15 / 40
離縁の準備
第十四話
しおりを挟む
私の言葉にマリアの表情は変わらない。
ただ、その目が何より雄弁に物語っていた。
……どれほど残酷な命令を下すのだと。
「貴女は私の最高の腹心よ」
しかし、それを理解した上で私は笑う。
心からの本心で。
「私がどれほどの地獄を見てきたか貴女は知っているでしょう?」
そういいながら、私の頭に浮かぶのは常にその隣にいてくれた人間達の存在だった。
マリア、スリラリアの人々だけではない。
公爵家現当主アルダムに、王妃様。
その全てのおかげで今の私がいて、その為なら同じ地獄をみることさえ私はいとわない。
「これから起きる程度のことなんて、私にとっては些事よ」
そう笑いながら告げたとき、マリアの顔に浮かんだのはあきらめだった。
……もう、私に何を言っても無駄だという。
それでも、マリアは口を開く。
「誰も、それは望んでいなくてでもですか?」
感情を全て殺し、マリアは続ける。
「私も、スリラリアの人間も……公爵閣下も。ライラ様を犠牲にすることなど望んではおりません。これ以上貴女が犠牲になることを望む人間はいません」
そのマリアの言葉に私は内心でうなずく。
知っているのだ。
私が人に恵まれていることも、彼らが私の犠牲など望んでいないことも。
「でも、私が望むわ。全力を出さずに逃げることを他でもない自分が許さない」
そう、私は理解していた。
今からの行動は、誰かの為なんて偽善でさえない。
私が自分の思うままにする、ただのわがままにすぎないと。
「だから、私は自分の思うことを貫く、それだけよ」
「わかり、ましたわ」
私の言葉にマリアがうなずく。
それに分かってくれたかと、私は一瞬安堵を抱く。
しかし、すぐにその感情は消えることになった。
ずっと、表情を変えないマリアに私が違和感を抱いたのはその時だった。
「……でしたら、ライラ様は別の人間がわがままを行っても止めはされませんわよね?」
「っ!」
その時、初めてマリアが笑みを漏らす。
……私が自分がはめられたと気づいたのはその時だった。
「ライラ様が私達を助けるために身を捧げるというなら、私マリアも宣言させていただきましょう。──私達がいながら、ライラ様が身を捧げる未来などあり得ない、と」
にっこりと笑ったマリア。
その表情は同性の私でさえ見ほれてしまうほどに美しかった。
「初夜式の前に、公爵家からスリラリアの後ろ盾を何としてでももぎ取ってきますわ。どうか、しばしの留守の許可をくださいますようお願いいたします」
ただ、その目が何より雄弁に物語っていた。
……どれほど残酷な命令を下すのだと。
「貴女は私の最高の腹心よ」
しかし、それを理解した上で私は笑う。
心からの本心で。
「私がどれほどの地獄を見てきたか貴女は知っているでしょう?」
そういいながら、私の頭に浮かぶのは常にその隣にいてくれた人間達の存在だった。
マリア、スリラリアの人々だけではない。
公爵家現当主アルダムに、王妃様。
その全てのおかげで今の私がいて、その為なら同じ地獄をみることさえ私はいとわない。
「これから起きる程度のことなんて、私にとっては些事よ」
そう笑いながら告げたとき、マリアの顔に浮かんだのはあきらめだった。
……もう、私に何を言っても無駄だという。
それでも、マリアは口を開く。
「誰も、それは望んでいなくてでもですか?」
感情を全て殺し、マリアは続ける。
「私も、スリラリアの人間も……公爵閣下も。ライラ様を犠牲にすることなど望んではおりません。これ以上貴女が犠牲になることを望む人間はいません」
そのマリアの言葉に私は内心でうなずく。
知っているのだ。
私が人に恵まれていることも、彼らが私の犠牲など望んでいないことも。
「でも、私が望むわ。全力を出さずに逃げることを他でもない自分が許さない」
そう、私は理解していた。
今からの行動は、誰かの為なんて偽善でさえない。
私が自分の思うままにする、ただのわがままにすぎないと。
「だから、私は自分の思うことを貫く、それだけよ」
「わかり、ましたわ」
私の言葉にマリアがうなずく。
それに分かってくれたかと、私は一瞬安堵を抱く。
しかし、すぐにその感情は消えることになった。
ずっと、表情を変えないマリアに私が違和感を抱いたのはその時だった。
「……でしたら、ライラ様は別の人間がわがままを行っても止めはされませんわよね?」
「っ!」
その時、初めてマリアが笑みを漏らす。
……私が自分がはめられたと気づいたのはその時だった。
「ライラ様が私達を助けるために身を捧げるというなら、私マリアも宣言させていただきましょう。──私達がいながら、ライラ様が身を捧げる未来などあり得ない、と」
にっこりと笑ったマリア。
その表情は同性の私でさえ見ほれてしまうほどに美しかった。
「初夜式の前に、公爵家からスリラリアの後ろ盾を何としてでももぎ取ってきますわ。どうか、しばしの留守の許可をくださいますようお願いいたします」
273
お気に入りに追加
1,053
あなたにおすすめの小説

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……


愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる