旦那様、離縁の準備が整いました〜才女が限界を迎えたら〜

影茸

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離縁の準備

第八話

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 背筋をぞっとする感覚が走る。
 それを感じながら私の心にあったのは、はめられたのではないかという思いだった。

 七年、決して短くない時間を過ごしてきた私はマキシムという男についてある事を知っていた。
 すなわち、目の前の男は時々妙な行動力を発揮する事を。
 それはいいものではなく、むしろ味方の足を引っ張る最悪な形でしか発揮されない。

 ……その時特有のゆがんだ目を、マキシムは浮かべていた。

「なあ、ライラ。私を愛していると言うならば、そろそろだと思うのだ」

「……何が、ですか?」

 そう聞き返しながら、私はマキシムが何を言いたいのか理解していた。
 すなわち、自分と身体の関係を持てといいたいのだと。

「夫婦の営みについて、だよ」

 そして、その私の想像は正解だった。

「マキシム様、恥ずかしいですわ……」

 そう言って内心顔を逸らしながら、私は内心吐き捨てうる。
 最初は好みでないと、どれだけ私が求めても歯牙にかけないくせに、少しでも容姿が良くなれば、私が成果を上げれば求めてくる。
 それでどうして私が望んで答えると思っているのだろうか、と。

 ──貴様みたいな醜い女、めとってあげただけで感謝しろ。

 ──お前に女としての価値を感じることなどあるわけないだろうが。女に生まれただけでそうして勘違いできるのは才能だな。

 マキシムに言われた心ない言葉は今も私の胸の中、ずっと傷を主張し続けているのに。
 私がマキシムを拒絶するのは異性としてみれないというだけではない。
 ……以前の言葉がフラッシュバックして、恐怖を感じるからだ。
 故に私はいつものように断ろうとする。

「もう少し、もう少しだけお待ちください。公爵家との契約はもう少しなのです。それさえ終われば……」

「そうか。それならそれさえ終われば、初夜式をあげようではないか!」

「……っ!」

 しかし、その為に浮かべていた私の笑顔は、マキシムの言葉に固まった。
 初夜式、それは貴族社会においてもう廃れたといっていい悪習慣。
 ……妻の初夜を奪う日にあげる式だった。

 その信じられない儀式が流行っていたのは、今よりもっと女性の立場が低かったとされた数十年前か。
 今ではあまりに品もないとされ、開いただけで誰もが眉を潜める。

「どうした? うれしくはないのか?」

「……いえ、感激のあまり言葉がでなくて」

 故に、何とかそう答えた私の声はかすれていた。

「そうだろう……! とうとうお前が私のものになるのだ! それを宣伝しなくてどうする!」

 そう笑うマキシムに、私は吐き気がする。
 しかし、スリラリアが私のものになるまでもう少し。
 特に公爵家の契約が終わった時、私はもう離縁している計画なのだから。

「はい、楽しみですわ……!」

 だから、私は何とかそう笑顔をうかべる。
 マキシムの顔に満面の笑顔が浮かんだのはその時だった。

「そうか! なら直ぐに公爵家との契約を終わらせてこう」

「は?」

「安心しろ! もう既に先代公爵家当主との話は決まっている!」

 ……そう言ってマキシムが出したのは、暴君と呼ばれるかつての公爵家当主の存在だった。
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