9 / 40
離縁の準備
第八話
しおりを挟む
背筋をぞっとする感覚が走る。
それを感じながら私の心にあったのは、はめられたのではないかという思いだった。
七年、決して短くない時間を過ごしてきた私はマキシムという男についてある事を知っていた。
すなわち、目の前の男は時々妙な行動力を発揮する事を。
それはいいものではなく、むしろ味方の足を引っ張る最悪な形でしか発揮されない。
……その時特有のゆがんだ目を、マキシムは浮かべていた。
「なあ、ライラ。私を愛していると言うならば、そろそろだと思うのだ」
「……何が、ですか?」
そう聞き返しながら、私はマキシムが何を言いたいのか理解していた。
すなわち、自分と身体の関係を持てといいたいのだと。
「夫婦の営みについて、だよ」
そして、その私の想像は正解だった。
「マキシム様、恥ずかしいですわ……」
そう言って内心顔を逸らしながら、私は内心吐き捨てうる。
最初は好みでないと、どれだけ私が求めても歯牙にかけないくせに、少しでも容姿が良くなれば、私が成果を上げれば求めてくる。
それでどうして私が望んで答えると思っているのだろうか、と。
──貴様みたいな醜い女、めとってあげただけで感謝しろ。
──お前に女としての価値を感じることなどあるわけないだろうが。女に生まれただけでそうして勘違いできるのは才能だな。
マキシムに言われた心ない言葉は今も私の胸の中、ずっと傷を主張し続けているのに。
私がマキシムを拒絶するのは異性としてみれないというだけではない。
……以前の言葉がフラッシュバックして、恐怖を感じるからだ。
故に私はいつものように断ろうとする。
「もう少し、もう少しだけお待ちください。公爵家との契約はもう少しなのです。それさえ終われば……」
「そうか。それならそれさえ終われば、初夜式をあげようではないか!」
「……っ!」
しかし、その為に浮かべていた私の笑顔は、マキシムの言葉に固まった。
初夜式、それは貴族社会においてもう廃れたといっていい悪習慣。
……妻の初夜を奪う日にあげる式だった。
その信じられない儀式が流行っていたのは、今よりもっと女性の立場が低かったとされた数十年前か。
今ではあまりに品もないとされ、開いただけで誰もが眉を潜める。
「どうした? うれしくはないのか?」
「……いえ、感激のあまり言葉がでなくて」
故に、何とかそう答えた私の声はかすれていた。
「そうだろう……! とうとうお前が私のものになるのだ! それを宣伝しなくてどうする!」
そう笑うマキシムに、私は吐き気がする。
しかし、スリラリアが私のものになるまでもう少し。
特に公爵家の契約が終わった時、私はもう離縁している計画なのだから。
「はい、楽しみですわ……!」
だから、私は何とかそう笑顔をうかべる。
マキシムの顔に満面の笑顔が浮かんだのはその時だった。
「そうか! なら直ぐに公爵家との契約を終わらせてこう」
「は?」
「安心しろ! もう既に先代公爵家当主との話は決まっている!」
……そう言ってマキシムが出したのは、暴君と呼ばれるかつての公爵家当主の存在だった。
それを感じながら私の心にあったのは、はめられたのではないかという思いだった。
七年、決して短くない時間を過ごしてきた私はマキシムという男についてある事を知っていた。
すなわち、目の前の男は時々妙な行動力を発揮する事を。
それはいいものではなく、むしろ味方の足を引っ張る最悪な形でしか発揮されない。
……その時特有のゆがんだ目を、マキシムは浮かべていた。
「なあ、ライラ。私を愛していると言うならば、そろそろだと思うのだ」
「……何が、ですか?」
そう聞き返しながら、私はマキシムが何を言いたいのか理解していた。
すなわち、自分と身体の関係を持てといいたいのだと。
「夫婦の営みについて、だよ」
そして、その私の想像は正解だった。
「マキシム様、恥ずかしいですわ……」
そう言って内心顔を逸らしながら、私は内心吐き捨てうる。
最初は好みでないと、どれだけ私が求めても歯牙にかけないくせに、少しでも容姿が良くなれば、私が成果を上げれば求めてくる。
それでどうして私が望んで答えると思っているのだろうか、と。
──貴様みたいな醜い女、めとってあげただけで感謝しろ。
──お前に女としての価値を感じることなどあるわけないだろうが。女に生まれただけでそうして勘違いできるのは才能だな。
マキシムに言われた心ない言葉は今も私の胸の中、ずっと傷を主張し続けているのに。
私がマキシムを拒絶するのは異性としてみれないというだけではない。
……以前の言葉がフラッシュバックして、恐怖を感じるからだ。
故に私はいつものように断ろうとする。
「もう少し、もう少しだけお待ちください。公爵家との契約はもう少しなのです。それさえ終われば……」
「そうか。それならそれさえ終われば、初夜式をあげようではないか!」
「……っ!」
しかし、その為に浮かべていた私の笑顔は、マキシムの言葉に固まった。
初夜式、それは貴族社会においてもう廃れたといっていい悪習慣。
……妻の初夜を奪う日にあげる式だった。
その信じられない儀式が流行っていたのは、今よりもっと女性の立場が低かったとされた数十年前か。
今ではあまりに品もないとされ、開いただけで誰もが眉を潜める。
「どうした? うれしくはないのか?」
「……いえ、感激のあまり言葉がでなくて」
故に、何とかそう答えた私の声はかすれていた。
「そうだろう……! とうとうお前が私のものになるのだ! それを宣伝しなくてどうする!」
そう笑うマキシムに、私は吐き気がする。
しかし、スリラリアが私のものになるまでもう少し。
特に公爵家の契約が終わった時、私はもう離縁している計画なのだから。
「はい、楽しみですわ……!」
だから、私は何とかそう笑顔をうかべる。
マキシムの顔に満面の笑顔が浮かんだのはその時だった。
「そうか! なら直ぐに公爵家との契約を終わらせてこう」
「は?」
「安心しろ! もう既に先代公爵家当主との話は決まっている!」
……そう言ってマキシムが出したのは、暴君と呼ばれるかつての公爵家当主の存在だった。
243
お気に入りに追加
1,053
あなたにおすすめの小説

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……


愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる