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空を覆うのは

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 空を覆い尽くすほどのその数、それは一体どれだけか。
 数十や数百ではあり得ない。

 ……少なくとも、数千や万に届く数の魔妖精が、今上空に存在している。

「なっ! 何が、起きてる?」

 それを理解し、私は惚けた声をあげることしかできなかった。
 だが、一体誰がそのことを責められようか。
 数十の魔妖精が集まっただけで王国史に残るような事件が起きている。
 それだけの数で、通常の魔術師は魔妖精をコントロールできなくなるのだ。

 それを知るが故に、私は目の前の光景を信じることができなかった。
 突然上を見て固まった私に、カシュアもまた異常に気づく。

「カイザード様、一体どう……っ! なに、これ!?」

 その声に、私は何も答えられない。
 私もまた、何が起きているのかなどわからないのだから。

「……何だこれ!」

「もしかしてこれ全部……!」

 けれど、次々に気づいていく広場の人間の声を聞きながら、私は気づいていた。

 ──この原因として思い至るのは、一人しかいないことを。

 その、[声]が聞こえたのは、そのときだった。

[ねえ、こっちみてるよ]

[ほんとだ]

[聖女様を追い出した奴らがこっちをみてる]

 脳内に直接響くような、幼児のもののような可愛い声。
 それの声の主として考えれるのが魔妖精しかないと理解しながら、私はこの現状を信じることができなかった。

[ねえ、どうする?]

[こらしめてやろうか?]

「……っ!」

 しかし、不意に響いた恐ろしい言葉に私は現実から目を逸らす暇さえないことを理解した。
 空を覆い尽くす魔妖精、その全てが力を発揮したらその被害は想像もできない。

 ……最悪、この王国が崩壊してもおかしくないだろう。

 絶対に避けなくてはならない、そう思いに顔を青ざめさせながらも私にできることなどあるわけがなかった。
 一体の魔妖精が声を発したのは、そのときだった。

[だめだよ、聖女様がだめだっていってた]

[えー、でも]

[怒られてもしらないよ]

[うー、わかったよー]

 その時になれば私も理解できていた。
 意味が分からなかったマレシアが去る前に残した言葉。

 それは、この魔妖精へと向けられていたのだと。

 そう理解しながらも私は、たしなめられ、魔妖精が意見を変える様子を信じられない思いで見ていた。
 まさか、マレシアは本当にこの魔妖精達と心を通わせているのかと。
 そんな私の内心など知る由もなく、さらに魔妖精達は騒ぎ出す。

[それじゃ、いこっか]

[うん、ここじゃないどこか]

[聖女様のところに]

 空を覆い尽くす黒い何かが、急速に動き出したのはその瞬間だった。

「くっ!」

「きゃっ!」

 今までとは比較にならない突風が吹き、私は思わず顔を手でかばう。
 永遠にも感じられるその突風の中、私は声が聞こえた気がした。

[そういえば、もう聖女様ではないんじゃないの?]

[あれ、そっか? でも、いいんじゃない?]

 徐々にその声も遠ざかっていく。

[僕たちにとって、あの人こそが聖女様なんだから]

 そしてその声を最後に、風は嘘の様に消えた……。
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