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5.無茶振り
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「っ!いけません、アンネ!」
私のその言葉を聞いて、メルは唯でさえ蒼白な顔を更に白くする。
「私は大丈夫ですから!貴女が態々……んぐっ!」
「うらせぇなぁ」
だが、アッサリとメルは男に口に布を詰め込まれ、喋れなくされてしまう。
「メル!」
私は男に向かって叫ぶ。
「大丈夫、弟だったけ?とにかくかれは条件次第では解放してあげるわ」
だが、その私の叫びに答えたのはエリスだった。
エリスのした提案、それは酷く胡散臭い。
そもそもただ頼みごとをするだけならば、メルを誘拐する必要などないのだ。
「メルを解放してくれるならば」
しかし、私には了承すること以外出来るはずがなかった。
「勝負をしましょう」
私が了承したのを見て、エリスはこちらを嘲笑してくる。
私が愚かな選択をしたと、そう私を嘲笑うように。
「その勝負に勝てば貴女にそこの貴方の弟を返します。まぁ、でも私も鬼では無い。負けても貴女がこの弟に値する何かを差し出すならばちゃんと返してあげます。
ーーー例えば、貴女の処女とか」
「そういう、ことですか……」
そしてそのエリスの言葉にようやく私はエリスの狙いを悟る。
私は未だ婚約者と肌を重ねたことはない。
それは彼と私が未だ結婚をしていないからだ。
それ故に未だ私は生娘だ。
だが、その私が生娘で無ければどうなるか。
たった一度の間違いだと、そう訴えても、
ーーー無理やり手篭めにされたと泣き叫んでも私と彼との婚約は破棄される。
それがメルをエリスが誘拐して、私を呼び寄せた理由。
つまりエリスは私の婚約を無かったことにする、その為だけにメルを誘拐して、私にこんな条件を突きつけたのだ。
「勝負の内容は決闘。
ーーー私の後ろにいる者と、貴女が戦う決闘よ」
そして私はアリスの次なる言葉に自分の推測が正しかったことを悟る。
決闘、それは貴族同士が揉め事を起こした時に、騎士を代理として行う勝負。
貴族は戦う前に誓約を取り交わし、それぞれ自分の望みを前もって明言し、勝者の主張が通ると言うもの。
そう、決闘自体はこの国の由緒正しい伝統だ。
だが、今は明らかに私に不利に働いていた。
何故ならば、女の私に対して、エリスは明らかに実践慣れしている男を連れてきているのだ。
「身体は貧相だが、顔付きは悪く無いな」
ーーーそれも私に肉欲に燃えた視線を寄越す。
「っ!」
私はその身体に男の舐めるような視線を感じ、嫌悪感から身体を手で覆う。
そして恐らく、この男がいるのは決闘のためだけではない。
私が負けたならば、処女を奪うようにとエリスに言われているのだろう。
それはあまりにも不利な条件だった。
魔法を使おうにも、近接戦闘では呪文を唱えている間さえない。
ーーーだが、メルという人質を取られた私が逃げられるはずがなかった。
「無理なら無理でよろしくってよ。弟がどうなっても良いんならば」
エリスはそのことを分かった上で敢えて私にそう告げる。
ー 貴女はもう、終わり。
言外に、そう私を嘲笑いながら。
「分かり、ました」
そしてそう答えた瞬間、私は近接戦闘で魔法を使い相手の男を倒さなければならないという、最悪の決闘に出ることが決まった。
唇を噛み締めた私、その姿を見てエリスは隠しきれぬ様子で口元に笑みを浮かべる。
「あと、一つ言い忘れていたが魔法は禁止で」
「ぬっ!」
ーーーそして最悪のルールを付け足した。
それは余りにも横暴なルール。
私はエリスに抗議しようとして、そして黙る。
今抗議しても無駄でしか無いことは分かっている。
その抗議をエリスが認めることはないのだから。
「それじゃぁ、決闘を始めましょうか」
「っ!待ってください!」
だが、それでも私は次のエリスの言葉に黙っておくことは出来なかった。
「なにかしら?」
エリスは絶対に分かっている癖に、惚けそう私に尋ねる。
「私は武器を持っていないのですが……」
そう、私は武器を持っていなかった。
エリスの男は簡易な鎧に、大きな大剣を持っているのに対し、私の身を包むのは余りにも頼りないドレスだけ。
「あぁ、確かに」
それは一目瞭然だったにも関わらず、エリスはさも今気づいたような反応を取る。
私はその様子に苛立ちを覚えながら、しかし何とかその怒りを押さえつける。
「でも、それは貴女が前もって用意したいのが悪いわよね?」
「っ!巫山戯ないで!突然呼び出した癖に!」
ーーーしかし次の一言に私は思わず、言い返していた。
「へぇ?弟がどうなっても良いの?」
「ぐっ!」
だが、エリスが軽い口調で返したその言葉だけに必死に怒りを収める。
「……武器を取りに行かせて頂け無いでしょうか?」
そして改めて丁寧に頼み込む。
「黙りなさい。私は今すぐ始めると言いました」
「っ!」
ーーーしかし、その私の懇願に対するエリスの返答は余りにも素気無いものだった。
「さぁ、始めます」
エリスは俯いたまま、身体を震わせる私を嘲笑い、酷く楽しそうにそう告げる。
だが、彼女は知ることはなかった。
俯いた私のエリスからは見えない顔、
ーーーその口が大きく歪んでいることを。
私のその言葉を聞いて、メルは唯でさえ蒼白な顔を更に白くする。
「私は大丈夫ですから!貴女が態々……んぐっ!」
「うらせぇなぁ」
だが、アッサリとメルは男に口に布を詰め込まれ、喋れなくされてしまう。
「メル!」
私は男に向かって叫ぶ。
「大丈夫、弟だったけ?とにかくかれは条件次第では解放してあげるわ」
だが、その私の叫びに答えたのはエリスだった。
エリスのした提案、それは酷く胡散臭い。
そもそもただ頼みごとをするだけならば、メルを誘拐する必要などないのだ。
「メルを解放してくれるならば」
しかし、私には了承すること以外出来るはずがなかった。
「勝負をしましょう」
私が了承したのを見て、エリスはこちらを嘲笑してくる。
私が愚かな選択をしたと、そう私を嘲笑うように。
「その勝負に勝てば貴女にそこの貴方の弟を返します。まぁ、でも私も鬼では無い。負けても貴女がこの弟に値する何かを差し出すならばちゃんと返してあげます。
ーーー例えば、貴女の処女とか」
「そういう、ことですか……」
そしてそのエリスの言葉にようやく私はエリスの狙いを悟る。
私は未だ婚約者と肌を重ねたことはない。
それは彼と私が未だ結婚をしていないからだ。
それ故に未だ私は生娘だ。
だが、その私が生娘で無ければどうなるか。
たった一度の間違いだと、そう訴えても、
ーーー無理やり手篭めにされたと泣き叫んでも私と彼との婚約は破棄される。
それがメルをエリスが誘拐して、私を呼び寄せた理由。
つまりエリスは私の婚約を無かったことにする、その為だけにメルを誘拐して、私にこんな条件を突きつけたのだ。
「勝負の内容は決闘。
ーーー私の後ろにいる者と、貴女が戦う決闘よ」
そして私はアリスの次なる言葉に自分の推測が正しかったことを悟る。
決闘、それは貴族同士が揉め事を起こした時に、騎士を代理として行う勝負。
貴族は戦う前に誓約を取り交わし、それぞれ自分の望みを前もって明言し、勝者の主張が通ると言うもの。
そう、決闘自体はこの国の由緒正しい伝統だ。
だが、今は明らかに私に不利に働いていた。
何故ならば、女の私に対して、エリスは明らかに実践慣れしている男を連れてきているのだ。
「身体は貧相だが、顔付きは悪く無いな」
ーーーそれも私に肉欲に燃えた視線を寄越す。
「っ!」
私はその身体に男の舐めるような視線を感じ、嫌悪感から身体を手で覆う。
そして恐らく、この男がいるのは決闘のためだけではない。
私が負けたならば、処女を奪うようにとエリスに言われているのだろう。
それはあまりにも不利な条件だった。
魔法を使おうにも、近接戦闘では呪文を唱えている間さえない。
ーーーだが、メルという人質を取られた私が逃げられるはずがなかった。
「無理なら無理でよろしくってよ。弟がどうなっても良いんならば」
エリスはそのことを分かった上で敢えて私にそう告げる。
ー 貴女はもう、終わり。
言外に、そう私を嘲笑いながら。
「分かり、ました」
そしてそう答えた瞬間、私は近接戦闘で魔法を使い相手の男を倒さなければならないという、最悪の決闘に出ることが決まった。
唇を噛み締めた私、その姿を見てエリスは隠しきれぬ様子で口元に笑みを浮かべる。
「あと、一つ言い忘れていたが魔法は禁止で」
「ぬっ!」
ーーーそして最悪のルールを付け足した。
それは余りにも横暴なルール。
私はエリスに抗議しようとして、そして黙る。
今抗議しても無駄でしか無いことは分かっている。
その抗議をエリスが認めることはないのだから。
「それじゃぁ、決闘を始めましょうか」
「っ!待ってください!」
だが、それでも私は次のエリスの言葉に黙っておくことは出来なかった。
「なにかしら?」
エリスは絶対に分かっている癖に、惚けそう私に尋ねる。
「私は武器を持っていないのですが……」
そう、私は武器を持っていなかった。
エリスの男は簡易な鎧に、大きな大剣を持っているのに対し、私の身を包むのは余りにも頼りないドレスだけ。
「あぁ、確かに」
それは一目瞭然だったにも関わらず、エリスはさも今気づいたような反応を取る。
私はその様子に苛立ちを覚えながら、しかし何とかその怒りを押さえつける。
「でも、それは貴女が前もって用意したいのが悪いわよね?」
「っ!巫山戯ないで!突然呼び出した癖に!」
ーーーしかし次の一言に私は思わず、言い返していた。
「へぇ?弟がどうなっても良いの?」
「ぐっ!」
だが、エリスが軽い口調で返したその言葉だけに必死に怒りを収める。
「……武器を取りに行かせて頂け無いでしょうか?」
そして改めて丁寧に頼み込む。
「黙りなさい。私は今すぐ始めると言いました」
「っ!」
ーーーしかし、その私の懇願に対するエリスの返答は余りにも素気無いものだった。
「さぁ、始めます」
エリスは俯いたまま、身体を震わせる私を嘲笑い、酷く楽しそうにそう告げる。
だが、彼女は知ることはなかった。
俯いた私のエリスからは見えない顔、
ーーーその口が大きく歪んでいることを。
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