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王国の守護者 (三人称視点)

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 王子に言われるがままに歓声をあげる民衆。
 その光景に違和感を感じながら、なにもいうことのできない聖女。

「つまらん」

 そんな光景をのぞきみ、そう吐き捨てる男がいた。
 褐色のしなやかな筋肉を持つ上半身に上着だけを身につけただけの姿。
 それは温暖な異国特有の格好でこの王国では明らかに異質だが、それさえ霞むほどの美貌を持つ男だった。
 その美貌の男は、王宮の屋根……ただの人間であれば、広場などみることはかなわない場所から、広場を覗き込んでいた。

「つまらん。本当につまらん」

 そうさらに吐き捨てる男の顔に浮かぶのは、冷ややかな表情だった。
 心底不愉快そうに広場を見ながら、男は告げる。

「ただの欲望で守護者を追いやるとは、本当に反吐がでるな」

 次に男は広場の向こう、黒い陰、すなわち精霊達が向かう方向へと目をやる。

「……これだけの精霊が王国を後にしたということは、もうこれ以上王国が繁栄することもないだろうな」

 そういって、広場に目を戻した男の胸に浮かぶの呆れだった。

「魔妖精か、精霊の役目もしらず散々な名称を付けるものだ」

 たしかに墜ちた神とはいえ、地を司る大神。
 それの眷属にあたる存在こそ、精霊だ。
 つまるところ精霊は、人々にとって恩寵をもたらしてきた存在なのだ。
 それを利用しようとして破滅した人間から、魔妖精など呼ぶとは恩知らずなどという話しではすまない。

「実際、精霊は我などより遙かに恩寵を与えているのにな。まあ、あのお人好しも怒るわけだ」

 そこまでいって、その男は思わずと言った様子で顔を歪めた。

「……だが、それ以上に怒るべきところがあるだろうが。自身の行いについて一切の弁明もせずさりよって、あの馬鹿が」

 偽聖女マレシア、その存在は男にとって好きな人間ではなかった。
 むしろ嫌いなもの、苛立つものだといっていい。

 人のみでありながら、精霊の力を軽々と借りること。
 また、溢れんばかりの才覚で強引に聖女の代わりとして王国を救ったこと。

 それは男が好きなことではなかった。
 ……そしてそれ以上に、際限なく自身を犠牲にしようとするその姿が大嫌いだった。

 それでも、王国におきたイレギュラーをマレシアが支えていたのは、間違いのない事実だった。
 マレシアがいなければ大きな被害がでただろうことも。

「……もっと、もっと自身のやったことを主張してから去れよ」

 だからこそ、男はもうこの場所からでは姿の伺えない場所にいるマレシアに呟やかざるをえない。

「例え聖女でないとしても、お前はこの我──聖獣が認めた存在だろうが」

 その言葉は、もはや誰にも届くことはない。
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