偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸

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異常の始まり

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「……っ!」

 怒りを隠さないマレシアの表情を見たとき、私の背に悪寒が走った。
 今さらながら、私の胸に後悔がよぎる。
 この話題にマレシアが反応したことはわかっていたのだ。
 だとしたら、必要以上に刺激することはなかったと。

 ……何せ、目の前にいるのは数年とはいえ、聖女の代わりにつとめを果たしてきた人間なのだから。

 緊張を隠せない私の前、ゆっくりとマレシアが足を踏み出す。
 それに私は思わず身構えるが……マレシアが口にしたのは想像もしない言葉だった。

「追放でしたかしら? ええ、わかりました。もう私はこの場所からさりましょう」

「……え?」

「カイザード様、ではさようなら。もうお会いしないように祈っております」

 それだけ言うと、マレシアは勝手に歩き出す。
 それは罪人とは思えない態度だったが、それを私は呆然と見送ることしかできない。
 だた、マレシアの後ろ姿を見ながら、私はある希望を抱く。

 本当にこのままたださってくれるのではないか、と。
 マレシアが立ち止まり、急に振り返ったのはそのときだった。
 一瞬私は焦りを顔に浮かべるが、マレシアの目には私もカシュアも映っていなかった。
 ただ、虚空を見つめマレシアは口を開く。

「あなた達もここにいる必要はもうないわよ」

 それだけ言うと、マレシアは何事もなかった様に振り返って歩き出す。
 それから、姿が見えなくなるまでマレシアが振り替えることはなかった。

「……何をしたかったんだ?」

 マレシアがさっていた方向、それを見て私は思わずそう呟いていた。
 マレシアがどんな意図を持ってあんなことを言ったのか、私には理解できなかった。
 ……いや、もしかしたら意味など無かったのかもしれない。
 マレシアの姿が消え、冷静さを取り戻した私はそうふと気づく。

 何せ、ここには本物の聖女がいるのだ。
 さすがの聖獣に保護された存在には、マレシアでも何もできなかったのかもしれない。
 せめてもの意趣返しで、こんなさもなにかをしたようなパフォーマンスで、脅かしていった。
 それだけのことかもしれない。

 とにかく、なんの被害もでなかったことだけはたしかで、私はようやく安堵の笑みを浮かべる。
 これで全ての問題が片づいたと、そう思って。

 ……なのに、私の心からはいやな予感が消えなかった。
 いや、精神的な感覚だけではなかった。

「……何だこの風は」

 明らかに急に風が酷くなったことに気づいた私は、思わず顔をしかめる。
 もしかして雨でも降ってくるのかと、薄暗い空を見上げ。

「は?」

 [それ]に私はようやく気づくことになった。

 [それ]は空一面に広がる黒いなにかだった。
 もし、私に魔力がなければ[それ]を雲だと勘違いしていたかもしれない。
 けれど、王族として魔力を持つが故にそれが雲でないことを、ある存在であることを私は理解してしまう。

「……魔妖精、だと?」

 ──自分の目の前に存在するのは、空を覆い尽くすほどの数の、魔妖精だと。


 ◇◇◇

 感想でモチベーション上がって一話余分にかけましたので、本日二話目となります!
 残り少ないですが、もうしばしでお付き合い下さい。
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