上 下
26 / 29
再婚約

突然の知らせ (侯爵家当主視点)

しおりを挟む
「というのが、今回の顛末でした」

 ……その報告を侯爵家当主である私、カルクスが聞いたのは、仕事がようやく終わった頃だった。
 私は隠しきれない頭痛を堪えるように頭を押さえながら、告げた。

「……マーリクは愚か者だったか」

「ええ、それに関しては言い訳のしようもないと思います」

 私の言葉にそう頷いて見せたのは、今回のことを報告してきた娘、マーガレットだった。
 その姿からは一切、傷ついた様子はなく、私は娘に知られないように小さく嘆息を漏らす。
 しかし、前見た時よりも生き生き……もとい、つやつやしている用に見える気もするが気のせいだろうか?
 そこまで考え、今はそんなこといいと私はその考えを首から振り払った。
 今必要なのは、この胸にある怒りを振り払うことなのだから。

「とにかく何が何でも、マーリクを捕まえさせねばならんな。早急に伯爵家に連絡を入れて確保させ……」

「その必要はないですわ、お父様」

 ……しかし、その私の言葉は途中でマーガレットに遮られることになった。
 マーガレットの方を見ると、やけにすました顔の娘が立っていて、私は直感的に娘が何かをたくらんでいることを理解する。
 その様子をみる限り、マーガレットは本気でマーリクなどどうだっていいと思っているのだろう。
 とはいえ、それだからとこれは簡単に終わらせていいことではない。
 私はあえて厳かな表情を顔に張り付け、口を開く。

「……何を言っているマーガレット? 今回の一件はそう軽視していものでは……」

「いえ、マーリクの件に関しては軽視すべき問題ですわ」

「何をいっている?」

「ハンスのお陰で私は傷もなく、マーリクは震えて逃げていきました。この先、私が危害を与えられる可能性は低い。それに」

 そこでまっすぐと私を見ながら、マーガレットは尋ねてくる。

「ここでこれ以上に伯爵家に負担をかけるべきと思いますか?」

「……っ!」

 その言葉に私は思わず黙る。
 マーガレットの指摘は正論だった。
 婚約破棄において、マーリクが行ったことは絶対にやってはならないことで、その責を拭うために伯爵家はマーリクを指名手配した。

 ……だからといって完全に家族の情まで消えた訳ではないのだ。

 ここでマーリクのことを言えば、表面上は伯爵家は喜んで見せるだろう。
 しかし、その内心までそう思っているとは断言できなかった。
 故に黙った私に対して、マーガレットはほほえみ口を開く。

「私は、そんなことよりも致命的な問題が存在していると思っているんです。その問題があるが故に、マーリクは私が自分を思っていると勘違いしていました」

「……何の話だ?」

 そう私は問いかけつつ、それでももうすでにマーガレットが何を言おうとしているのか理解していた。
 せめてもの抵抗にとぼけようとするが、もうすでに手遅れだった。
 にっこりと笑い、マーガレットは告げる。

「私の婚約者がいない、それが一番の問題なのです。お父様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)私の婚約者はあなたではありません(全5話)

青空一夏
恋愛
私はアウローラ侯爵家のプリシラ。アウローラ侯爵家の長女だ。王立貴族学園の3年生で楽しい学園生活を送っていたわ。 けれど、ついこの間からサパテロ伯爵家の長男ゴルカ様に付きまとわれるようになり、意味がわからないことばかりおっしゃるの。だから、私は・・・・・・ 5話完結。 ※こちらは貴族社会の西洋風の世界ですが史実には基づいておりません。この世界では爵位は女性でも継げます。基本的には長子が爵位を継ぎますが、絶対的ではありません。 ※現代的な表現、器機、調味料、料理など出てくる場合あります。

婚約者が幼馴染のことが好きだとか言い出しました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のテレーズは学園内で第6王子殿下のビスタに振られてしまった。 その理由は彼が幼馴染と結婚したいと言い出したからだ。 ビスタはテレーズと別れる為に最悪の嫌がらせを彼女に仕出かすのだが……。

【1話完結】断罪と婚約破棄……からの?!

葉桜鹿乃
恋愛
王侯貴族の令息令嬢が通う王立学園の卒業パーティーにて、ユーグレース・ザイン伯爵令嬢は、婚約者のリンク・ユシュグライド第一王子に、キリアン・ルーチェ子爵令嬢を虐めたという虚偽の罪で公の場で断罪され、婚約破棄を申し渡される。 リンク殿下とキリアン様の周りには取り巻きのように控える騎士を目指す男爵令息、魔導師として将来を嘱望される伯爵令息、宰相閣下の息子である公爵令息、教皇令息が控えていた。 ※小説家になろう様でも別名義で掲載しています。 ※思いつきの1話完結です。 ※色々頭を緩くしてお楽しみください。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

手のひら返しが凄すぎて引くんですけど

マルローネ
恋愛
男爵令嬢のエリナは侯爵令息のクラウドに婚約破棄をされてしまった。 地位が低すぎるというのがその理由だったのだ。 悲しみに暮れたエリナは新しい恋に生きることを誓った。 新しい相手も見つかった時、侯爵令息のクラウドが急に手のひらを返し始める。 その理由はエリナの父親の地位が急に上がったのが原因だったのだが……。

処理中です...