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第六話
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「……っ」
その視線に気づいた時、私は反射的に息を呑んでいた。
今更私は気づく。
セリナの後に、適正診査を受けるという意味を。
私の背中に、暖かい手がふれたのはそんな時だった。
「落ち着け」
「……アズリア先生?」
私が顔を向けると、そこにいたのはいつになく優しい顔をしたアズリア先生だった。
動揺を隠せない私に、アズリア先生はその優しい顔のまま告げる。
「こんな才能、私だってはじめてみた。その次に、診査するのに緊張するななんて無理な話だって分かっている。だが、それでも気負うなよ、アリア」
優しく、私の背中をなでるアズリア先生の手に、私はなぜか無性に泣きたくなる。
「そして、お前の才能がセリナに及ばないものであったとしても気にやむなよ。私はたとえそうであったとしても、お前には関係と思っているのだから」
少し、照れくさそうに、それでも意を決した様子を見せたアズリア先生は、私の耳元でささやく。
「ーー私はこれでもお前を買ってるんだ。気負わず、自分の才能を確かめてこい」
そういって、素早く背を翻したアズリア先生。
その背中を見ながら、私は少しの間呆然と立ち尽くしていた。
あの厳しい先生に、そんなことを言われるなど、私は思ってもいなかった。
気づけば、私の口元には笑みが浮かんでいた。
「……私を買ってるか」
そう呟いた私の心には、もう不安は存在しなかった。
ただ、思う。
なにを私は心配していたのだと。
特別な才能など、私にはいらない。
私には、自分の才能を育てて行くだけの能力があるのだから。
その思いに私は、胸を張りながらゆっくりと水晶を目指して歩き出す。
早く終わらせて、セリナのお祝いをするのだ。
そう思いながら、私は水晶へと手を置く。
「……え?」
私の動きが鈍ったのは、その時だった。
なにが起きたのか分からず、私は呆然と顔をあげる。
すると、私の目に映ったのは同じく困惑を隠せない様子のアズリア先生の顔だった。
「ーーどうして、水晶が光らない?」
そう、私達の困惑の原因となっているのは私がふれているのにも関わらず、一切光らない水晶だった。
セリナとは違う意味でざわつく中、アズリア先生が私を押しのけ前にでる。
「……少し下がっていろ」
余裕のない様子で私にそう告げると、アズリア先生はぎこちなく私に笑いかける。
「どうやら、少し水晶の機能が停止しているようだな」
そういいながら先生は水晶を覗き込み、次の瞬間動きを止めた。
「せん、せい?」
私が言いようの嫌な予感を覚えたのはその時だった。
呆然と動けない私に対し、先生は答えることはなかった。
代わりに、この場にいる全員に向かって告げる。
「ーーアリア、すべての才能に最低限の適正しかなし」
それが私の人生が変わった日だった。
その視線に気づいた時、私は反射的に息を呑んでいた。
今更私は気づく。
セリナの後に、適正診査を受けるという意味を。
私の背中に、暖かい手がふれたのはそんな時だった。
「落ち着け」
「……アズリア先生?」
私が顔を向けると、そこにいたのはいつになく優しい顔をしたアズリア先生だった。
動揺を隠せない私に、アズリア先生はその優しい顔のまま告げる。
「こんな才能、私だってはじめてみた。その次に、診査するのに緊張するななんて無理な話だって分かっている。だが、それでも気負うなよ、アリア」
優しく、私の背中をなでるアズリア先生の手に、私はなぜか無性に泣きたくなる。
「そして、お前の才能がセリナに及ばないものであったとしても気にやむなよ。私はたとえそうであったとしても、お前には関係と思っているのだから」
少し、照れくさそうに、それでも意を決した様子を見せたアズリア先生は、私の耳元でささやく。
「ーー私はこれでもお前を買ってるんだ。気負わず、自分の才能を確かめてこい」
そういって、素早く背を翻したアズリア先生。
その背中を見ながら、私は少しの間呆然と立ち尽くしていた。
あの厳しい先生に、そんなことを言われるなど、私は思ってもいなかった。
気づけば、私の口元には笑みが浮かんでいた。
「……私を買ってるか」
そう呟いた私の心には、もう不安は存在しなかった。
ただ、思う。
なにを私は心配していたのだと。
特別な才能など、私にはいらない。
私には、自分の才能を育てて行くだけの能力があるのだから。
その思いに私は、胸を張りながらゆっくりと水晶を目指して歩き出す。
早く終わらせて、セリナのお祝いをするのだ。
そう思いながら、私は水晶へと手を置く。
「……え?」
私の動きが鈍ったのは、その時だった。
なにが起きたのか分からず、私は呆然と顔をあげる。
すると、私の目に映ったのは同じく困惑を隠せない様子のアズリア先生の顔だった。
「ーーどうして、水晶が光らない?」
そう、私達の困惑の原因となっているのは私がふれているのにも関わらず、一切光らない水晶だった。
セリナとは違う意味でざわつく中、アズリア先生が私を押しのけ前にでる。
「……少し下がっていろ」
余裕のない様子で私にそう告げると、アズリア先生はぎこちなく私に笑いかける。
「どうやら、少し水晶の機能が停止しているようだな」
そういいながら先生は水晶を覗き込み、次の瞬間動きを止めた。
「せん、せい?」
私が言いようの嫌な予感を覚えたのはその時だった。
呆然と動けない私に対し、先生は答えることはなかった。
代わりに、この場にいる全員に向かって告げる。
「ーーアリア、すべての才能に最低限の適正しかなし」
それが私の人生が変わった日だった。
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