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第3話
第3話 出発 (16)
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「ヴォルフって...ゲガスのチームの一員じゃねえかよ...マジかよ...」
イリーアは途方に暮れた様子でそう言った。
ゲガスという者の事は、私も知っている。
200年前、私達が研究所を逃げ出そうとしていた時、私の事を撃った男だ。
だが、なぜか彼に関する記憶がそれしか残されていない。
きっと重要なことだったのだろう。なのになぜ私は思い出せないのだろうか。
あのときゲガスが私の事を撃ったのには何か因縁があったからなのかもしれない。
女性の話によると、彼は今、無法者のチームのひとつである、「ヴォルフ」という勢力のボスらしい。
イリーアがゲガスの事を知っている事には驚いた。
イリーアとゲガスはどんな仲だったのだろうか。
「じゃあ要するによー...オレ達のチームと対立してるヴォルフがオレ達についに牙を剥いたって事だなーっ...困ったぜー...」
イリーアはそう言った。
イリーア達のチームで脱獄を企てている所なのに、そこにゲガスの勢力とのいざこざが関わってくると、さらに面倒な事になるかもしれない。
幸い脱獄に隔たりはなかったとしても、脱獄に成功した後も、イリーア達のチームにはゲガスの魔の手に追われる羽目になってしまう。
だがなぜそもそもイリーアのチームとゲガスのチームは対立しているのだろうか。
私はその事を気になったが、イリーアも過去にいろいろあった事だろうし、そのことを聞いて辛い過去を思い出させ、彼女を傷つけさせるのは避けたいので、むやみに聞かないようにしようと思った。
「じゃあよー、なんでミサの事を脅してたんだー?」
イリーアは質問を続けた。
「それは...私はあまり詳しく聞いていない...だが、ミサは重要人物であり、今日軍人にミサが連れて行かれていたのにも理由があって、何か話をしていたのかもしれないって言われた。だから私はチームの一員にミサを脅し、情報を集める事を命じられていて、それを行ったまでだ...」
「それは本当かー...何か隠している事はねぇんだろうなー」
イリーアは銃を握りしめ、フィシャに問い詰める
「それはない...すまない...」
フィシャは震えた声でそう言った。
「自由時間は終わりだ、これから週に1度のシャワーの時間だ、男女分かれて我々についてくるように。」
「もう終わりかー。まぁいい、一時退散するぜー。」
部屋の外から看守の声が聞こえ、イリーアは尋問を終わらせることにした。
私達はフィシャを一旦解放することにした。
「この首輪は常にあなたを見ています。シャワーの時間以外に外したり、私達のチームにとって不利益な行為を働くとすぐにわかりますのでお気を付けください。」
リディグがフィシャに向かって丁寧で冷静ではあったが威圧的に、そう言って立ち去った。
フィシャは恐ろしさで震えていて、足取りがおどおどしている。私が彼女を支えてあげようと近寄ったが、イリーアに制止させられてしまった。
「ここは無法者の世界だー...もし情けなんてかけたらそれにつけこまれて恐ろしいことになるぜー...」
イリーアは小声で私の耳元でこう言った。
私達は女看守に連れられ、一旦シャワー室に行くことになった。
チームの男たちとは一旦別れ、私とイリーアで一緒に行動している。フィシャはまだ警戒対象なので、私達とは距離を置きつつ、それでも囚人が一斉に団体行動する場ではあったので、仕方なく他の囚人にまみれて私達の後ろを歩いていた。
きっと前を歩いていれば、イリーアに対して無礼なのかもしれない。私は噂で、無法者の世界では目上の者の前を歩くのは無礼だと聞いた事がある。
「今日はいろいろあったけどよー、シャワー浴びてすっきりしよーぜー。」
イリーアは私に向かって微笑んで言った。
そもそも何でこの「人工の新天地」で、大勢の囚人が7日に1度もシャワーを浴びることができる量の水、そしてそれをお湯にするだけのエネルギーを用意できるのだろうか。
おそらく、この監獄を管理している軍は、最初から囚人達を戦地で戦わせるため、生きる為に必要な食料、それと身体を健康かつ清潔に保つためのシャワーの水を提供していると私は考えた。
もしそれが事実だったら、いくら囚人とはいえ、彼らの罪は様々であり、司法によって公平に裁かれるべきなのに、それが全くなく、全員を戦地に赴かせ、生死の保障はないし、生きて帰ってきたとしてもこの監獄にまた戻って来て、またしばらくすると再び戦場に連れていこうとしているのだろう。
そう思うと軍人や看守たちが、自分達を家畜のように飼い慣らし、そして彼らの良い様に使う、非人道的な恐ろしい存在に思えてきた。
私は監獄の廊下を歩きながらそんな事を想像し、思わず身震いをしてしまった。
「お前ー大丈夫かー?今日は7日に1度のシャワーを浴びれるいい日なんだぜー?」
イリーアは私を心配そうに見て言った。
「ああ、すまない...大丈夫だ...」
私は微笑み、イリーアを安心させようとした。
イリーアはあんなに良い人なのに、無法者のトップで、なぜ監獄に囚われているのだろうか。
きっと何か理由があるのだろう。
私達は看守に通され、脱衣所で脱衣とボディチェックを済ませた後、シャワー室に入った。
銃は先程尋問をしていた部屋に置いてきたので、おそらく大丈夫だろう。
フィシャが首輪をしているので心配になったが、リディグが優秀なのか、それは一見アクセサリーに見えるものであり、女看守は一瞬疑う目をしていたが、イリーアが振り返り看守と目を合わせると、慌ててフィシャを通した。
「この女看守はこの監獄の看守でもまだルーキーだから、オレには逆らえないんだぜー。すげーだろ。」
イリーアは得意そうに私に言った。
ある階級以上の看守や軍人でなければ、無法者のチームのトップであるイリーアに逆らう事はできないそうだ。
いやいや、イリーアちゃんってホントに一体何者なの...
私はそう思いながら、イリーアと共にシャワー室に入った。
シャワー室には仕切りがなく、プライバシーはあまり守られていないようであったが、会話はしやすそうだった。
「オレ、お前の隣なー。」
私がシャワーを浴びようとすると、イリーアは私の隣に移り、ハンドルを回し、シャワーを浴び始めた。
私もすかさずシャワーを浴びることにした。
ハンドルを回すと勢いよく温かいお湯が全身を濡らした。それがものすごく心地よく、疲れが洗い流されるようだった。
この世界では水も貴重なので、なかなかシャワーなんて浴びれない。
かわりに体を拭いていたりしたが、やはりシャワーは格別だ。
「ふえー...いい湯だなー...」
イリーアは心地よさそうにそう言った。
その声には今までの緊張感や威圧感が全くなく、それらから解放された喜びがあふれているようだった。
私はその姿を見て再び決心した。
イリーアと共にこの監獄を脱獄し、彼女の負担を少しでも軽くできるように力を尽くそうと。
イリーアは途方に暮れた様子でそう言った。
ゲガスという者の事は、私も知っている。
200年前、私達が研究所を逃げ出そうとしていた時、私の事を撃った男だ。
だが、なぜか彼に関する記憶がそれしか残されていない。
きっと重要なことだったのだろう。なのになぜ私は思い出せないのだろうか。
あのときゲガスが私の事を撃ったのには何か因縁があったからなのかもしれない。
女性の話によると、彼は今、無法者のチームのひとつである、「ヴォルフ」という勢力のボスらしい。
イリーアがゲガスの事を知っている事には驚いた。
イリーアとゲガスはどんな仲だったのだろうか。
「じゃあ要するによー...オレ達のチームと対立してるヴォルフがオレ達についに牙を剥いたって事だなーっ...困ったぜー...」
イリーアはそう言った。
イリーア達のチームで脱獄を企てている所なのに、そこにゲガスの勢力とのいざこざが関わってくると、さらに面倒な事になるかもしれない。
幸い脱獄に隔たりはなかったとしても、脱獄に成功した後も、イリーア達のチームにはゲガスの魔の手に追われる羽目になってしまう。
だがなぜそもそもイリーアのチームとゲガスのチームは対立しているのだろうか。
私はその事を気になったが、イリーアも過去にいろいろあった事だろうし、そのことを聞いて辛い過去を思い出させ、彼女を傷つけさせるのは避けたいので、むやみに聞かないようにしようと思った。
「じゃあよー、なんでミサの事を脅してたんだー?」
イリーアは質問を続けた。
「それは...私はあまり詳しく聞いていない...だが、ミサは重要人物であり、今日軍人にミサが連れて行かれていたのにも理由があって、何か話をしていたのかもしれないって言われた。だから私はチームの一員にミサを脅し、情報を集める事を命じられていて、それを行ったまでだ...」
「それは本当かー...何か隠している事はねぇんだろうなー」
イリーアは銃を握りしめ、フィシャに問い詰める
「それはない...すまない...」
フィシャは震えた声でそう言った。
「自由時間は終わりだ、これから週に1度のシャワーの時間だ、男女分かれて我々についてくるように。」
「もう終わりかー。まぁいい、一時退散するぜー。」
部屋の外から看守の声が聞こえ、イリーアは尋問を終わらせることにした。
私達はフィシャを一旦解放することにした。
「この首輪は常にあなたを見ています。シャワーの時間以外に外したり、私達のチームにとって不利益な行為を働くとすぐにわかりますのでお気を付けください。」
リディグがフィシャに向かって丁寧で冷静ではあったが威圧的に、そう言って立ち去った。
フィシャは恐ろしさで震えていて、足取りがおどおどしている。私が彼女を支えてあげようと近寄ったが、イリーアに制止させられてしまった。
「ここは無法者の世界だー...もし情けなんてかけたらそれにつけこまれて恐ろしいことになるぜー...」
イリーアは小声で私の耳元でこう言った。
私達は女看守に連れられ、一旦シャワー室に行くことになった。
チームの男たちとは一旦別れ、私とイリーアで一緒に行動している。フィシャはまだ警戒対象なので、私達とは距離を置きつつ、それでも囚人が一斉に団体行動する場ではあったので、仕方なく他の囚人にまみれて私達の後ろを歩いていた。
きっと前を歩いていれば、イリーアに対して無礼なのかもしれない。私は噂で、無法者の世界では目上の者の前を歩くのは無礼だと聞いた事がある。
「今日はいろいろあったけどよー、シャワー浴びてすっきりしよーぜー。」
イリーアは私に向かって微笑んで言った。
そもそも何でこの「人工の新天地」で、大勢の囚人が7日に1度もシャワーを浴びることができる量の水、そしてそれをお湯にするだけのエネルギーを用意できるのだろうか。
おそらく、この監獄を管理している軍は、最初から囚人達を戦地で戦わせるため、生きる為に必要な食料、それと身体を健康かつ清潔に保つためのシャワーの水を提供していると私は考えた。
もしそれが事実だったら、いくら囚人とはいえ、彼らの罪は様々であり、司法によって公平に裁かれるべきなのに、それが全くなく、全員を戦地に赴かせ、生死の保障はないし、生きて帰ってきたとしてもこの監獄にまた戻って来て、またしばらくすると再び戦場に連れていこうとしているのだろう。
そう思うと軍人や看守たちが、自分達を家畜のように飼い慣らし、そして彼らの良い様に使う、非人道的な恐ろしい存在に思えてきた。
私は監獄の廊下を歩きながらそんな事を想像し、思わず身震いをしてしまった。
「お前ー大丈夫かー?今日は7日に1度のシャワーを浴びれるいい日なんだぜー?」
イリーアは私を心配そうに見て言った。
「ああ、すまない...大丈夫だ...」
私は微笑み、イリーアを安心させようとした。
イリーアはあんなに良い人なのに、無法者のトップで、なぜ監獄に囚われているのだろうか。
きっと何か理由があるのだろう。
私達は看守に通され、脱衣所で脱衣とボディチェックを済ませた後、シャワー室に入った。
銃は先程尋問をしていた部屋に置いてきたので、おそらく大丈夫だろう。
フィシャが首輪をしているので心配になったが、リディグが優秀なのか、それは一見アクセサリーに見えるものであり、女看守は一瞬疑う目をしていたが、イリーアが振り返り看守と目を合わせると、慌ててフィシャを通した。
「この女看守はこの監獄の看守でもまだルーキーだから、オレには逆らえないんだぜー。すげーだろ。」
イリーアは得意そうに私に言った。
ある階級以上の看守や軍人でなければ、無法者のチームのトップであるイリーアに逆らう事はできないそうだ。
いやいや、イリーアちゃんってホントに一体何者なの...
私はそう思いながら、イリーアと共にシャワー室に入った。
シャワー室には仕切りがなく、プライバシーはあまり守られていないようであったが、会話はしやすそうだった。
「オレ、お前の隣なー。」
私がシャワーを浴びようとすると、イリーアは私の隣に移り、ハンドルを回し、シャワーを浴び始めた。
私もすかさずシャワーを浴びることにした。
ハンドルを回すと勢いよく温かいお湯が全身を濡らした。それがものすごく心地よく、疲れが洗い流されるようだった。
この世界では水も貴重なので、なかなかシャワーなんて浴びれない。
かわりに体を拭いていたりしたが、やはりシャワーは格別だ。
「ふえー...いい湯だなー...」
イリーアは心地よさそうにそう言った。
その声には今までの緊張感や威圧感が全くなく、それらから解放された喜びがあふれているようだった。
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