上 下
2 / 3

2

しおりを挟む
 確かに僕は魔術師でありながら近接戦闘もこなす。
 ………けれどもそれは魔術の方をおろそかにしているのと同義ではなかった。
 何せ僕は魔術師の本分を果たしながら、その上で戦士としても動いている、いや動かざるを得なかったのだから。
 考えなしに大軍に突撃するラードの尻拭いをしつつ、全く役に立たないお荷物と、聖女を庇いながらの激戦。
 そんな地獄を乗り切るには僕は人並みはずれた力を得るしかなかったのだ。
 なのにそのことに関して助けてきた人間から馬鹿にされたのだ。
 その言い分にさすがの僕も、ルーナの時とは違いシルエの言い分に怒りを覚え、怯えるシルエを僕は殺気さえこもった目で睨む。
 確かに僕だってこのパーティに入れたことに喜びを感じていた。
 ………けれどもそれは最初の頃だけだった。
 余りにひどい境遇に僕はすぐに音を上げることとなったのだ。

 しかし一度戦功をあげた僕はその有用さ故にこのパーティーから逃げ出すことは出来なくなっていた。

 どれほど僕がこのパーティーを抜けたいと思っているかラードたちは知らない。
 追放すると言えば僕がやめてくれと懇願すると思いこんでいるのだ。
 つまりラードたちはいくら口で僕を追放するなどいいながらも、本当にそんなことをするつもりはない。
 そのことに最初僕は追放の言葉を真に受けてしまった故の失望を抱いていた。
 けれどももう僕はいくらラードが口でなにを言おうと決して行動を起こすことはないことを理解していた。
 なぜなら僕はこのパーティーの中でなくてはならない戦力であるのだから。
 だから僕は傷つけることが出来ないのを理解しながらも、今後よけいなことを言わないようにとシルエを威圧する。

 ーーー そしてその行動が僕に思わぬ幸運をもたらすことになった。

 「シュエラ、今までは許してやっていたが残念ながらもう今回は看過できない。仲間を傷つけようとした罰でお前をパーティーから追放する!」

 シルエを睨む僕を見てラードの唇がまるでいい口実を見つけたというように弧を描き、そして次の瞬間僕の身体が光り輝き勇者パーティーであることを示す紋章、今まで僕を縛っていた鎖が今霧散する。

 「………やっと、自由に」


 そのとき、この先伝説の魔術師と呼ばれる怪物が戒めから解き放たれたのだった………
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...