46 / 52
第46話
しおりを挟む
「……何で、今こんな無駄な時間を」
とうとうやってきた王族主催のパーティー。
その会場に足を踏みいれながら、私は思わずそんな言葉を漏らしていた。
その顔に浮かぶのは、隠し切ることのできない焦燥と不安。
そう、未だ私はあの男性を見つけることが出来ていなかった。
このパーティーの招待状を貰ってから、この日が来るまでの二日間の期間があったにも関わらず。
……ここまで来れば、最早私はあの男性の安全を無条件に信じることなど出来なかった。
それを理解してから、私は出来る限りの手段を用いて男性の行方を調べまわった。
にも関わらず、唯一得られた手かがりは一つだけ。
それも、酷く疲れた表情をしたマーリスの時間が経てば分かる、というまるで参考にならないもの。
男性の消息さえ不明な今、正直私はこのパーティーに出たくはなかった。
いや、王族主催でさえ無ければ、私はなんらかの理由をつけてこのパーティーの出席を断っていただろう。
「くっ!」
そう考えて、私は強く唇を噛みしめる。
こんなことになるならば、《仮面の淑女》をあの場で明らかにするのではなかったと。
「おお、サラリア嬢!お久しぶりです!私です!アーマルドです!」
次の瞬間、自分へとかけられた声に、自分には後悔している時間さえないことを私は理解する。
顔を上げると、そこにいたのはまるで見覚えもない中年の貴族。
彼との面識は、一度どこかのパーティー会場ですれ違った程度のものだろう。
「いやはや、こうしてまたお会い出来るのも運命でしょうなあ。私としては、こうして貴方と会える運命を定めてくださった創造神様へ、感謝の念が絶えません」
しかし、そんなことを気にすることもなくその貴族はまるで私と知己であるように振る舞い、こちらの距離を詰めてくる。
……全ては《仮面の淑女》の代表である私に顔を覚えさせるために。
そんな考えを抱いているのは、その彼だけではない。
「これはこれはサラリア嬢。お初にお目にかかります」
さまざまな貴族達が、私と縁を持とうと押し寄せてくる。
その光景を前に、私は顔を引攣らないようにするのが精一杯だった。
もちろん私は、《仮面の淑女》であることを明かせば、こんな事態になることを覚悟していた。
けれど、覚悟をしていたところでめんどくさいことは変わらない。
「どうか、この私めと一曲」
だからといって、めんどくさがったところでこの事態が変わるわけではない。
そう理解している私は、私を自家に取り込もうとギラギラとした目で迫ってくる貴族達の誘いを断るべく口を開こうとして──若い男性らしき声が響いたのは、その時だった。
「すまない。サラリア嬢とのダンスは私が先約でな」
とうとうやってきた王族主催のパーティー。
その会場に足を踏みいれながら、私は思わずそんな言葉を漏らしていた。
その顔に浮かぶのは、隠し切ることのできない焦燥と不安。
そう、未だ私はあの男性を見つけることが出来ていなかった。
このパーティーの招待状を貰ってから、この日が来るまでの二日間の期間があったにも関わらず。
……ここまで来れば、最早私はあの男性の安全を無条件に信じることなど出来なかった。
それを理解してから、私は出来る限りの手段を用いて男性の行方を調べまわった。
にも関わらず、唯一得られた手かがりは一つだけ。
それも、酷く疲れた表情をしたマーリスの時間が経てば分かる、というまるで参考にならないもの。
男性の消息さえ不明な今、正直私はこのパーティーに出たくはなかった。
いや、王族主催でさえ無ければ、私はなんらかの理由をつけてこのパーティーの出席を断っていただろう。
「くっ!」
そう考えて、私は強く唇を噛みしめる。
こんなことになるならば、《仮面の淑女》をあの場で明らかにするのではなかったと。
「おお、サラリア嬢!お久しぶりです!私です!アーマルドです!」
次の瞬間、自分へとかけられた声に、自分には後悔している時間さえないことを私は理解する。
顔を上げると、そこにいたのはまるで見覚えもない中年の貴族。
彼との面識は、一度どこかのパーティー会場ですれ違った程度のものだろう。
「いやはや、こうしてまたお会い出来るのも運命でしょうなあ。私としては、こうして貴方と会える運命を定めてくださった創造神様へ、感謝の念が絶えません」
しかし、そんなことを気にすることもなくその貴族はまるで私と知己であるように振る舞い、こちらの距離を詰めてくる。
……全ては《仮面の淑女》の代表である私に顔を覚えさせるために。
そんな考えを抱いているのは、その彼だけではない。
「これはこれはサラリア嬢。お初にお目にかかります」
さまざまな貴族達が、私と縁を持とうと押し寄せてくる。
その光景を前に、私は顔を引攣らないようにするのが精一杯だった。
もちろん私は、《仮面の淑女》であることを明かせば、こんな事態になることを覚悟していた。
けれど、覚悟をしていたところでめんどくさいことは変わらない。
「どうか、この私めと一曲」
だからといって、めんどくさがったところでこの事態が変わるわけではない。
そう理解している私は、私を自家に取り込もうとギラギラとした目で迫ってくる貴族達の誘いを断るべく口を開こうとして──若い男性らしき声が響いたのは、その時だった。
「すまない。サラリア嬢とのダンスは私が先約でな」
2
お気に入りに追加
6,364
あなたにおすすめの小説
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
【完結】いいえ。チートなのは旦那様です
仲村 嘉高
恋愛
伯爵家の嫡男の婚約者だったが、相手の不貞により婚約破棄になった伯爵令嬢のタイテーニア。
自分家は貧乏伯爵家で、婚約者の伯爵家に助けられていた……と、思ったら実は騙されていたらしい!
ひょんな事から出会った公爵家の嫡男と、あれよあれよと言う間に結婚し、今までの搾取された物を取り返す!!
という事が、本人の知らない所で色々進んでいくお話(笑)
※HOT最高◎位!ありがとうございます!(何位だったか曖昧でw)
要らない、と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜
あげは
恋愛
アリストラ国、侯爵令嬢。
フィオラ・ドロッセルが私の名前です。
王立学園に在籍する、十六歳でございます。
このお話についてですが、悪役令嬢なるものがいないこの時代、私の周りの方々は、どうやら私をそのポジションに据えたいらしいのです。
我が婚約者のクズ男といい、ピンクの小娘といい…、あの元クズインといい、本当に勘弁していただけるかしら?
と言うか、陛下!どう言う事ですの!
ーーーーー
※結末は決めてますが、執筆中です。
※誤字脱字あるかと。
※話し言葉多め等、フランクに書いてます。
読みにくい場合は申し訳ないです。
※なるべく書き上げたいですが、、、(~_~;)
以上、許せましたらご覧ください笑
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
これが私の兄です
よどら文鳥
恋愛
「リーレル=ローラよ、婚約破棄させてもらい慰謝料も請求する!!」
私には婚約破棄されるほどの過失をした覚えがなかった。
理由を尋ねると、私が他の男と外を歩いていたこと、道中でその男が私の顔に触れたことで不倫だと主張してきた。
だが、あれは私の実の兄で、顔に触れた理由も目についたゴミをとってくれていただけだ。
何度も説明をしようとするが、話を聞こうとしてくれない。
周りの使用人たちも私を睨み、弁明を許されるような空気ではなかった。
婚約破棄を宣言されてしまったことを報告するために、急ぎ家へと帰る。
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる