32 / 51
第3話
第3話 出発 (15)
しおりを挟む
「お前は一体何者なんだー?」
イリーアは女性に銃口を向けて言った。
私は先程まで、逃げ場のない監獄のトイレの隅で、囚人の女性に銃を向けられ脅されていた。
そこにイリーアが後ろから跳び蹴りをして、女性を一旦気絶させた後、看守の目を盗んで、トイレの横の使われなくなった部屋に女性を運び、拘束して情報を聞き出そうとしている。
イリーアの顔は、美しくも恐ろしい、影を帯びていた。
それは睨んでいるというものではなく、ただ真顔で女性を見つめている。
だが、それこそが恐ろしいのだ。
だが、イリーアが静かな怒りを露わにしているその横顔に美しさを覚えるのだ。
バン!!!
部屋に銃声が鳴り響く。
イリーアはただ静かに女性を見下し、銃弾を女性の横の床に向かって放った。
それはどんな怒号よりも威圧的で、静かで、しかし強大な怒りを感じた。
「・・・・・」
女性はうつむいたまま何も言おうとせず、震えながら絶望の表情を浮かべ、彼女の頬には涙がつたっている。
あまりの恐ろしさに気が動転しているのだろう。
私はその女性の被害にあった側だが、今ばかりは彼女の気持ちがわかった気がした。
私がその女性側で、イリーアに問い詰められている側だと思うと、恐ろしさのあまり気を失ってしまうかもしれない。
だが、無法者達の世界は、どんな危ない事でも起こりうる事であり、その事は絶対に誰にも保障されないし、誰にも守られない。
もし自分達が、その女性の拘束を甘くしてしまうと、逃げられてしまったり、最悪の場合、武器を奪われ、私達が命の危険にたたされるかもしれない。
下手に出て穏やかに話を進めれば、かえってこちらが相手側にだまされたり、相手の話にのせられ、自分達が不利な話になる事もある。
決してその女性になめられるような態度はとってはいけないし、上下関係をはっきりとさせないと、自分や仲間達の命すらも危うい状況にしてしまう恐れすらあるのだ。
イリーアは今、そんな状況の中で、女性に向かって尋問をしているのだ。
イリーアの頬には一粒の汗がつたっている。
イリーア自身もとてつもない緊張感を感じているのだろう。
だから私は、イリーアに問い詰められている女性の恐ろしさを感じる気持ちもわかるし、自分や仲間達の命がかかった、とてつもない緊張感を感じるイリーアの気持ちもわかる。
「もし答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
女性は何も答えない。
「はぁーっ・・・わぁったよー・・・きっとお前その事言ったらお前の事使ってる奴とか、お前の所属する派閥とかチームに裏切りだと思われるんだろー?」
イリーアは女性の顔を伺いながら話を続ける。
おそらく彼女は何かの勢力に所属していて、誰かの指示によって、私の事を脅したのだろう。もしそうだとしたら、話せば元いた勢力の裏切り者になってしまう。
「オレにいい考えがあるぜー、もしお前がちゃーんとオレの質問に答えたらよーっ、オレのチームの一員にしてやってもいいぜー...だが...今までお前が所属していた勢力とはオサラバになるなー...」
「だが、答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
イリーアは女性に銃口を向け続けている。
女性は息を飲み、しばらくの間沈黙した。
ただならぬ緊張感が、この部屋に満ち、私にまで押し寄せてくるように感じた。
「わ...私は...」
女性は口を開いてそう言いかけた。
「私はフィシャ...ヴォルフに所属する一員だ...」
また少しの時間が経ってから、彼女は自身の事を打ち明けた。
「ヴォルフって...あのヴォルフなのか...?」
イリーアは彼女自身の伸びた語尾すらも忘れてそう言った。
「ヴォルフって...ゲガスのチームの一員じゃねえかよ...マジかよ...」
ゲガスという者の事は、私も知っている。
彼は私達が研究所を逃げ出そうとしている時、私の事を撃った男だ。
イリーアは女性に銃口を向けて言った。
私は先程まで、逃げ場のない監獄のトイレの隅で、囚人の女性に銃を向けられ脅されていた。
そこにイリーアが後ろから跳び蹴りをして、女性を一旦気絶させた後、看守の目を盗んで、トイレの横の使われなくなった部屋に女性を運び、拘束して情報を聞き出そうとしている。
イリーアの顔は、美しくも恐ろしい、影を帯びていた。
それは睨んでいるというものではなく、ただ真顔で女性を見つめている。
だが、それこそが恐ろしいのだ。
だが、イリーアが静かな怒りを露わにしているその横顔に美しさを覚えるのだ。
バン!!!
部屋に銃声が鳴り響く。
イリーアはただ静かに女性を見下し、銃弾を女性の横の床に向かって放った。
それはどんな怒号よりも威圧的で、静かで、しかし強大な怒りを感じた。
「・・・・・」
女性はうつむいたまま何も言おうとせず、震えながら絶望の表情を浮かべ、彼女の頬には涙がつたっている。
あまりの恐ろしさに気が動転しているのだろう。
私はその女性の被害にあった側だが、今ばかりは彼女の気持ちがわかった気がした。
私がその女性側で、イリーアに問い詰められている側だと思うと、恐ろしさのあまり気を失ってしまうかもしれない。
だが、無法者達の世界は、どんな危ない事でも起こりうる事であり、その事は絶対に誰にも保障されないし、誰にも守られない。
もし自分達が、その女性の拘束を甘くしてしまうと、逃げられてしまったり、最悪の場合、武器を奪われ、私達が命の危険にたたされるかもしれない。
下手に出て穏やかに話を進めれば、かえってこちらが相手側にだまされたり、相手の話にのせられ、自分達が不利な話になる事もある。
決してその女性になめられるような態度はとってはいけないし、上下関係をはっきりとさせないと、自分や仲間達の命すらも危うい状況にしてしまう恐れすらあるのだ。
イリーアは今、そんな状況の中で、女性に向かって尋問をしているのだ。
イリーアの頬には一粒の汗がつたっている。
イリーア自身もとてつもない緊張感を感じているのだろう。
だから私は、イリーアに問い詰められている女性の恐ろしさを感じる気持ちもわかるし、自分や仲間達の命がかかった、とてつもない緊張感を感じるイリーアの気持ちもわかる。
「もし答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
女性は何も答えない。
「はぁーっ・・・わぁったよー・・・きっとお前その事言ったらお前の事使ってる奴とか、お前の所属する派閥とかチームに裏切りだと思われるんだろー?」
イリーアは女性の顔を伺いながら話を続ける。
おそらく彼女は何かの勢力に所属していて、誰かの指示によって、私の事を脅したのだろう。もしそうだとしたら、話せば元いた勢力の裏切り者になってしまう。
「オレにいい考えがあるぜー、もしお前がちゃーんとオレの質問に答えたらよーっ、オレのチームの一員にしてやってもいいぜー...だが...今までお前が所属していた勢力とはオサラバになるなー...」
「だが、答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
イリーアは女性に銃口を向け続けている。
女性は息を飲み、しばらくの間沈黙した。
ただならぬ緊張感が、この部屋に満ち、私にまで押し寄せてくるように感じた。
「わ...私は...」
女性は口を開いてそう言いかけた。
「私はフィシャ...ヴォルフに所属する一員だ...」
また少しの時間が経ってから、彼女は自身の事を打ち明けた。
「ヴォルフって...あのヴォルフなのか...?」
イリーアは彼女自身の伸びた語尾すらも忘れてそう言った。
「ヴォルフって...ゲガスのチームの一員じゃねえかよ...マジかよ...」
ゲガスという者の事は、私も知っている。
彼は私達が研究所を逃げ出そうとしている時、私の事を撃った男だ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる