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第一話

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「マラリナ、貴様との婚約を今日で解消させてもらう。お前がアリアに行った悪行の数々私は知っているぞ!」

 そんな声が響いたのは、学園の卒業パーティーの最中だった。
 騒がしかった広場が、その声に静まりかえりこちらの方へと一気に視線が集中する。
 そんな視線に気付きながら、私はあえて大胆に隣に立つ男性へと抱きついて見せた。

「ルーク様……!」

 そう、隣に立つ王太子ルークへと。

 瞬間、広場に大きなどよめきが起きる。
 当たり前だろう、婚約者のいる王族にこんなあからさまな態度をとるなど、普通は許されないことなのだから。
 けれど、それだけだった。
 普段なら許されないことをしているにも関わらず、誰も責任をとる人間などいない。
 それを理解し、私は声を上げて笑いたくなる。
 自分はうまくやっているのだと理解できて。

 ──私は紛れもなく、ヒロインアリアとして物語の中に生きていると。

 その瞬間、私が思い出すのは前世の記憶を思い出す。
 いや、正確には前世にやっていたゲームの記憶を。

 それは一人の少女が、王子に見初められ王妃として成長していくシンデレラストーリー。
 その少女の名前はアリア。

 そう、今いる世界こそがそのゲームの世界だったのだ。

 そのことに気づいてから、私はこの時がくるまで必死に準備をしてきた。
 攻略対象を味方に付け、王子の心を奪い、卒業パーティーのこのイベントまでに準備を整えてきた。
 全ては私の想像通りに進んでいて……そこまで考え私はふと視線をあげる。

 そういえば、一つ想定外のことが起きていたことを思い出して。

 私の視線の先、呆然とたたずんでいるのは地味目な少女だった。
 彼女の名前は伯爵令嬢マラリナ・スタリート……本来なら、ストーリーの始まりとともにそうそうに盤面を退場する当て馬の令嬢だった。
 私の知る誤算とは、彼女の存在だった。
 どうして、木っ端にすぎない彼女が、こうして悪役令嬢の代わりにこんな場所に立っているのか?

 しかし、そこまで考えて私はその考えを頭から振り払った。
 何せ、そんなことは私のこれからに一切の関係もないのだから。

 この少女は蹴落とされ、その場所に私が座るというだけ。
 その思いから、私は勝ち誇った笑みを少女に向ける。
 その少女へと、苛立たしげにルークが口を開いたのはその時だった。

「どうしたマラリナ? 一切のいいわけもないのか?」

 それは隠す気のない怒りが込められた言葉だった。
 けれど、そんな怒りを向けられてもなお、マラリナの表情は一切変わらなかった。
 呆然と、信じられない表情を張りつけたまま、彼女は口を開く。

「その、本気ですか?」

「……今更、いいわけでもしようとするつもりか?」

「いえ、そんなデタラメはどうでもよくて」

「……っ!」

「な、なにを!」

 その言葉に、私とルークは思わず表情を変える。
 しかし、そんな様子に気づくことなく、マラリナは心の底からの疑問をにじませ告げた。

「国防に携わる私を、本気で婚約破棄する気なのですか?」


 ◇◇◇


 冬の寒さで体力が消し飛び、リハビリがてら書いた短編になります。
 5、6話以内には本編完結&他人視点で終わる予定となります。
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