無能聖女は今日も胸を張る

影茸

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第七話

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 水晶は光っていない訳ではなかった。
 極微少に光っており、結果私の才能はどれも最低値だと判明した。

 ……その話をアズリア先生から聞いた私は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 頭の中では、意味のない疑問に埋め尽くされている。

 どうしてこんなことになったのか?
 私の努力は何だったのか?
 こんな結果になるなら、なぜ聖女の才能などというものが与えられたのか?

 私の人生とは、一体何なのか?

「……つらい言葉になるのは分かっている。しかし、お前には言わないといけないことがある」

 呆然と考える私をみるアズリア先生の顔に浮かぶのは、私への同情と心配だった。
 しかし、それを決意に変えてアズリア先生は口を開く。

「お前は聖女にはならず、両親の元に……」

「嫌です!」

 その瞬間、私は間髪入れずそう叫んでいた。
 痛々しいものを見るようなアズリア先生の表情。
 それにアズリア先生の言葉が善意からのものであることを理解しながらも、私は叫ぶ。

「私は聖女です……!」

 涙の滲んだ私の叫び声に、アズリア先生はしばらくの間なにも言わなかった。
 しかし、少ししてゆっくりと口を開く。

「そうか。分かった」

 その瞬間、私の胸にわずかな喜びが浮かぶ。
 私には確かに才能はない。
 それでも、今までのことを見てくれる人はいるのだと。
 まだ、私は終わってないと。
 そう思いながら、私はふと気づく。

 ……そう言えば、まだセリナに何のお礼も伝えられていないと。

 しかし、すぐにその思いは私の胸に苦いものとなって残る。
 自分でも白状であると思う。
 それでも、今の私にはセリナにおめでとうと言うことなど出来なかった。

「もう少し、後で。私が聖女としてしっかり動けるようになったら……」

 拳を握りしめ、私は自分に言い聞かせるようにそう呟く。
 けれど、その時の私は知らない。

 ……その自分の決断の先、どんな苦労が待っているかということを。


 ◇◆◇


「もしかして、あの子が……?」

「え、あんな頑張っていたのに」

 後ろから聞こえる声。
 それを無視しながら、私は自分の手に持つゴミをゴミ箱に投げ入れる。
 しかし、気にしない振りをしたところで、話が終わることはなかった。

「それでまだ、見習い聖女の仕事をしてるの?」

「確かにそれだけなら、聖女の才能なんてなくても出来るものね」

 心臓が、痛い。
 出来れば、こんな場所から逃げ出してしまいたい。
 そんな願いもかなうことなく、彼女たちは続ける。

「ーー所詮、平民の子供って訳ね」

 ……致命的なその一言を。

 必死に、私は唇をかみしめ、この場から逃げ出すのをこらえる。
 そんな私の様子に気づくこともなく、彼女たちは去っていく。

「私は間違ったの?」

 適正審査、私が無能聖女と認められたその日から、すでに三ヶ月の月日が流れていた。
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みんなの感想(1件)

ぷりん
2023.09.06 ぷりん

読み始めたばかりなのですが、あらすじと1ページ目にある「適正診査」は「適性検査(あるいは審査)」なのではという気がしますが、違うのでしょうか。

適正→適切で正しいこと
適性→性質があっているかどうか

診査→身体の状態を調べること
審査→詳しく調べて適否・正否・優劣などを調べること
検査→基準をもとに異常の有無・的不適を調べること、測定・試験を経て観察と判定から評価すること

解除

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