊敏性に欠ける大型戦闘用ロボットのガトリングでも、一瞬でも気を抜けば銃弾が体を貫きそうな恐怖心が私を襲っていた。
私は走りながら、あらかじめ用意していたブレスレットを右の壁にあるパネルにかざし、すぐに通り過ぎた。
するとパネルの画面は一瞬で極彩色のノイズに覆いつくされてしまった。
リストバンドとは別につけていたブレスレットには、かつて本で読んだ、絵やマークにデータを読み込む、バーコードやQRコードと呼ばれていたものを再現し、それを絵に仕組み、隠したものだ。ただの絵ならそれにエネルギーや燃料も使う事がなく資源にも優しいし、ブレスレットほどのコンパクトで軽量なものにできるし、リストバンドと同じ腕につける事ができるのだ。しかも絵の描いてあるブレスレットというだけなら装飾品として許され、何も怪しいものがないように見られるため、禁制品にもならない。
絵の中に隠されたウイルスのコードをパネルの機器が読み込むとその機器は一瞬にしてウイルスに感染し、システムの主導権がなくなるという仕組みになっている。
これでこの空間のシステムの主導権は私のものになったのだ。
私はこの2階の空間の幅を6メートル、奥行きを25メートル広げ、一気にこの空間を広くする。今私がいる2階の空間は、元は幅4メートル奥行き5メートルの狭い袋小路だったが、今は合計幅10メートル奥行き30メートルの広い空間に変わっている。
そして空間の奥行きが広がったため、もともとあったロボットと私を隔てていた壁もなくなり、ロボットが姿を現した。やはり正体は大型戦闘用ロボットであった。
これならいける。
私はロボットが振り向く前に一気にロボットの背後に回り、15メートル程離れた空間から銃弾を放つ。
バン!!!
私はロボットの爆発に巻き込まれないよう、またロボットから10メートル程離れた位置に走って移動した。
私の背後ではピカッと閃光が光ったかと思えば、おそろしいほど大きな爆発音が私の鼓膜と周りの空間をうるさく震わせた。
ドカーーーーーーーーーンッッッッッッ!!!!!!
先程私が走っていた背後わずか15メートルの場所は、爆発で壊れてしまったのか、空間の歪みを更に歪ませ、ノイズとともに散って、物理的な爆発の干渉のせいか更に空間が広がり、がれきとノイズだらけのバグった場所となっていた。
おそらくロボットは半径10メートル程の範囲を焼き尽くしていったのだろう。おそらくその向こうにいるフィシャは爆発にもそれにより起こったと思われる空間のバグにも飲み込まれず、無事で済んでいるのだろう。
私は横にある端末を操作して、フィシャのいる空間をここにワープさせた。
「さっき何が起こっていたんだ...?お前がすぐいなくなったと思えば向こうで爆発が起こるし...私はここに飛ばされるし...」
「アハハ、驚きましたか?すごいでしょ、私のマジックですよ。」
私は得意気になって、フィシャに向かって微笑んだ。
「チェッ...どーでもいいぜ...」
彼女はむすっとして向こうを向いた。やはりもともと敵対していた私達とはまだ打ち解けられそうになさそうであった。まぁあんな事をされては仕方ないだろう。
今はとりあえず一段落つき、なんとか落ち着けそうな状態であったので、通信をスタートさせ、他のイリーアとミサのロボットCeLEr-003足止めグループ、ドクディス一人の要塞偵察グループの2つのグループに対し、通信を開始させ、それぞれのグループにやるべき事を伝えた。
これから通信可能である15分間で、私達はシステム管理室に到達し、そこを制圧して機器をハッキングし、時間を遅くしてそれを2つのグループに伝えなければいけない。
私は一回深呼吸をして気を落ち着かせ、いまだむすっとしているフィシャと共にここを出発した。
なぜあえて先回りするのかというと、できるだけ早く侵入してしまったほうが先程軍人が戦えと言っていた相手の軍隊の準備もまだ不十分で、比較的後に来るよりも襲撃してくる軍隊やロボットも少なく、また、他の囚人の利害の不一致等によるドンパチにも巻き込まれずに済み、私達の作戦に邪魔が入りにくいからだ。
それにより早く行動し、できる限りの安全の確保もしていなければ、他のメンバーにも指令を出しにくいだろう。
時々銃弾が飛んでくることもあるが、それは仕方のないことだと思いつつ、後ろに続いているフィシャの様子を見ながら走り続けた。
私達は囚人達が走っていくであろう真っ正面とはまったく別の、左端の壁に沿ってひっそりと移動している。
フィシャは私の事を不思議な目で見ていたが、銃弾を避けるのに必死なせいか私に質問できないでいる様子であった。
それにしても彼女も哀れですね...上の者の命令に従っただけであってそれを考えたのはあなたではないのに...
だがまあそれも仕方ないのだろう、この無法者の世界では、ただでさえ資源の少ない荒れた人工の新天地で、生き残るためには略奪もいとわないと無法者の世界に入ったのだから。それなりの力や知識がなければ一人ではこの人工の新天地では生き残ることはできないし、たとえ力や知識があったとて、いつ突然ロボットに襲われたり、資源が枯渇してしまうのかもわからないのだ。
何かに所属したり、誰かが治め管理している比較的安全な地域にいなければ、この日生き残るのすら難しい世界なのだ。
私はそんな事を思いながら銃弾をかわし、走り続ける。
しばらく走ると下に向かう階段があり、その前には「KEEP OUT」という文字と共にドクロマークが書かれたホログラムの画面が真っ赤に光りながら浮かんでいた。
だが、なぜそんなにもあからさまに隠したいものをそうやって「隠していますよー!」といわんばかりにアピールしているのだろうか。私はそんな事に呆れさえおぼえていた。まぁ、それが見破れたとしてむやみに立ち入れば即座にバレて命が奪われる事は明らかだ。しかしその突破方法さえ理解し、それを実行できさえすればより深い、相手の抱える秘密に近づけるのだ。
それは結局人間の心も人間が作るシステムもかわらないし、私がこれまで色んな所でイリーア達のチーム所属スパイとして情報を引き出せていたのも、結局はそんな考え方でなんとかなっていたのだ。
どんな攻撃的な無法者や、考え方が複雑そうな無法者以外の人間だって、その奥底にある仕組みさえ理解できてしまえば、相手は交渉に折れて承諾してくれるものなのだ。それはシステムや機械も変わらない。
私は横にある柵の、出っ張っている部分に隠されたスイッチを押すと、キーボードらしきパネルが出てきたので、私はあらかじめ調べていたコードをそこに打ちこんだ。
「ようこそ管理者様、コードを確認できましたのでお進みいただけます。」
パネルが消え、機会音声が私達にそう言った。
私達が階段を降りると、一見行き止まりのような黒い空間に出て、後ろにあった通路のゲートも閉じ、真っ暗になってしまった。
おそらくそれを知らない者だったら突然閉じ込められた事に気をおかしくしてしまうだろう。
だが、私はその突破方法を知っている。
私はこの要塞の仕組みや空間のコントロールシステムを把握しているので、この空間が形成される事もあらかじめ知っていたのだ。
私は横にある空間に触れ、隠されたへこみの部分を押すと、壁が光りパネルが表示された。
私はパネルを操作し、この黒い空間を動かした。
フィシャは今起こっていることにとまどいを感じているのか、ぽかんと口を開けながら唖然としていた。
「やはり罠でしたか。」
私は空間を操作できる事はできたが、一本道で、その壁の向こうの穴から、ロボットの銃部分とみられるものが飛び出ているだけあり、その形にする事しかできなかった。
おそらく私の前に引いてある線を越えれば狙われ、やられてしまうだろう。
何も知らなければこのまま前に進むか、ここにずっといて気がおかしくなった所を捕らえられるしか選択肢はないのだろう。
おそらく私がシステムをハッキングした事は向こうにもバレているだろう。
だが、私はなんとかしてここのシステムを把握できているので、この状況になれば何をしてくるのかすら明らかであった。というか元々は囚人として捕まる前もこの要塞に侵入した事はあるし、なんならそれを管理する職員の一員を装った事すらある。囚人として捕まったのも結果的にこの要塞内部を囚人視点から把握し、突破方法を明確にしてからイリーアに伝えるためであった。
最初はしくじって捕まり、それから要塞に送られるなんて事も想定外で、私も一時ヤバいと思ったが、その要塞がこことわかればまぁ結果的に良かった。元々イリーアを救出するという目的があってそれを遂行する事はできてるんだし。
おそらく相手はある権限のもとでシステムにアクセスし、それで空間を操っているのだろう。わけのわからない空間に閉じ込められてしまうリスクもあるが、なんなら機械を壊してバグらせるなんて手もあった。
だが、そんな事をしてしまいしくじったら、下手するとずっと変な空間に閉じ込められる可能性があるので、正攻法でいくことにした。まぁバグった空間すらコントロールするといった実験も耳にした事はあったが、成功した事例は聞いた事はない。
私はパネルに用意していたウイルスをインストールし、端末をハッキングする。そうする事でバグらせなくともシステムを突破する事は可能だ。
すると一本道である事は変わらなかったが、横の空間が1.5メートルから4メートルと広くなり、また天井が高くなり、銃口が飛び出た穴も私達から3.5メートル程上方に移動した。また、その銃口の前の空間は2メートル程の段差になっており、なんとか縁につかまり、飛び乗れば2階部分へ行けそうであった。
よし、これならいける。
「フィシャさん、あなたはこの線から前には行かず、射程外の安全地帯で待機願います。」
私は困惑するフィシャを背に、進み始めた。
銃弾は私の斜め前方の上から絶え間なく降り続けているが、それには残像があり、蛇行して走っていればなんとか避けられそうであった。しかし、この空間は広がったとはいえ幅4メートルしかない一本道なので、なんとかジャンプやスライディングで上下移動をし、銃弾の射線上にあたってしまわないように尽力する必要があった。もし一直線に射線上をまっすぐ走っていては一瞬でやられてしまうだろう。
私はそんな性質をみるに、壁の向こうにいるのは大型戦闘用ロボットだと推測できた。大型とはいえ比較的量産しやすく、安価な工場の床や壁を加工して作れるロボットであり、多くの国の軍隊で使われているというのを聞いたことがある。難点としては、安価な燃料を使っていて、かつ外装もそこまで頑丈ではないので、燃料タンクに銃弾をぶつけてしまえば燃料の暴発により中から爆散してしまう事であった。その難点を補うために高速かつ強力に銃弾を撃ち続けられるガトリングを取り付けている訳なのだが、俊敏性に乏しく、ガトリングの向きを変えるのもロボットの中では比較的遅いほうなので、素早く、四方八方に避けられる敵に対しては、一直線上に対峙していない限り倒せてしまうのだ。しかも、大量の銃弾を一気に放っているので銃弾の残像があり、それがはっきりと見えているのでそれを避ければいいのであった。
射程は100メートル、要するに命がかかった短距離走と考えればわかりやすいだろう。
私は床を全力で蹴り、風を切って走り始めた。
それと同時にロボットも銃弾を発し始めた。
私は、最初の銃弾を右斜め前への移動で避け、そのまま20メートル進む。するとまた銃弾が右方向に私に追いついてくるので、私は左斜め前へ方向転換をし、また20メートルほど進む。
あと60メートルのところでロボットは私の移動を見て学習したのか、ガトリングの横移動を一旦やめ、通路中心にに射線を固定し、私を待ち構えた。
私はスライディングで私の頭ほどの高さの射線を避け、また床を蹴って加速しつつ走り出し、それから左から右へと方向転換を行った。
それからまた20メートル程走り、あと40メートルにさしかかった所で、銃弾の射線が私の脛ほどの高さに変わり、再び私を待ち構えた。
私はそれをジャンプで避け、その勢いのまま更に加速し、また左へ方向転換をする。
100メートル走を完走するだけというのはまだ容易なものに感じられるが、自分に向かって銃弾が飛び続ける中、蛇行しながら、かつジャンプやスライディングなどの立体的な移動も行い、銃弾を避けつつも全速力で走り続けるというものは困難なものに感じられた。
そんな移動を繰り返しながらあと10メートルの地点にさしかかった。そこからはちょうど2階部分が射線を隠し、2階部分の床に当たるだけで私に銃弾があたらない。
だが一番問題なのはどうやって2階部分に飛び乗るのかについてだった。2メートルほどならかつて本で読んだバスケットボールとやらのダンクシュートのごとくつかまり、それから勢いに任せて体を上方に持ち上げればいいのだが、上に飛んだ瞬間、空中に一旦浮き、それで隙を与えてしまい、銃弾に当たるおそれがある。
ロボットから1、2メートルほどしかない距離でガトリングの猛攻を受けることに関してはおそろしすぎて想像もしたくない。
そしてついに段差部分にさしかかる。
私は壁ぞいに移動し、跳び上がって2階部分の床につかまり、そのままこの勢いで一気に2階まで上昇する。
頂点で浮いたタイミングで左の壁を蹴り、銃弾の嵐を避けた。
私の顔をかすめたが、ギリギリあたらず危機一髪であった。
切ったばかりだったというのにその髪すら切れてしまうほどの距離だったので、寒気が一気に体を走り、息が止まった。
私は2階に着地すると、左から右へと一気に床を蹴り、右の壁に駆けた。さすがにこの距離ではいくら俊敏性に欠ける大型戦闘用ロボットのガトリングでも、一瞬でも気を抜けば銃弾が体を貫きそうな恐怖心が私を襲っていた。
私は走りながら、あらかじめ用意していたブレスレットを右の壁にあるパネルにかざし、すぐに通り過ぎた。
するとパネルの画面は一瞬で極彩色のノイズに覆いつくされてしまった。
リストバンドとは別につけていたブレスレットには、かつて本で読んだ、絵やマークにデータを読み込む、バーコードやQRコードと呼ばれていたものを再現し、それを絵に仕組み、隠したものだ。ただの絵ならそれにエネルギーや燃料も使う事がなく資源にも優しいし、ブレスレットほどのコンパクトで軽量なものにできるし、リストバンドと同じ腕につける事ができるのだ。しかも絵の描いてあるブレスレットというだけなら装飾品として許され、何も怪しいものがないように見られるため、禁制品にもならない。
絵の中に隠されたウイルスのコードをパネルの機器が読み込むとその機器は一瞬にしてウイルスに感染し、システムの主導権がなくなるという仕組みになっている。
これでこの空間のシステムの主導権は私のものになったのだ。
私はこの2階の空間の幅を6メートル、奥行きを25メートル広げ、一気にこの空間を広くする。今私がいる2階の空間は、元は幅4メートル奥行き5メートルの狭い袋小路だったが、今は合計幅10メートル奥行き30メートルの広い空間に変わっている。
そして空間の奥行きが広がったため、もともとあったロボットと私を隔てていた壁もなくなり、ロボットが姿を現した。やはり正体は大型戦闘用ロボットであった。
これならいける。
私はロボットが振り向く前に一気にロボットの背後に回り、15メートル程離れた空間から銃弾を放つ。
バン!!!
私はロボットの爆発に巻き込まれないよう、またロボットから10メートル程離れた位置に走って移動した。
私の背後ではピカッと閃光が光ったかと思えば、おそろしいほど大きな爆発音が私の鼓膜と周りの空間をうるさく震わせた。
ドカーーーーーーーーーンッッッッッッ!!!!!!
先程私が走っていた背後わずか15メートルの場所は、爆発で壊れてしまったのか、空間の歪みを更に歪ませ、ノイズとともに散って、物理的な爆発の干渉のせいか更に空間が広がり、がれきとノイズだらけのバグった場所となっていた。
おそらくロボットは半径10メートル程の範囲を焼き尽くしていったのだろう。おそらくその向こうにいるフィシャは爆発にもそれにより起こったと思われる空間のバグにも飲み込まれず、無事で済んでいるのだろう。
私は横にある端末を操作して、フィシャのいる空間をここにワープさせた。
「さっき何が起こっていたんだ...?お前がすぐいなくなったと思えば向こうで爆発が起こるし...私はここに飛ばされるし...」
「アハハ、驚きましたか?すごいでしょ、私のマジックですよ。」
私は得意気になって、フィシャに向かって微笑んだ。
「チェッ...どーでもいいぜ...」
彼女はむすっとして向こうを向いた。やはりもともと敵対していた私達とはまだ打ち解けられそうになさそうであった。まぁあんな事をされては仕方ないだろう。
今はとりあえず一段落つき、なんとか落ち着けそうな状態であったので、通信をスタートさせ、他のイリーアとミサのロボットCeLEr-003足止めグループ、ドクディス一人の要塞偵察グループの2つのグループに対し、通信を開始させ、それぞれのグループにやるべき事を伝えた。
これから通信可能である15分間で、私達はシステム管理室に到達し、そこを制圧して機器をハッキングし、時間を遅くしてそれを2つのグループに伝えなければいけない。
私は一回深呼吸をして気を落ち着かせ、いまだむすっとしているフィシャと共にここを出発した。
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