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苦悶の聖獣 (三人称)
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聖獣はいつもの定位置である王宮から、人間たちの騒ぎを眺めていた。
まるで反乱でも起きたかのような騒ぎにも関わらず、聖獣は一切の感情も見えない目で眺めていた。
背後から声が響いたのは、そのときだった。
「やっぱりここにいたか」
振り返るまでもなく、その人物が何者なのか、聖獣には理解できていた。
そもそもこんな風に聖獣のそばにやってくれる人間が数少ないのだから。
だから、淡々と聖獣は口を開く。
「なんのようだ。龍殺し」
「いや、お礼をと思ってね」
「礼?」
まるで想像もしない言葉に振りかけると、そこにいた龍殺しは珍しくまじめな表情でたたずんでいた。
「ああ。あの男の処理を僕に譲ってくれたことさ」
「カイザードのことか」
そこまでいって、ようやく聖獣にもライハートの言いたいことが理解できる。
しかし、理解した上で聖獣は首を横に振った。
「不要だ。今回お前がやってくれたお陰で全てはうまく言った。マレシアを認めた我の名誉も守られたし、借りに感じる必要はない。我にはこうも鮮やかにはできなかっただろうからな」
それは聖獣の心からの本心だった。
聖獣ならば、こうもことを運ぶことはできなかっただろう。
聖獣にできるは、あくまで王子を殺すことだけ。
それを考えれば、こうしてうまくことを運んだライハートには礼を言わなければならない程だろう。
……けれどそう考えながらも、聖獣の胸からしこりが消えることはなかった。
それを見抜いたように、ライハートは遠慮がちに口を開く。
「……だが、お前も自分の手で報いを与えたかったんだろう?」
瞬間、かすかに聖獣の口元がゆがむ。
……それは、自身の内心を言い当てられたが故の反応だった。
カイザードへの煮えたぎるような怒り、それは未だ聖獣の胸の中に残っている。
そのことをライハートには気づかれていて。
「なんのことだ?」
……それを理解しても、聖獣がその気持ちを認めることはなかった。
けだるそうに、まるでなにかわからないと言いたげな様子で、聖獣はそう吐き捨てる。
「……いや、勘違いだった」
その聖獣の姿に、それ以上ライハートが追求することはなかった。
いつもの飄々とした態度に戻り、聖獣に背を向ける。
「まあ、助かったのは事実だ。いつか礼は返すさ」
「いらん」
聖獣の返事も聞くことなくライハートはすぐにこの場からさり、周囲を再度沈黙が覆う。
それを確認して、小さく聖獣は口を動かした。
「……認められる訳がないだろうが」
必死に隠し、苦手だと嫌いだと言い聞かせてもなお消えない思い。
厄介極まりないない胸中の熱に、つよく拳を握りしめ、聖獣は吐き捨てる。
「人間に恋慕してることなど、絶対に」
それは身分違いなど、そんなレベルの話ではない。
聖獣という圧倒的存在の思いは、簡単に相手の人間の人生を壊す。
故に、聖獣は必死にその恋慕を胸の奥底に封じ込める。
なのにどうしようもなく熱に羽化されている自分から目をそらせず、聖獣は顔を歪め吐き捨てる。
「だから大嫌いなのだ。──諦めることさえ、させてくれないあの女が」
その苦悶の言葉は、誰の耳に入ることもなく消えていった。
まるで反乱でも起きたかのような騒ぎにも関わらず、聖獣は一切の感情も見えない目で眺めていた。
背後から声が響いたのは、そのときだった。
「やっぱりここにいたか」
振り返るまでもなく、その人物が何者なのか、聖獣には理解できていた。
そもそもこんな風に聖獣のそばにやってくれる人間が数少ないのだから。
だから、淡々と聖獣は口を開く。
「なんのようだ。龍殺し」
「いや、お礼をと思ってね」
「礼?」
まるで想像もしない言葉に振りかけると、そこにいた龍殺しは珍しくまじめな表情でたたずんでいた。
「ああ。あの男の処理を僕に譲ってくれたことさ」
「カイザードのことか」
そこまでいって、ようやく聖獣にもライハートの言いたいことが理解できる。
しかし、理解した上で聖獣は首を横に振った。
「不要だ。今回お前がやってくれたお陰で全てはうまく言った。マレシアを認めた我の名誉も守られたし、借りに感じる必要はない。我にはこうも鮮やかにはできなかっただろうからな」
それは聖獣の心からの本心だった。
聖獣ならば、こうもことを運ぶことはできなかっただろう。
聖獣にできるは、あくまで王子を殺すことだけ。
それを考えれば、こうしてうまくことを運んだライハートには礼を言わなければならない程だろう。
……けれどそう考えながらも、聖獣の胸からしこりが消えることはなかった。
それを見抜いたように、ライハートは遠慮がちに口を開く。
「……だが、お前も自分の手で報いを与えたかったんだろう?」
瞬間、かすかに聖獣の口元がゆがむ。
……それは、自身の内心を言い当てられたが故の反応だった。
カイザードへの煮えたぎるような怒り、それは未だ聖獣の胸の中に残っている。
そのことをライハートには気づかれていて。
「なんのことだ?」
……それを理解しても、聖獣がその気持ちを認めることはなかった。
けだるそうに、まるでなにかわからないと言いたげな様子で、聖獣はそう吐き捨てる。
「……いや、勘違いだった」
その聖獣の姿に、それ以上ライハートが追求することはなかった。
いつもの飄々とした態度に戻り、聖獣に背を向ける。
「まあ、助かったのは事実だ。いつか礼は返すさ」
「いらん」
聖獣の返事も聞くことなくライハートはすぐにこの場からさり、周囲を再度沈黙が覆う。
それを確認して、小さく聖獣は口を動かした。
「……認められる訳がないだろうが」
必死に隠し、苦手だと嫌いだと言い聞かせてもなお消えない思い。
厄介極まりないない胸中の熱に、つよく拳を握りしめ、聖獣は吐き捨てる。
「人間に恋慕してることなど、絶対に」
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聖獣という圧倒的存在の思いは、簡単に相手の人間の人生を壊す。
故に、聖獣は必死にその恋慕を胸の奥底に封じ込める。
なのにどうしようもなく熱に羽化されている自分から目をそらせず、聖獣は顔を歪め吐き捨てる。
「だから大嫌いなのだ。──諦めることさえ、させてくれないあの女が」
その苦悶の言葉は、誰の耳に入ることもなく消えていった。
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