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第一章

第1話 五年の月日

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「……寝てたか」

 そう僕が身体を起こしたのは、大きな木が生えた庭だった。
 程良い疲労が残る身体をのばしながら、僕は小さな声で問いかける。

「それで、結構僕は寝てた?」

「ぴい! ぴい!」

 そんなことはない、そう言いたげに僕の耳元で翼をはためかせる声の主に、僕は思わず苦笑する。
 相変わらず、元気なことだと。

「そうだね、寝過ぎたら君が起こしてくれるもんね。ヒナ」

 そう言って僕が顔を向けると、そこにいたのは直径三十センチほどの美しい赤い鳥だった。
 彼女がただの鳥でないことを示すように頭で燃えている炎をなでながら、僕は小さく呟く。

「いつも、ありがとうね」

「ぴいっ」

 そう言うと、元気よくヒナは鳴き声を上げる。
 そして次の瞬間、ヒナはその場から姿を消した。

 そう、ヒナは僕が召喚できる精霊の一体だった。
 初級とはいえ、火を司る精霊がヒナ。
 また、一番なついてくれていて、一番自由に動いてくれる精霊こそが彼女だった。

「……といっても、頼りすぎてる気もするけどな」

 そう言いながら、僕は苦笑する。
 むしろ頼まない方がヒナが怒る故に甘えていたが、もっとヒナには感謝した方がいいかもしれない。
 そう思いながら、僕はふと顔を上に上げる。
 木の葉の間から注ぐ赤い夕日に目を細めながら、僕は呟く。

「もう日がくれてるのか……」

 こうして夕日を見るのも、もう何百ではなく、何千回だろうか。
 そう思いながら、僕は小さく呟く。

「……あれから、五年か」

 そう呟いた僕が思い出すのは、自分の運命が変わったあの日、スキルが発現した十歳の誕生日だった。
 あの時から五年、僕はあの頃からは想像できないほどにこのスキルが気に入っていた。
 召喚できる精霊達に会えたこと、一時だったとはいえ、こんな僕を鍛えようとしてくれた人がいたこと。
 それらは全て、僕がこのスキルを持っていたからだ。

 そのはずなのに、僕は気づけば無意識に口を開いていた。

「もし、僕が……」

 そこまで言い掛けて、僕は苦笑する。
 なんて自分は未練がましいのだろうか。
 自分は十分に恵まれている。
 これ以上望むのは、不相応だと。

 それに僕だって昔よりは……。

「ここにいたのか、ライハード」

 その声が響いたのはそんな時だった。
 反射的に僕が顔を上げると、そこにいたのは見知った顔だった。

「……父上」

 僕の胸が高鳴りはじめたのは、その姿を目にした瞬間だった。
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