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第一章
第26話 辺境都市ラズベリア
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なんだかんだとどたばたしたギルド職員の女性、サーシャさんとの出会いから一日。
僕は彼女の家に、傷が治るまを条件に居候することになっていた。
これ以上の迷惑は申し訳ない、そう何度も僕は訴えた。
しかし、その発言は恩人に意見するかという暴論によって押し切られ、あれよあれよと言う間に僕は押し切られることになってしまった。
僕はそのことを喜べばいいのか悩む。
それどころか僕は、この居候を申し訳なく思えばいいのか、はたまた強引だと呆れればいいのかも分かっていないが。
「……とはいえ、ありがたいことは確かなんだけどね」
あれから、僕は自分がどんな状態であったか、ここがどこであるか、などの気になることを全て聞いた。
その結果分かったのは、想像もしないことだった。
というのも、サーシャさんが僕を拾った時の状態は、治癒師がなぜ歩けるのか分からないというレベルのものだったらしい。
元々の傷が深かったことを考えても想像以上の重体になっていたらしい。
おそらく、ヒナがいなければ僕はもっと酷い状態だっただろう。
寝ている間にこんな動けるようになるとは思わなかった、サーシャさんのその一言には苦笑して誤魔化すことしかできなかったが。
しかし、次にサーシャさんがした話は、自身の怪我よりも僕を驚愕させた。
「ここが、あの辺境都市ラズベリアなのか」
ぼそり、と呟いた言葉にようやく僕は自分でも受け入れる。
そう、ここは子爵家の屋敷からたどり着くのに、二日は必要な離れた大都市であると。
その話を聞いても、最初僕は信じられなかった。
そんなところまで自分は来ていたのかと。
……そんな傷でここまで歩いてきたのを考えれば、こうして傷が多くなったのも納得だ。
辺境都市ラズベリア、それは人類の生存圏と魔獣の生存圏である黒の森の境目に存在する都市だ。
何度も魔獣に進攻された街は大きな城壁に守られ、多くの冒険者がそこに住み、街を守っている。
いつかこの場所に来たい、そう思っていた場所にいると知らされた僕は、実感もなく呆然とすることしかできない。
「にゃうう!!」
その声が響きわたったのは、その時だった。
跳ね上がりそうな心臓を必死に押さえながら声の方へと僕は向ける。
するとそこには、怒りを隠さない面もちでこちらを睨む子虎の姿があった。
「……シロ?」
「にゃう! にゃう!」
呆然とその名を呟いた僕に、シロは全身を使って怒りを露わにする。
それを見て、ようやく僕は気づく。
そう言えば、あの戦いからシロにはなにもお礼に当たる食事を与えていないことに。
精霊は人間と同じように食事をとる必要はない。
けれど食べれない訳ではないどころか、僕の四体の精霊は食事をとるのが好きだった。
故に僕は、何か大きな協力をしてくれた時には、その精霊の好物を与えるようにしていた。
今思えば、こうして精霊達がなついてくれるようになったのも、それがきっかけだったか。
けれど今、僕は暗殺者との戦いで大きな役に立ってくれた精霊達に何の報いもできていなかった。
「そっか、あの戦いからもう数日も立ってるんだ……」
昨日のことのように鮮明に思い出せる暗殺者との戦い。
それがもうかなりの時間が経過したことである事実に、僕は衝撃を隠せない。
「にゃいぃぃ……!」
そう考える間にも、シロはヒートアップしていく。
その姿に、僕はどうするべきか悩む。
ここはサーシャさんの家で、お礼のためとはいえ、勝手に食材を拝借する訳にはいかない。
とはいえ、ここでさらに我慢させるのはシロに申し訳なかった。
「ここまで我慢してくれたんだもんね」
ここまで不満をためながら、けれどシロはサーシャさんがいる時には出てこなかった。
これだけ暴れるような不満を抱きながら、それでも僕の思いを汲んでくれたのだ。
……サーシャさんには、召喚士であることを気づかれたくない、という。
僕は彼女の家に、傷が治るまを条件に居候することになっていた。
これ以上の迷惑は申し訳ない、そう何度も僕は訴えた。
しかし、その発言は恩人に意見するかという暴論によって押し切られ、あれよあれよと言う間に僕は押し切られることになってしまった。
僕はそのことを喜べばいいのか悩む。
それどころか僕は、この居候を申し訳なく思えばいいのか、はたまた強引だと呆れればいいのかも分かっていないが。
「……とはいえ、ありがたいことは確かなんだけどね」
あれから、僕は自分がどんな状態であったか、ここがどこであるか、などの気になることを全て聞いた。
その結果分かったのは、想像もしないことだった。
というのも、サーシャさんが僕を拾った時の状態は、治癒師がなぜ歩けるのか分からないというレベルのものだったらしい。
元々の傷が深かったことを考えても想像以上の重体になっていたらしい。
おそらく、ヒナがいなければ僕はもっと酷い状態だっただろう。
寝ている間にこんな動けるようになるとは思わなかった、サーシャさんのその一言には苦笑して誤魔化すことしかできなかったが。
しかし、次にサーシャさんがした話は、自身の怪我よりも僕を驚愕させた。
「ここが、あの辺境都市ラズベリアなのか」
ぼそり、と呟いた言葉にようやく僕は自分でも受け入れる。
そう、ここは子爵家の屋敷からたどり着くのに、二日は必要な離れた大都市であると。
その話を聞いても、最初僕は信じられなかった。
そんなところまで自分は来ていたのかと。
……そんな傷でここまで歩いてきたのを考えれば、こうして傷が多くなったのも納得だ。
辺境都市ラズベリア、それは人類の生存圏と魔獣の生存圏である黒の森の境目に存在する都市だ。
何度も魔獣に進攻された街は大きな城壁に守られ、多くの冒険者がそこに住み、街を守っている。
いつかこの場所に来たい、そう思っていた場所にいると知らされた僕は、実感もなく呆然とすることしかできない。
「にゃうう!!」
その声が響きわたったのは、その時だった。
跳ね上がりそうな心臓を必死に押さえながら声の方へと僕は向ける。
するとそこには、怒りを隠さない面もちでこちらを睨む子虎の姿があった。
「……シロ?」
「にゃう! にゃう!」
呆然とその名を呟いた僕に、シロは全身を使って怒りを露わにする。
それを見て、ようやく僕は気づく。
そう言えば、あの戦いからシロにはなにもお礼に当たる食事を与えていないことに。
精霊は人間と同じように食事をとる必要はない。
けれど食べれない訳ではないどころか、僕の四体の精霊は食事をとるのが好きだった。
故に僕は、何か大きな協力をしてくれた時には、その精霊の好物を与えるようにしていた。
今思えば、こうして精霊達がなついてくれるようになったのも、それがきっかけだったか。
けれど今、僕は暗殺者との戦いで大きな役に立ってくれた精霊達に何の報いもできていなかった。
「そっか、あの戦いからもう数日も立ってるんだ……」
昨日のことのように鮮明に思い出せる暗殺者との戦い。
それがもうかなりの時間が経過したことである事実に、僕は衝撃を隠せない。
「にゃいぃぃ……!」
そう考える間にも、シロはヒートアップしていく。
その姿に、僕はどうするべきか悩む。
ここはサーシャさんの家で、お礼のためとはいえ、勝手に食材を拝借する訳にはいかない。
とはいえ、ここでさらに我慢させるのはシロに申し訳なかった。
「ここまで我慢してくれたんだもんね」
ここまで不満をためながら、けれどシロはサーシャさんがいる時には出てこなかった。
これだけ暴れるような不満を抱きながら、それでも僕の思いを汲んでくれたのだ。
……サーシャさんには、召喚士であることを気づかれたくない、という。
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