婚約破棄～追放された悪役令嬢～

第1話 《修正版》

 「ルイア・プレスドール！わたくしは貴女の平民を虐めたという罪を告発しますわ！」

 そんな聞くに耐えない金切り声が、王都の貴族の殆どが集まった広場に響いた。
 そしてその言葉を聞いた貴族の視線が、私、ルイアへと集まってくる。
 その貴族達が私へと向けた視線、それには侮蔑と嘲り、そして殺気さえも混じった敵意が込められていた。

 ……だけど、私はそれらの視線にさらされても全く動じることなんて無かった。

 何故なら私にそんか視線が向けられるのはいつものことだったのだから。
 平民でありながらその身に宿す魔力を見込まれて貴族にまで成り上がった私に常に貴族達はそんな視線を向けて来た。
 それは嫉妬なのか、それとも貴族特有の選民意識を刺激されたからなのかは分からない。
 けれどもどちらにせよ、およそこの国を動かす人間の思考とは思えない理由であることは確かで、そしてその理不尽に常に私は晒されてきた。
 だから今更私がこの程度の理不尽で何かを感じることなど無かった。

 「おほほ！やはり平民上がりは卑しい存在ですわね！」

 けれどもその貴族達の私への反応に気を良くしたのか、金切りの主で公爵令嬢であるレイナ・トラストールはそう高笑いを上げる。
 レイナの顔立ちは日々整えているだけあって確かに美しいものの、その性格は腐れきっていた。
 そしてその顔に私はこの場にいる人間に怒鳴りつけたい衝動に駆られる。

 ふざけるな！私が平民を虐めた証拠なんて無いだろうと。
 私は貴族になってから必死に世の中を良くするために、平民の為に魔法を使ってきたけども、あんた達はただ平民を見下すことしかしていなかっただろうと。
 そんなあんた達がどの口で卑しいなど言える、と。

 「ーーー」

 けれども私は何もいうことはなかった。
 何故ならそう叫んでも全ては無駄なことを知っているから。
 目の前の貴族達はただ自身は何もすることはなく、けれども自分は特別だと思い込んでいる自尊心が肥え太った豚だった。
 自分達の生活が平民達の必死の労働の上に成り立っていることさえ知らず、平民を見下し嘲る。
 醜く、腐りきったこの国の恥。
 そしてそんな人間は自分達の絶対的優位を否定する存在を認めない。
 耳を塞ぎ、目をそらし、時には実力で口封じする。
 だから私は今どれだけ自分の身の潔白を訴えようと無駄だと悟り、貴族の話を聞き流すことにした。
 例えここで貴族の身分を剥奪されても私は何ら困ることはない。
 それどころか嬉しいぐらいなのだから。
 貴族の地位など私にとってはそんなもので……

 「魔力が多いなど嘘に違いありませんわ！この平民はただ貴族になりたい、そのためだけに……」

 「そんなことない！」

 「なっ！」

 ーーー そしてだからこそ、そのレイナの言葉にだんまりを決め込むことはできなかった。

 貴族になりたい、そんなことを私は一度として望んだことはなかった。
 孤児院で過ごしていてそれで貧しくとも幸せだった。
 魔力を使って様々な人に喜ばれながら、家族とともに暮らす。
 それは本当に幸せで……

 「脅され無ければ私はこんな場所にきたくなどなかった！」

 ……だから私は孤児院を人質に取られて貴族の養子になることを強制された時抗うことはできなかった。
 そしてそれは忘れがたい記憶として私の頭に残っており、だから私はレイナを睨んで叫ぶ。

 「貴族は決して特別なんかじゃない！腐りきっている！」

 その瞬間広場に沈黙が落ちて、そして私は悟る。
 今まで必死に何を言われても我慢してきたのが全て無駄になったことを。
 これでおそらく私は貴族からの追放、それだけではすまない目にあう。
 だけど、それでももう私はもう負けないと貴族達をにらみつけて……

 「私もそう思う」

 「えっ？」

 ーーー その時、人間が広場に降り立った。

 「あ、貴方が何故……」

 突然の乱入者に一瞬広場が静まり返り、レイナが震える声を発する。

 「何故こんなところに王子が……」

 「なっ！」

 そしてその次の言葉に広場の全員が言葉を失った……