4 / 29
再婚約
新しい日々
しおりを挟む
窓から、入ってくる日差し。
何より雄弁に今が朝だと教えてくるそれを眺めながら、私はぽつりとつぶやく。
「……懐かしい夢を見たわね」
そうつぶやいた私の脳裏に残っているのは、先ほどまで見ていた夢。
マーリクに婚約破棄をされたときの夢だった。
実のところ、その夢を私が見るのは初めてではなかった。
婚約破棄された当初は、嫌と言うほど夢で見ていたものだ。
けれど、最近はほとんどその夢を見た記憶はない。
一体なぜ今になって、そう考えて私はすぐにその答えにたどり着いた。
「……昨日アリミナと出会ったからね」
そういって、私が思い出すのは昨日の記憶。
しかし、その記憶をすぐに私は頭から振り払った。
もう、その記憶なんてどうだっていい、そう思っていたが故に。
「今日も忙しいんだから」
そう言って、さっさと身支度をして私は自室を後にする。
その背中には、一切の悲哀も存在しなかった。
◇◇◇
勝手な宣言をしてマーリクがさってから、侯爵家にも多少のごたごたはあった。
しかし、諸々のトラブルは多少の域をでることなく収まった。
というのも、マーリクはその程度の存在でしかなかったのだ。
マーリクの生家である伯爵家が謝罪に訪れ、全面的に非を認めたのも、今後の対応を楽にさせた。
何せ、マーリクの一方的な暴走であると伯爵家まで認めたが故に、私は一切の責任も問われなかったのだから。
……といっても、責任が問われなかっただけで、私の精神的にはかなり参ることになっていた。
初めての近しい人間からの、明確な拒絶。
その経験は、私にとってすぐには立ち直れないものだった。
と、そこまで考えて私は笑う。
「今は、あんなに悩む必要なかったと思えるのが不思議ね」
そう、その思い悩んでいたときからはや数ヶ月。
もう私に葛藤も悩みも存在はしていなかった。
悩みに悩んだそのときは、私にとって既に過去の光景へと変わっていた。
あんなに悩んでいたのが嘘の様に。
そう考え、私は小さく笑う。
私の背後から足音が響いてきたのはそのときだった。
「……お嬢様、また侍女がくる前に部屋を抜け出したのですか!」
そういいながら、姿を現したのは執事服姿の青年、ハンスだった。
その小言に私は笑いながら答える。
「あら、仕方ないじゃない。侍女が来るまで待っている間に仕事がこなせるんだから」
「さすがに朝ぐらいはお嬢様にもゆっくりした時間を……」
「あら、私がどれだけ仕事できるか分からない訳じゃないでしょうに」
瞬間、なにもいえなくなったハンスに思わず笑いながら、私は仕事場へと向かう。
「……お願いですからきちんと休んでくださいね?」
「私、朝の分早めに仕事終わらせてるじゃない?」
「……それはそうですが」
「ならいいじゃない。ほら、いくわよ」
「お嬢様! まだ話しは終わって……! ああ、分かりましたよ!」
後ろから追いかけてくるハンスを見ながら私は、仕事場へと向かう。
声をあげ、笑いながら。
婚約破棄から数ヶ月、決して悩まなかったとは言わない。
──けれど、現在私は忙しくも充実した日々を送っていた。
何より雄弁に今が朝だと教えてくるそれを眺めながら、私はぽつりとつぶやく。
「……懐かしい夢を見たわね」
そうつぶやいた私の脳裏に残っているのは、先ほどまで見ていた夢。
マーリクに婚約破棄をされたときの夢だった。
実のところ、その夢を私が見るのは初めてではなかった。
婚約破棄された当初は、嫌と言うほど夢で見ていたものだ。
けれど、最近はほとんどその夢を見た記憶はない。
一体なぜ今になって、そう考えて私はすぐにその答えにたどり着いた。
「……昨日アリミナと出会ったからね」
そういって、私が思い出すのは昨日の記憶。
しかし、その記憶をすぐに私は頭から振り払った。
もう、その記憶なんてどうだっていい、そう思っていたが故に。
「今日も忙しいんだから」
そう言って、さっさと身支度をして私は自室を後にする。
その背中には、一切の悲哀も存在しなかった。
◇◇◇
勝手な宣言をしてマーリクがさってから、侯爵家にも多少のごたごたはあった。
しかし、諸々のトラブルは多少の域をでることなく収まった。
というのも、マーリクはその程度の存在でしかなかったのだ。
マーリクの生家である伯爵家が謝罪に訪れ、全面的に非を認めたのも、今後の対応を楽にさせた。
何せ、マーリクの一方的な暴走であると伯爵家まで認めたが故に、私は一切の責任も問われなかったのだから。
……といっても、責任が問われなかっただけで、私の精神的にはかなり参ることになっていた。
初めての近しい人間からの、明確な拒絶。
その経験は、私にとってすぐには立ち直れないものだった。
と、そこまで考えて私は笑う。
「今は、あんなに悩む必要なかったと思えるのが不思議ね」
そう、その思い悩んでいたときからはや数ヶ月。
もう私に葛藤も悩みも存在はしていなかった。
悩みに悩んだそのときは、私にとって既に過去の光景へと変わっていた。
あんなに悩んでいたのが嘘の様に。
そう考え、私は小さく笑う。
私の背後から足音が響いてきたのはそのときだった。
「……お嬢様、また侍女がくる前に部屋を抜け出したのですか!」
そういいながら、姿を現したのは執事服姿の青年、ハンスだった。
その小言に私は笑いながら答える。
「あら、仕方ないじゃない。侍女が来るまで待っている間に仕事がこなせるんだから」
「さすがに朝ぐらいはお嬢様にもゆっくりした時間を……」
「あら、私がどれだけ仕事できるか分からない訳じゃないでしょうに」
瞬間、なにもいえなくなったハンスに思わず笑いながら、私は仕事場へと向かう。
「……お願いですからきちんと休んでくださいね?」
「私、朝の分早めに仕事終わらせてるじゃない?」
「……それはそうですが」
「ならいいじゃない。ほら、いくわよ」
「お嬢様! まだ話しは終わって……! ああ、分かりましたよ!」
後ろから追いかけてくるハンスを見ながら私は、仕事場へと向かう。
声をあげ、笑いながら。
婚約破棄から数ヶ月、決して悩まなかったとは言わない。
──けれど、現在私は忙しくも充実した日々を送っていた。
25
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
『身代わりに差し出された令嬢ですが、呪われた公爵に溺愛されて本当の幸せを掴みました』
鷹 綾
恋愛
孤児院で「九番」と呼ばれ、価値のない存在として育った少女ノイン。
伯爵家に引き取られても待っていたのは救いではなく、実の娘エミリアの身代わりとして、“呪われた化け物公爵”フェルディナンドの婚約者に差し出される運命だった。
恐怖と嘲笑の中で送り出された先で出会ったのは――
噂とは裏腹に、誰よりも誠実で、誰よりも孤独な公爵。
角と鱗に覆われたその姿は、血筋ではなく、長年にわたる呪いと心の傷によるものだった。
そしてノインは気づく。
幼い頃から自分が持っていた、人の痛みを和らげる不思議な力が、彼の呪いに届いていることに。
「身代わり」だったはずの婚約は、やがて
呪いと過去に向き合う“ふたりだけの戦い”へと変わっていく。
孤独を知る公爵と、居場所を求めてきた少女。
互いを想い、手を取り合ったとき――
止まっていた運命が、静かに動き出す。
そして迎える、公の場での真実の発表。
かつてノインを蔑み、捨てた者たちに訪れるのは、痛快で静かな“ざまぁ”。
これは、
身代わりの少女が本当の愛と居場所を手に入れるまでの物語。
呪いが解けた先に待っていたのは、溺愛と、何気ない幸せな日常だった。
婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます
ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。
理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。
……正直、めんどくさい。
政略、責任、義務、期待。
それらすべてから解放された彼女は、
聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。
毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。
何もしない、何も背負わない、静かな日常。
ところが――
彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、
一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが
異様なほど平和になっていく。
祈らない。
詠唱しない。
癒やさない。
それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。
「何もしない」ことを選んだ元聖女と、
彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。
これは、
誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、
いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる