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離縁の準備
第三十五話
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私とアルダム。
そのどちらも口を開かなかった。
……開けなかった。
何とも言えない空気が私達の間に充満する。
「え、ライラ様……?」
「っ!?」
そんな私を正気に戻したのは、マリアの声だった。
その瞬間私は悟る。
なにも考えずに、身内の前でこんなことをしてしまったことに。
あまりの衝撃に私の頭は真っ白になり、涙目になる。
本当になにをしているのだ私は。
しかし、そう呆然としている時間も、私には与えられなかった。
「ライラ様にはお好きな……」
「わあああああ」
「ん!? むぐ! むぐぐ!」
次の瞬間、私は自分でもこんなに動けたのか、という動きでマリアの口を押さえていた。
まさか、この勘違いがここで響くとは……。
ちゃんと訂正しておけば良かった。
そう思いながらも、私は必死にマリアの口を押さえたまま扉に移動していく。
「ま、まあ、アルダムにはそれくらい感謝しているってこと! 本当にありがとうね!」
「え? あ、はい」
「急に忙しくなったので私はこれで!」
「あ、はい」
アルダムの言葉がはいしかないことにつけ込んで、私はずるずると扉にいどうしていく。
「それじゃ、またゆっくり話しましょ! 落ち着いたら連絡するから!」
本当は私の心が整理できたら、だが。
「身体壊さないでね!」
それだけを告げて私は扉のそとへ、おとなしくなったマリアをいそいそと運送する。
「え、はい。ライラ嬢もお大事に……。どうしました?」
その途中、聞こえたアルダムの言葉に、私は部屋の中に舞い戻った。
「ライラ」
「……はい?」
「建前でも私達は夫婦なんでしょ。いつまでも嬢はおかしいわ」
顔の赤みを自覚しながら、私はそう胸を張って告げる。
それに同じくらい顔を赤くしながら、アルダムが告げる。
「そ、それでは。……ライラも身体を大事に」
ああ、頬がゆるむ。
告白ではないただの契約でしかない結婚。
だが、今はそれで満足しておこう。
「はい。──旦那様」
私は足早に部屋を去っていく。
その口元には、隠し切れない笑みが浮かんでいた……。
◇◇◇
何とか更新できました……。
次回最終話で、その後番外編(ネタばらし)が諸々続く予定になります。
そのどちらも口を開かなかった。
……開けなかった。
何とも言えない空気が私達の間に充満する。
「え、ライラ様……?」
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そんな私を正気に戻したのは、マリアの声だった。
その瞬間私は悟る。
なにも考えずに、身内の前でこんなことをしてしまったことに。
あまりの衝撃に私の頭は真っ白になり、涙目になる。
本当になにをしているのだ私は。
しかし、そう呆然としている時間も、私には与えられなかった。
「ライラ様にはお好きな……」
「わあああああ」
「ん!? むぐ! むぐぐ!」
次の瞬間、私は自分でもこんなに動けたのか、という動きでマリアの口を押さえていた。
まさか、この勘違いがここで響くとは……。
ちゃんと訂正しておけば良かった。
そう思いながらも、私は必死にマリアの口を押さえたまま扉に移動していく。
「ま、まあ、アルダムにはそれくらい感謝しているってこと! 本当にありがとうね!」
「え? あ、はい」
「急に忙しくなったので私はこれで!」
「あ、はい」
アルダムの言葉がはいしかないことにつけ込んで、私はずるずると扉にいどうしていく。
「それじゃ、またゆっくり話しましょ! 落ち着いたら連絡するから!」
本当は私の心が整理できたら、だが。
「身体壊さないでね!」
それだけを告げて私は扉のそとへ、おとなしくなったマリアをいそいそと運送する。
「え、はい。ライラ嬢もお大事に……。どうしました?」
その途中、聞こえたアルダムの言葉に、私は部屋の中に舞い戻った。
「ライラ」
「……はい?」
「建前でも私達は夫婦なんでしょ。いつまでも嬢はおかしいわ」
顔の赤みを自覚しながら、私はそう胸を張って告げる。
それに同じくらい顔を赤くしながら、アルダムが告げる。
「そ、それでは。……ライラも身体を大事に」
ああ、頬がゆるむ。
告白ではないただの契約でしかない結婚。
だが、今はそれで満足しておこう。
「はい。──旦那様」
私は足早に部屋を去っていく。
その口元には、隠し切れない笑みが浮かんでいた……。
◇◇◇
何とか更新できました……。
次回最終話で、その後番外編(ネタばらし)が諸々続く予定になります。
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