旦那様、離縁の準備が整いました〜才女が限界を迎えたら〜

離縁の準備

第二十三話

「ライラ、様？」

　呆然とこちらをみるマリアに私は笑う。

「私はこの件に置ける全権限を貴女に与え、貴女はそれに答えた。なら、この件に置ける責任は全て私のものよ」

「ちが、私は……」

「──悪いけど、これだけはマリアにも譲れないわ。貴女は私の命令を完璧に遂行したのだもの」

　その私の言葉にマリアの顔がくしゃりとゆがむ。
　……しかし、マリアは知らないだろう。
　本当は私の方こそ、泣きたくてマリアにすがりついてお礼を言いたくてしかないことを。
　けれど、今はまだ全て終わっていない。
　それを理解しているからこそ、私は荷物の準備をしながらマリアに笑いかける。

「全てが終わった後に、全てを話し合いましょう。お礼も謝罪も。だから、少し待っていて」

「待ってください、私も……」

「大丈夫。マリアは休んでいて。大分無理してたきたんでしょう？　疲れが見えているわ」

　その言葉にマリアは無言でうつむく。
　その姿はいつもの美しい姿と違って整えられていない姿をしており、マリアの苦労を物語っていた。
　そもそも、アルダムに私に部屋にくるように告げさせたことにいい、私の書斎に忍んでいたことといい、無理して私のこの書類を渡してくれたことは容易に想像できた。
　それを残り越えてマリアはこの書類を私に渡してくれた。
　なら。

「後は私の仕事よ。──貴女の主にも、少しくらいかっこよく仕事をさせてちょうだい」

　私の言葉にまたマリアの顔がまたゆがみ、しかし次の瞬間勢いよく頭を下げた。

「ご武運をお祈りしております」

　その言葉に私は思わ笑ってしまいそうになる。
　武運、確かに今からが私の戦場だと考えれば、それは粋な言葉だった。
　部下の気遣いに微笑み、準備を終えた私は扉に手をかける。

「ええ。勝利報告を楽しみにしていて」

　そして私は自分の書斎を後にした。


◇◆◇


「どこにいたのだ、ライラ……！」

　怒声をあげるマキシム。
　それを見ながら私は思う。

　思ったより早く見つかって助かったと。

「あの公爵家の若造に私がどれだけ屈辱を味わったか貴様に理解できるか！」

　その怒声を聞きながら、私は思う。
　……先ほどまでは憂鬱きわまりなかったマキシムの怒声にこんなに心が動かないとは、と。

「聞いているのか、ライラ！　そもそも貴様はどこに行っていた！　その荷物は何だ！」

　今までの鬱憤をはらす様にマキシムがそう怒鳴りつけてくる。
　それに私はあえて愁傷な顔をして告げる。

「……申し訳ありません、私もこの初夜式に向けて皆様に向けてサプライズを考えておりまして」

「サプライズ……？」

「旦那様、この日を楽しみにしていたのは旦那様だけではないのですよ」

　そうはずしげに私が告げると、わかりやすくマキシムの顔が緩む。

「そ、そうか。まあ、何だそれならそろそろ式が始まる。急ごう」

　そう言って急ぐマキシムを見ながら私は思う。
　是非、楽しみにしてほしいと。

　その内心を、先を急ぐマキシムはいっさい知るよしもなかった。