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猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (20)

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もうすっかり昼を示す太陽代わりの人工の光の明かりが消え、夜も遅くなっていた。
このテントでは今日俺が救出した、「人工の新天地」で倒れていたカンフィナという女性が寝ており、起きているのは俺だけだった。
親父は今頃大丈夫なのだろうか。
俺の頭の中では、漠然としているが、とてつもなく大きな不安が支配していた。
おそらくエネルギーを補給するために「機械の国」に向かっており、途中でエネルギー不足により動けなくなってしまうのではないかという心配もあったが、もうひとつ、それ以上におそろしい事が起こってしまう予感がしていた。
なので全く眠る事ができなかった。テントの外にはは攻撃的なロボットが闊歩していたり、「時の狭間」による健康被害も防ぐため、眠れる時は眠らないと肝心な所で命の機器に直面してしまう。
だが、私の中にあるおそろしい感情はどうしても消えてくれなかった。

いままでどれほどの時が過ぎたのだろうか
たった一夜だというのにとてつもなく長い時間のように思える。
俺はただひたすらに夜が明けるのを待ち続ける。何かできることがあれば今すぐ親父の所に行って助けに行きたい所だが、ここから「時の狭間」に生身の人間が行くには、特別な注射を刺さなければいけなく、それは安いとは決して言えない貴重かつ重要なものだった。
しかもそれは、今俺が「機械の国」に帰還するために用意したひとつしか残されていない。
ここを離れれば、俺はこのテントには戻ってこれないし、カンフィナに対しても、せっかく助けて一夜の安全を保障したのに、ここでとんずらをこかれては、無責任にも程があるだろう。

ただこのおそろしい沈黙の中、眠る事もできずただ俺は待ち続けていた。

バサッ

今確かにテントの入り口からテントの戸が開く音がした。
声をかけず入ってきたことに俺は一瞬無法者の侵入を警戒したが、そこには確かに生きてここに立っている、親父の姿があった。
「親父っ...!よかった...!」
俺は親父に駆け寄った。だが、親父は先程ここを出発した時とは違う。異様な雰囲気をまとっていた。
だが、ここにいるのは確かに親父の姿だ、だが、ここには親父はいない気がする。矛盾しているが、どうしてもそれを疑うことをやめられず、ここにいる人物が親父だといいきる事ができていない。
「ただいま、ザック」
だが、穏やかな親父の声を聞くと、今はそんな事をおいておこうと思えた。今ここに、確かに親父は生きている。
開いたテントの入り口からは、かすかに太陽代わりに作られた人工の朝日が、帰還した親父を照らすように差していた。

ーーーーーーーーーーー

「ふわあ~おはよお~う...ございます!!!」
私は目を覚まし、寝ぼけていたのかいつも通りの情けない声を出してしまい、とてつもなく恥ずかしい気分になり、急いで口調を変えた。
「あはは、別に気を遣わなくていいんですよ、おはようございます。」
テントの個室の戸から、クレッチュマー博士の声が聞こえた。
私が個室から出ると、クレッチュマー博士の事を怪しげな顔で見つめているザックの姿があった。クレッチュマー博士はサイボーグだしかぶりものもしているので寝癖なんてつかないと思うし、そもそも起きてここから外出していたはずだ。何かがついているようでもないし、何がザックをそんな顔にしているのだろうか。
「...あっ!おはようさん!」
ザックは私が起きた事に気づいたのか、慌てて返事を返した。

「クレッチュマー博士さん!ザックさん!昨日は泊めてくれてありがとうござ...」
「突然ですが、私から話があります。」

私が身支度と出発する準備をし、クレッチュマー博士とザックに泊めてもらった礼を言おうとした時、突然クレッチュマー博士がそう言って私の話をさえぎった。

クレッチュマー博士の口調には緊張感があり、私とザックは息をのみ、その話を聞くことにした。

「これから私達は、とある要塞へ行きます。」
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