旦那様、離縁の準備が整いました〜才女が限界を迎えたら〜

影茸

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離縁の準備

第二十七話

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「な……! そんなことがあり得るのか!」

「初の女性領主だと……!」

「し、しかし国王陛下の勅印が……! それに女王陛下の署名まで……」

「豊穣の女神と女王陛下の仲がよろしいことは聞いていたが、こんなことが……」

 かろうじて聞き取れたのはそれくらいか。
 そんな会話しか聞こえないほどの騒ぎが今、会場で起きていた。
 しかし、それもそうだろう。
 今まで女性の貴族などありはしなかったのだから。
 そもそもを言えば、こんな風に離縁できた女性は一体どれだけか。
 それが認められたのは、私の友人たる女王陛下が国王陛下を説得してくれたからにほかならない。

「ありがとね……!」

 騒ぎの中、私は小さく友への礼を口にする。
 彼女がいなければ、私の計画はそもそも達成できなかっただろうと。

「ふざけるな! 私は認めないと言ったはずだ!」

 その騒ぎに水を差す怒声が響いたのはそんな時だった。
 声の主たるマキシムは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「何が女王陛下だ! スリラリアはドリュード伯爵家の、私のものだ!」

 血走った目で叫ぶマキシム。
 その姿に、私は自分の心がすっとさめていくのを感じていた。
 何が私のものだ。
 今まで一度たりとてスリラリアの為になる事をしなかったくせに。
 しかし、その思いを封じ込めて私は形だけでも申し訳なさそうな表情を浮かべて見せた。

「……マキシム様今までの厚遇大変感謝しております。にも関わらず、このような形になってしまって」

「ふざけるな! 貴様は今自分が何をしているのか分かっていないのか!」

 どの口が言うのか。
 そんな言葉が喉元までせり上がってきて、私はまたもやその思いを飲み込む。
 もう自分の怒りを隠す必要などないことを知りながら。

「ドリュード伯爵閣下、お言葉を慎んだ方が……」

「は……?」

 ──同時に、もうそんな事をしなくてもマキシムの圧倒的な敗北が決まっている事を知っていたが故に。

「そうです! 女王陛下を悪し様に言われることはどうか、お控えください!」

「国王陛下の刻印もあるのですよ!」

 そう言って続けざまに声を上げてたのは、初夜式に招かれていた貴族達だった。
 彼らは必死の形相で言い募る。

「う、うるさい! こんな理不尽が許されて……!」

「お、落ち着いてください!」

「ふざけるな! どうして誰も私の肩を持たない!?」

 いつもは自分のイエスマンであったはずの貴族達の裏切り。
 その変貌にマキシムが声を上げたのはその時だった。

 ……その声に内心申し訳ない表情をしながら、内心私は笑っていた。

 当たり前だろうと。
 彼らは今までドリュード家が優勢だったからついてきただけの存在でしかない。
 彼らに今まで面倒を見てくれたマキシムへの恩義などない。
 ただ、強い人間についていくだけのコバンザメ。

 ──そして今、この場に置ける強者はスリラリアという金のなる木を手にした私だった。
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