旦那様、離縁の準備が整いました〜才女が限界を迎えたら〜

影茸

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離縁の準備

第十九話

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「あら……。かわいそうに……」

「初夜式なんて見せしめにされるなんて……」

 マキシムにつれられ、外にでた私が耳にしたのはそんなつぶやきだった。
 私が目を向けるとそこにいたのは、私を敵視する侍女達の姿だった。
 心配そうなそぶりをとりながらその口元はゆがんでいて、私は理解する。
 彼女達は私を内心では私を嘲っているだけだと。
 しかし、それを理解した上で私はほほえんでみせる。

 私は問題ない、そう言いたげな自身と強さにあふれた笑みで。

「……っ!」

 その私の笑みを見て、侍女達が息をのむのがここからでも分かる。
 しかし、その時もう私は彼女たちから目をそらしていた。
 こんなことで折れている私なら、こんなところにたっていないのだ。
 あの時、私が交わした決意は変わらない。

 私の大切な人を守れるなら、この身体程度捧げてやる。

「ではいきましょうか、旦那様」

「ああ、まずはこっちだ!」

 そう言って意気揚々と歩き出すマキシムの背中に私は無言でついていく。
 その足取りに迷いはなかった。


 ◇◆◇


 それから私は様々な貴族に挨拶をすることになった。
 その貴族から向けられる視線は様々だった。
 同情の視線に、私を敵意する視線に、嘲る視線。

 しかし、その全てに私が笑顔を絶やすことはなかった。
 当たり前だ。
 何せ、私はもう覚悟を決めているのだから。
 この初夜式から逃げないと。

 ──そして逃げないと決めたなら、この初夜式から何かを得るのは私にとって決定事項だった。

 私には俯いて初夜式を過ごす気など一切なかった。
 そして、今回の初夜式で私をみた貴族達は私の評価を変えることになるだろう。
 私は社交界で言われるようなお淑やかな人間ではないことを。
 それどころか、酷くしたたかな人間であること。
 なんなら、この初夜式でさえ何かの企みだと判断した人間もいるかもしれない。

 そしてその全ては私の今後に必要なものだった。
 あくまで女主人にはそのたくましさは必要ではないかもしれない。
 しかし、私がスリラリアの領主となった暁はその評判は必ず私の背中を押してくれる。
 したたかな人間、それ以上のほめ言葉は領主にはないのだから。

 そう考えながら私は胸を張る。
 少しでも弱みを見せないように。

「次はお前のために招待した方だ。──公爵家当主アルダム閣下だ」

「え?」

 ……しかし、そう私が自分を鼓舞していられたのは、マキシムのその言葉を聞くまでだった。

 一瞬、その言葉を私は受け入れられなかった。
 それが嘘であることを祈り、私はマキシムを見つめる。
 しかし、そのにやにやとした表情に私はその言葉が嘘ではないことを理解する。

「さあ、公爵閣下がお待ちだ。行くぞ」

 次の瞬間、私の思考の整理を待つこともなく、マキシムは客室の扉に手をかけた。
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