異世界暗殺者の英雄譚

影茸

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9.スキル

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 「っ!」

 「Gyaaa!」

 突然真後ろに現れた巨体、そのことに僕の身体は一瞬硬直する。
 そして、その停滞を巨人が見逃すことはなかった。
 一般的な男子高校生としては少し小柄とはいえ、160センチはある僕の身長の二倍以上の長さを有す丸太のような拳が振るわれ、地面に亀裂が走る。
 僕は何とかその拳に反応し、全力で後ろに跳ぶ。

 「がっ!」

 そして何とか直撃を免れるが、だがその衝撃波は避けることが出来ず、壁に叩きつけられる。
 鈍い痛みが背中に走り、肺から空気が絞り出されて息が出来なくなる。
 その一連の動きだけで僕は目の前に立つ巨人はサイクロプスであることを悟る。
 サイクロプス、それは僕が王宮の図鑑で知った下層の魔物。
 1つだけの目は魔力をもとらえ、その巨体から放たれる攻撃は硬い迷宮の壁さえも砕く。
 さらに厄介なのはその身体を覆う酷く硬い鋼鉄の皮膚。

 「難易度高すぎだろ………」

 そしてそんな化け物との遭遇に、僕は乾いた笑いを漏らす。
 俺の方へとゆっくりと歩いて来るサイクロプスには絶対に勝てるという確信からか、牙の見える口元には笑みが浮かんでいる。
 その笑みに一瞬僕の心から恐怖が弱まり、舐められたという屈辱とその笑みを潰したいという怒りが湧き出る。
 
 「ここは切り札を切るしかないのか……」

 だが、その激情は直ぐに消えた。
 
 いや、目の前に立つ巨体の威圧に維持できなくなったとでも言うべきか。
 サイクロプスと戦って僕が勝てる確率、それは多めに見積もっても4割を切る。
 今までの鍛錬に、そしてスキルで得た補正を考えてもそれ以上は絶対に超えない。
 この場を確実に切り抜ける方法、それは切り札を最強のスキルを使うことだけ。
 
 「畜生、何でこんな超難易度に挑まないといけないのか……」

 そして、そのことを悟りながら僕は剣を抜いた。
 勝てる可能性がどれほど低いのかそのことを僕は知っている。

 「だけど、あのスキルを使えば僕をこの下層に落としたという事実さえ無くなってしまう……なら、まだその方法はきらない」

 「Gya!」

 僕の独白にサイクロプスが意味がわからないとでもいうように、苛立ちの混じった声を上げる。

 「僕はクラスメイト全員で生き残るともう決めている。だったら、僕をこの場所に落としたやつの気持ちも知らなければならない」

 「Gyaaa!」

 「っ!」

 サイクロプスは腕を横に薙ぎ払い、そしてその攻撃を完全に避けきれず僕は再度吹き飛ばされる。
 だが、直ぐに僕は身体に走る痛みを無視して立ち上がり笑う。
 
 「やり直すのは、僕ならば簡単だ。だから、今は全力で抗わせてもらおう」

 「Gyaaa!」

 その僕の宣言が終わるか終わらないかの時に再度サイクロプスの拳が僕を襲う。
 しかし僕はその拳に向かって雄叫びを足を踏み出す。

 「うぉぉぉぉおおお!」

 そしてその瞬間、僕の2つある内のスキルの内、身体能力を上げる"暗殺者の才能"が発動した………
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