CREATED WORLD

猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (6)

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第3話 出発
「どうだ?驚いたか?」
男は嬉しそうに私に聞いてきた。
私は思わず首を縦に振って頷いた。
「よかったらここに座って待ってくれ。」
男はカウンター席に手のひらを向けて言った。
「遠い昔、アケラには、レストランと呼ばれる建物があったらしい。」
私が席について待っていると、男が作業をしながらそう言った。
「レストランって何の事なの?」
「食べ物や飲み物を振る舞う場所で、そこでは食べることで味覚や嗅覚で喜びの感情を得る事ができるらしい。」
「その場所では食べる事が楽しいの?」
「そういう事になるな。昔は食べる事も楽しいことだったらしい。だが、資源が不足し、料理の材料となる植物や動物がいなくなってしまった。だから必要最低限のものしか食べられなくなってしまったんだ。」
今では食事で食べられるものといえば、人工的に作られた固形食しかなく、香りもなく、味もおいしいとはいえるものではなく、食感も粉っぽかった。
飲み物も水を手に入れる事で精一杯であり、最低限の水を確保するのも困難だ。
「よし、できたぞ。よかったら食べてくれ。」
男は橙色の丸い物体を皿に乗せ、水と一緒に私の席の前のカウンターテーブルに置いた。
初めて見るものに、私はじっと見つめていた。
見たところ固いものではなく、柔らかそうであり、香りも良い。
この香りは、とても落ち着くものであり、食欲をそそるものだった。
「この香りは何?わからないけどすごく良いね!」
「これは昔、人類が主食として育てていた、小麦という食料の香りを再現したものだよ。本物はもっと良い香りだったそうだ。」
「すごい…!」
私は思わず関心してしまった。
「よかったらでいい。冷めないうちにどうぞ。」
男に言われて私は橙色の物体を頬張った。
まず、温かく柔らかい生地が心地よく感じ、次に口いっぱいに小麦と呼ばれる植物の香ばしい香りが広がった。
「すごい…!こんな素晴らしいものを食べたのは初めてだよ…!」
私は感動のあまり、自分の頬に涙をつたっているのに気付いた。
「ありがとな。」
男はそう言って微笑んだ。
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