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再婚約

努力の末路

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「は?」

 その直後のハンスの反応、それは身体の硬直だった。
 一切、状況が分からずハンスのたくましい体が、硬直する。

 その間にも、私は柔らかいハンスの耳たぶの食感を感じていた。
 一度その耳を軽くなめ……私は軽く耳たぶを甘噛みした。

「っ!?」

 その瞬間のハンスの反応は劇的だった。
 今までに聞いたことの無いような甲高い声を上げ、ハンスは背中を弓なりにそらす。
 一瞬で露わになったうなじは、朱色に染まる。

 そのハンスの反応を見ながら、私は背筋からお尻にかけてをゾクゾクとするものが走るのを感じていた。
 もう一度ハンスの耳を甘噛みしたい衝動を堪えながら、私は顔を話す。

「お嬢、様?」

 顔を話すと、ハンスは私に噛まれた状態で固まったままこちらを見ていた。
 そんなハンスをにっこりと見返して、私は告げる。

「実はね、私の好きな人は唯一鈍感ていう欠点があるの。目の前で気持ちを伝えても気づかないくらい、ね」

 その瞬間、ハンスの目が大きく見開かれる。
 それだけで、ハンスも自分のことを言われていると理解したと私は察する。
 けれど、わかりながら私は再度ハンスの頬へと顔を寄せる。
 そして、その頬に口づけをした。

「……っ!」

 その瞬間、ハンスは私の方へと向き直る。
 そして、卒倒しそうな程に顔を真っ赤にしたまま、動かなくなった。
 それもそうだろう。
 貴族令嬢の口づけは、婚約者にさえ行わないまさしく家族だけにしか行わないものなのだから。

 そして私は、そのハンスのことをいえないくらい自分も顔が真っ赤なことを理解していた。
 何せ、今顔から火がでそうな程に熱くて熱くてたまらないのだから。
 それでも私は笑って見せる。

 いたずらっぽく、そして心底満足げに。

「これで、もう勘違いなんて言わせないから」

 それを言ってから、しばらくの間ハンスは固まっていた。
 しかし、乱雑前髪をあげ、うつむく。

「……っ! あー、もう!」

 あった当初を思い出すその乱雑な態度に私はほほえましさを感じながら、私はその頭をなでてあげる。
 一瞬、ハンスの体がぴくりと反応するが、それだけだった。
 されるがままになでられながら、ハンスはか細い声で告げる。

「……俺、今まで必死にお嬢様への思いを押し殺してきたんですよ」

「あら、あんなに気持ちを隠してないのに?」

「それはお嬢様が可愛すぎてあふれただけです。俺はあれ以上の思いを隠してますから」

「……そう」

 その言葉に、私の口元が緩む。
 こういう無防備なハンスの姿は久々で、どうしようもなく愛しさがあふれて仕方がなかった。
 そんな私のことに気づくこともなく、ハンスは続ける。

「そうやって必死に隠してきたのに、こんなこと言われたら諦められないですよ……。今まで必死に隠してきたのに」

「ふふ。いい気味だわ」

「……お嬢様?」

 その時になって、ハンスが顔をあげる。
 その顔を勝ち誇った顔で見ながら、私は告げた。

「そんな無駄な努力。私、許さないわよ?」
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