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1.パニック
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「ん、ここは?」
私、メアリ・ラスタールは暖かで柔らかい包み込むような感覚を感じて目を覚ました。
「えっ?」
目を開けると、私がいるのは家の中らしく、ふわふわのベッドで寝ていたことに気づく。
「何で、こんな所に?」
私は布団の感触に驚きながら、周りを見回す。
そして自分がいる場所は全く知らない場所であることに気づく。
そこは朝日が差し込み明るく、そして酷く綺麗な部屋だった。
貴族の別荘だとすれば、あまりにも質素すぎるが、平民のものだとすれば、本棚にぴっしりと詰め込まれた本に違和感を覚える。
今の時代本を印刷するのは手書きで、高価。そんなものを本棚一杯に詰めこめる程持っている平民など聞いたこともない。
「綺麗……」
だが、開け広げられた窓から自然豊かな庭が目に入った時、それらの違和感は直ぐに頭から散り散りになって消えて行った。
その庭には自然が溢れていた。
色取り取りの花が咲き乱れ、木々が深い影を刻んでいる。
さらには様々な鳥や虫たちが木々にとまっている。
「今までのことなんて、夢だったみたい……」
そしてその光景を見つめて、私はポツリと言葉を漏らした。
だが、その言葉がただの妄想であることに私は気づいていた。
今尚、痛みを訴える身体の彼方此方に出来た傷口が、
ー なぁ、どんな気分だよ売女?
「っ!」
そして心に深く刻み込まれた傷口がその妄想を否定する。
昨日、勇者に冤罪をかけられ両親を亡くしてから、私は悪役令嬢として国を追放された。
そしてその私を待っていたのは、元令嬢を手慰みにしようと待ち構えていた村人や、山賊たちだった。
役職を棄ててまで私についてきてくれた部下たちはその村人や山賊の手にかかって次々と死んで行った。
決して彼らは弱くはなかったし、山賊や村人達は強くはなかった。
だが、山賊や村人達は次から次へと増えてきて、最終的には古参の兵士とも逸れ、私は1人で逃げることとなった。
最後に残っている記憶は疲れ果てて、大きな木の根元で少し休もうと目を閉じたこと。
それから何があって私が今ここにいるのかは分からない。
「あれ?手当てされている……」
だが、私は手当てされた傷口を見て、恐らく親切なこの家の主が私をここまで運んでくれたのだろうと判断する。
いや、もしかすれば身体目当てで私を拾っただけなのかもしれないが。
「神様、この家の人がいい人でありますように……」
私はそのことに気づいて、そう祈る。
だが、祈って直ぐ意味もないことをしたことに気づいて笑った。
今までの私は敬遠な信徒だった。
だが、その宗教心は昨日殺された両親の魂とともに消え去った。
必死に祈り、それでも何も起こらなかったあの瞬間を思い出して、私は自分を自嘲する。
祈るだけの気力があれば、私は行動を起こすべきだったのだと、今ならば分かる。
だから私は今度こそは間違わないと誓う。
「私の手で、あの屑を殺してやる」
そう笑う私の胸の内はドロドロした黒い何かで埋め尽くされていた。
それはあの勇者への憎悪。
その憎悪は私は私を埋め尽くしていることがわかり、嗤う。
この憎悪は決して死んで行った両親が望んでいるものではないだろう。
だが、この憎悪が身体を覆っている時だけは両親を亡くし、国を追われた喪失感や絶望を感じないで済む。
私は身体を覆う憎悪に酔うように、または逃避するように笑い、囁くように誓う。
「必ず、私の手で!」
そして、その時だった。
扉が当然開き、外から誰かが入ってくるのが分かる。
私はこの家の住人が帰ってきたことを悟り、お礼を言おうとして口を開き、
「ああ、目が覚めたか」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
「っ!」
目の前の立つ人、男性を目にして絶叫した。
目の前に立つ男性、彼は決して奇妙な外見をしているというわけではなかった。
輝くような金髪に、優しげな目つき、そして整い切った容姿。
その姿はまさに理想の王子というべき外見で、
ー 売女なんだろ!抵抗せずに抱かせろよ!
「近寄ってこないで!」
だが、今の私にはトラウマを刺激する1人の男でしかなかった。
私の頭に必死に農民や村人逃げ回っていた、昨日の思い出が蘇る。
その途中、私は1人の薄汚れた男に組み敷かれ、そして押さえつけられた。
卑しく欲望に光る目に、荒い息遣い。
そこにいる男は私を犯そうとして、何とかその場は逃げることが出来たが、その出来事は今までの悲劇と相まって私の心に深いトラウマを作っていた。
「だ、大丈……」
私にはわかっていた。
目の前の男性はその記憶の男とは違うことを。
その男性目には私に対する欲望の類は一切浮かんでおらず、ただ純粋に私に対する気遣いが浮かび見えていた。
「出て行って!」
だが、私はその冷静な部分の訴えを聞き入れることが出来なかった。
パニックに陥り、私はベッドの上で必死に後退る。
「ごめん!」
男性も私がパニックに陥っていることが分かったのか、とにかく大人しくさせようと一歩私に向かって踏み出して、
「あ、ぁぁぁああああ!」
ーーーその瞬間、私はさらなるパニックに陥った。
「いっ!」
「寄らないで!触らないで!」
私は必死に男性に向かって側にあるものを投げつける。
それが何なのかも気に留めることさえできず、無様に泣きながら。
男性は私を刺激しないように部屋を後にし、最終的に私が少し落ち着いたのは男性が部屋を後にし、数分経ってからのことだった。
「っ!」
そして、床には男性のものらしき血が点々と扉まで続いていた………
私、メアリ・ラスタールは暖かで柔らかい包み込むような感覚を感じて目を覚ました。
「えっ?」
目を開けると、私がいるのは家の中らしく、ふわふわのベッドで寝ていたことに気づく。
「何で、こんな所に?」
私は布団の感触に驚きながら、周りを見回す。
そして自分がいる場所は全く知らない場所であることに気づく。
そこは朝日が差し込み明るく、そして酷く綺麗な部屋だった。
貴族の別荘だとすれば、あまりにも質素すぎるが、平民のものだとすれば、本棚にぴっしりと詰め込まれた本に違和感を覚える。
今の時代本を印刷するのは手書きで、高価。そんなものを本棚一杯に詰めこめる程持っている平民など聞いたこともない。
「綺麗……」
だが、開け広げられた窓から自然豊かな庭が目に入った時、それらの違和感は直ぐに頭から散り散りになって消えて行った。
その庭には自然が溢れていた。
色取り取りの花が咲き乱れ、木々が深い影を刻んでいる。
さらには様々な鳥や虫たちが木々にとまっている。
「今までのことなんて、夢だったみたい……」
そしてその光景を見つめて、私はポツリと言葉を漏らした。
だが、その言葉がただの妄想であることに私は気づいていた。
今尚、痛みを訴える身体の彼方此方に出来た傷口が、
ー なぁ、どんな気分だよ売女?
「っ!」
そして心に深く刻み込まれた傷口がその妄想を否定する。
昨日、勇者に冤罪をかけられ両親を亡くしてから、私は悪役令嬢として国を追放された。
そしてその私を待っていたのは、元令嬢を手慰みにしようと待ち構えていた村人や、山賊たちだった。
役職を棄ててまで私についてきてくれた部下たちはその村人や山賊の手にかかって次々と死んで行った。
決して彼らは弱くはなかったし、山賊や村人達は強くはなかった。
だが、山賊や村人達は次から次へと増えてきて、最終的には古参の兵士とも逸れ、私は1人で逃げることとなった。
最後に残っている記憶は疲れ果てて、大きな木の根元で少し休もうと目を閉じたこと。
それから何があって私が今ここにいるのかは分からない。
「あれ?手当てされている……」
だが、私は手当てされた傷口を見て、恐らく親切なこの家の主が私をここまで運んでくれたのだろうと判断する。
いや、もしかすれば身体目当てで私を拾っただけなのかもしれないが。
「神様、この家の人がいい人でありますように……」
私はそのことに気づいて、そう祈る。
だが、祈って直ぐ意味もないことをしたことに気づいて笑った。
今までの私は敬遠な信徒だった。
だが、その宗教心は昨日殺された両親の魂とともに消え去った。
必死に祈り、それでも何も起こらなかったあの瞬間を思い出して、私は自分を自嘲する。
祈るだけの気力があれば、私は行動を起こすべきだったのだと、今ならば分かる。
だから私は今度こそは間違わないと誓う。
「私の手で、あの屑を殺してやる」
そう笑う私の胸の内はドロドロした黒い何かで埋め尽くされていた。
それはあの勇者への憎悪。
その憎悪は私は私を埋め尽くしていることがわかり、嗤う。
この憎悪は決して死んで行った両親が望んでいるものではないだろう。
だが、この憎悪が身体を覆っている時だけは両親を亡くし、国を追われた喪失感や絶望を感じないで済む。
私は身体を覆う憎悪に酔うように、または逃避するように笑い、囁くように誓う。
「必ず、私の手で!」
そして、その時だった。
扉が当然開き、外から誰かが入ってくるのが分かる。
私はこの家の住人が帰ってきたことを悟り、お礼を言おうとして口を開き、
「ああ、目が覚めたか」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
「っ!」
目の前の立つ人、男性を目にして絶叫した。
目の前に立つ男性、彼は決して奇妙な外見をしているというわけではなかった。
輝くような金髪に、優しげな目つき、そして整い切った容姿。
その姿はまさに理想の王子というべき外見で、
ー 売女なんだろ!抵抗せずに抱かせろよ!
「近寄ってこないで!」
だが、今の私にはトラウマを刺激する1人の男でしかなかった。
私の頭に必死に農民や村人逃げ回っていた、昨日の思い出が蘇る。
その途中、私は1人の薄汚れた男に組み敷かれ、そして押さえつけられた。
卑しく欲望に光る目に、荒い息遣い。
そこにいる男は私を犯そうとして、何とかその場は逃げることが出来たが、その出来事は今までの悲劇と相まって私の心に深いトラウマを作っていた。
「だ、大丈……」
私にはわかっていた。
目の前の男性はその記憶の男とは違うことを。
その男性目には私に対する欲望の類は一切浮かんでおらず、ただ純粋に私に対する気遣いが浮かび見えていた。
「出て行って!」
だが、私はその冷静な部分の訴えを聞き入れることが出来なかった。
パニックに陥り、私はベッドの上で必死に後退る。
「ごめん!」
男性も私がパニックに陥っていることが分かったのか、とにかく大人しくさせようと一歩私に向かって踏み出して、
「あ、ぁぁぁああああ!」
ーーーその瞬間、私はさらなるパニックに陥った。
「いっ!」
「寄らないで!触らないで!」
私は必死に男性に向かって側にあるものを投げつける。
それが何なのかも気に留めることさえできず、無様に泣きながら。
男性は私を刺激しないように部屋を後にし、最終的に私が少し落ち着いたのは男性が部屋を後にし、数分経ってからのことだった。
「っ!」
そして、床には男性のものらしき血が点々と扉まで続いていた………
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