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猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (17)

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強い恐怖が全身を駆け巡り、寒気がした。

機械でできた四肢が外れてしまった私は、この場に横たわりながら、私の元に現れた覆面の人物に翻弄されることしかできなかった。

先程テントを去った時、ザックは私の事を心配しているような口調で何かを訴えていたな...
私はそんな事を思い出し、後悔していた。
なぜあの時、彼の言うことに耳を貸さなかったのだろうか。

「私達はこの前あなたが侵入しようとした、ロスクムの実験の試験場、私達はその試験場の技術面での整備を行っているハッカーってわけだ。まぁ、あと私達が言いたいことはわかるな?」
私の前にいるその人物は、私を見下してそう言った。

私にはその事に確かな心あたりがあった。

その試験場には、コルートという国が通信技術の研究に使っている試験装置があり、その試験装置はコルートの研究員の悪意の伴った改造が、「時の狭間」という危険な空間の発生や、それによる伝染病の拡大、また、ロボットの暴走の元凶となっており、コルートはその試験場で他国に様々な悪影響を与えている。
この前開かれた同盟国会議で表向きではそう公表されていたが、研究者である私にとって、どうしてもつじつまがあわなかった。
確かに試験場付近には「時の狭間」同等もしくはそれ以上の大きな空間の歪みが観測されており、その歪みは誰もを遠ざけており、誰もこの試験場に近づけていない。
無人の状態で遠隔でロボットを通して研究が続けられているらしい。
おそらくコルートの研究員もいないだろう。

そこで空間及び時空の歪みによる影響を受けないサイボーグの私は、実際に試験装置の場所に行ってみることにしたのだ。
そして、私は、明らかな異変を見つけた。
それは、その装置には、今まで私達が見たことのない、特殊なプログラムが仕込まれており、暗号になっていた。
私は何日もかけてそれを解読するのに力を尽くした。
そして見つけたのだ。

かつて我々が住んでいた星、アケラに戻るためのロケットの研究のデータを。
ただ戻るだけではなく、100年前のアケラへ行き、過去の世界で様々な影響を与えるための計画。

また、そのデータには、その実験はギジャグという国がロスクムに指示し、その上で行われているものと書いてあった。
ロスクムという国の首相がコルートの首相の悪行を暴いたと報道されていたが、それは真っ赤な嘘で、実際はギジャグとロスクムが協力し、100年前のアケラに戻るための研究で起こってしまった悪影響を、コルートになすりつけていたのだ。

だが、私がそれを見破った事もまた、向こうに知られてしまったのだ。
そして私は今、ロスクムのハッカー達に拘束され、彼らに見下ろされている。

私は事前に試験場のセキュリティに関して、機械の国の技術を徹底的に駆使して解析し、試験場のセキュリティをハッキングして、試験場にいるロボットも私を攻撃しないようにした。
だが、やはりロスクムは我々の上をいく技術をもっており、その事も全部知られていたのだ。
私はまんまと彼らの罠にはまってしまっていたのだ。

しばらく私は視界を遮られ、何も見る事ができなかった。
私が再び周りを見ることができたのは、薄暗い手術室のような場所だった。
おそらく仮面に覆われた顔をさらに袋で覆って視覚を遮り、アジトを特定されないようにしていたのだろう。
私は手術台に横たわっている。
私の手前には覆面の人物が座っており。その奥には様々な装置やモニターが無造作かつ複雑に組まれており、そこから伸びるコードの数々は、私の体につながれている。

「お前はこれから私達の操り人形になるんだ。要するにお前は私達にハッキングされる。」
覆面の人物は私に無慈悲にもこう告げる。

「私達はお前にカメラを仕込み、お前の事をずっと監視していた。だが、どうして顔が機械ではなかったのかが疑問だがな。目がカメラでできていればお前の視覚にも直接干渉できていたんだが...」

「.........」
私は絶望のあまり何も声に出す事ができなかった。
あの時からすべて知られていたのだ。

「これからお前はギジャグの軍が管轄している、要塞に行ってもらう。監獄の囚人たちがこれからその要塞で戦うことになる。そこでお前には監獄の囚人のひとりであるコルートの首相、ミサの命を奪ってもらう。」
ミサはテントで会ったカンフィナという女性の相棒だ。
カンフィナはミサの事を探していて、彼女をとても大事に思っている。

「おそらくお前の息子、ザックもついていく事になるだろうな。」
覆面の人物は淡々と話を続ける。

私はそれに対し、何もすることができず、その話を震えながら聞くことしかできなかった。

私は息子のザックや、カンフィナ、ミサを救えず、ましてや彼らを戦地に赴かせ、ミサに至っては私の手で命が奪われることになってしまったのだ。

「もうすぐできます、No.001様。」
奥の覆面の人物が、手前の覆面の人物にこう言った。

奥のモニターに映されたプログレスバーは、もう間もなく埋まろうとしていた。

「やめろ...やめてくれ...」
私はそう言う事しかできなかった。
そうして私は眠りに落ちた。

「操り人形になる前の最後の台詞が命乞いとは、無様なものだな。」
うすれゆく意識の中で、覆面の人物の変声器によってやたらと低くなった声が、私の耳に響き渡った。
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