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第一章
第20話 寄生虫 (アズリア視点)
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誰もがヨハネスを凝視する中において、不自然にも見えるほどヨハネスはさらに淡々と言葉を重ねる。
「ライバート様が駆けつけていなければ、ここにアズリア様の姿はなかったでしょうね」
「っ!」
苛立ちを隠せぬ様子で母がヨハネスを睨む。
「うるさい! そもそも、一体誰のせいであんな人間……」
「少し落ち着け」
それを制止したのは、父だった。
冷ややかにヨハネスを見ながら、父は口を開く。
「召喚士の使う低級精霊に負ける程度の暗殺者だと? そんなものに、我が家の衛兵が負けると本気で言っているのか?」
「……我が家の衛兵の実力を知っていると?」
「当たり前だ、ヨハネス。我が家の衛兵がCランク冒険者に匹敵する強者が存在することを私が知らない訳がないだろうが」
その言葉に、私は思わず唇を噛み締める。
父の言葉は決して的違いな考えではなかったが故に。
……そう、おにいの実力以外は全て。
あの戦闘をこの目でみた私が何より、あの戦闘のレベルの高さを理解できている。
そのことを私は確信していた。
けれど、その気持ちを私が口にすることはできなかった。
……どうすれば、その言葉を父に届かせることができるのか、私には分からなかった。
こうして父がおにいのことを見下したような言動をするのは、日常風景だった。
当初は否定しようとしていた私だが、その言葉が父に響くことは今までなかった。
今回だって、その二の舞になる未来しか、私には見えなかった。
その私の想像を裏付けるように、父はさらに続ける。
「どうせ、今回も少し意地になっているだけに決まっておる。少し探せば……」
「いえ、もうライバート様は戻ってきませんよ」
淡々とヨハネスが遮ったのは、その言葉の最中だった。
ぞっとするほど温度のない目で父を見ながら、ヨハネスは告げる。
「今まであれだけ酷い扱いをされてきたライバート様が初めて反抗したのです。その意味がまだ分かっていないのですか? こんな場所にあの方が戻ってくる理由があるとも?」
「っ! うるさい! あの穀潰しを雇う場所など……」
「あの方は穀潰しなどではない! 何度言えば貴方は理解するのですか!」
ヨハネスが耐えかねたように声を荒げたのは、その時だった。
滅多にないヨハネスの怒りに、父まで言葉を失う。
無言の部屋の中、ヨハネスの怒声が響く。
「何度、何度言えば貴方方は理解するのですか! どれだけライバート様がこの家に必要だったのか」
そう言いながら、ヨハネスは怒りに燃えた視線を両親、そしてアグネスに向ける。
「真の穀潰し、この家のお荷物は貴方方でしょうが!」
「貴様……!」
その瞬間、今まで黙っていた父の目に、怒りが宿る。
それも当然だろう。
プライドの高い父にとって、臣下であるヨハネスにこのように言われるのは許せないことのはずだ。
そんな父に反応するように、アグネスが前に出る。
「ヨハネス様、今まで貴方を家宰として信頼してきましたが……」
「寄生虫は口をつぐんでおれ」
「……っ!」
ヨハネスらしからぬ辛辣な言葉に、アグネスが言葉に詰まる。
しかし、直ぐにその顔に怒りを浮かべアグネスは口を開いた。
「聞き流せない侮辱ですな! 長年この家に仕えてきた私のどこが……」
「貴様がしてきたことを私が知らないとでも思っているのか?」
だが、その言葉をヨハネスが最後まで口にすることを許しはしなかった。
そしてそのヨハネスの言葉に、露骨にアグネスの顔色が変わる。
「ライバート様がこんな悲惨な目にあっているならば、貴様などどうでもよかったのに……」
「な、なにを……」
「黙っておれ。後でお話する予定でしたが、もう今でよろしいでしょう」
アグネスの言葉を無視し、父に向き直ったヨハネスは懐から一枚の書類を取り出す。
「これは交易相手である他家から得た資料、すなわちアグネスの横領の証拠です」
……その瞬間、アグネスの顔から表情が消えた。
「ライバート様が駆けつけていなければ、ここにアズリア様の姿はなかったでしょうね」
「っ!」
苛立ちを隠せぬ様子で母がヨハネスを睨む。
「うるさい! そもそも、一体誰のせいであんな人間……」
「少し落ち着け」
それを制止したのは、父だった。
冷ややかにヨハネスを見ながら、父は口を開く。
「召喚士の使う低級精霊に負ける程度の暗殺者だと? そんなものに、我が家の衛兵が負けると本気で言っているのか?」
「……我が家の衛兵の実力を知っていると?」
「当たり前だ、ヨハネス。我が家の衛兵がCランク冒険者に匹敵する強者が存在することを私が知らない訳がないだろうが」
その言葉に、私は思わず唇を噛み締める。
父の言葉は決して的違いな考えではなかったが故に。
……そう、おにいの実力以外は全て。
あの戦闘をこの目でみた私が何より、あの戦闘のレベルの高さを理解できている。
そのことを私は確信していた。
けれど、その気持ちを私が口にすることはできなかった。
……どうすれば、その言葉を父に届かせることができるのか、私には分からなかった。
こうして父がおにいのことを見下したような言動をするのは、日常風景だった。
当初は否定しようとしていた私だが、その言葉が父に響くことは今までなかった。
今回だって、その二の舞になる未来しか、私には見えなかった。
その私の想像を裏付けるように、父はさらに続ける。
「どうせ、今回も少し意地になっているだけに決まっておる。少し探せば……」
「いえ、もうライバート様は戻ってきませんよ」
淡々とヨハネスが遮ったのは、その言葉の最中だった。
ぞっとするほど温度のない目で父を見ながら、ヨハネスは告げる。
「今まであれだけ酷い扱いをされてきたライバート様が初めて反抗したのです。その意味がまだ分かっていないのですか? こんな場所にあの方が戻ってくる理由があるとも?」
「っ! うるさい! あの穀潰しを雇う場所など……」
「あの方は穀潰しなどではない! 何度言えば貴方は理解するのですか!」
ヨハネスが耐えかねたように声を荒げたのは、その時だった。
滅多にないヨハネスの怒りに、父まで言葉を失う。
無言の部屋の中、ヨハネスの怒声が響く。
「何度、何度言えば貴方方は理解するのですか! どれだけライバート様がこの家に必要だったのか」
そう言いながら、ヨハネスは怒りに燃えた視線を両親、そしてアグネスに向ける。
「真の穀潰し、この家のお荷物は貴方方でしょうが!」
「貴様……!」
その瞬間、今まで黙っていた父の目に、怒りが宿る。
それも当然だろう。
プライドの高い父にとって、臣下であるヨハネスにこのように言われるのは許せないことのはずだ。
そんな父に反応するように、アグネスが前に出る。
「ヨハネス様、今まで貴方を家宰として信頼してきましたが……」
「寄生虫は口をつぐんでおれ」
「……っ!」
ヨハネスらしからぬ辛辣な言葉に、アグネスが言葉に詰まる。
しかし、直ぐにその顔に怒りを浮かべアグネスは口を開いた。
「聞き流せない侮辱ですな! 長年この家に仕えてきた私のどこが……」
「貴様がしてきたことを私が知らないとでも思っているのか?」
だが、その言葉をヨハネスが最後まで口にすることを許しはしなかった。
そしてそのヨハネスの言葉に、露骨にアグネスの顔色が変わる。
「ライバート様がこんな悲惨な目にあっているならば、貴様などどうでもよかったのに……」
「な、なにを……」
「黙っておれ。後でお話する予定でしたが、もう今でよろしいでしょう」
アグネスの言葉を無視し、父に向き直ったヨハネスは懐から一枚の書類を取り出す。
「これは交易相手である他家から得た資料、すなわちアグネスの横領の証拠です」
……その瞬間、アグネスの顔から表情が消えた。
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