33 / 35
32
しおりを挟む
アルフォス目線です。
◇◇◇
「……私には、そんな資格は、ありませんわ」
涙を流しながら、そう告げたネストリアの姿を見た時。
私、アルフォスの胸に広がったのは、やはりこうなったか、という想いだった。
婚約の拒否、そのことに少なくない衝撃を覚えないではないが、私はネストリアはそう答えるだろうことを予想できていた。
いや、それを予想できていたのは私だけではない。
顔に焦燥を浮かべるマーレイアを含めた使用人達、彼らもこの状況になることを想像できていたのだろう。
マーレイアが、こんなサプライズを用意するよう私に進言したのも、何とかしてネストリアに婚約を受けさせるために違いない。
私達が、こうなることを安易に想像できる程、ネストリアは私との婚約を嫌がっていた。
それ以外にも、ネストリアはマストーリ家のために無理をする傾向もあった。
……それは全て、ネストリアの胸の内にマストーリ家が一時味わった地獄に対する罪悪感があるからこその行動。
「いや違うよ、ネストリア。これはマストーリ家に必要な婚姻だ」
そしてそれを知るからこそ、私はここで婚姻を諦めるつもりはなかった。
今まで私は、何度もネストリアへの恋心を諦めようとした。
もう今は昔とは違う。
ネストリアが自分に恋心を持っていないのなら、僕は自分との婚姻をネストリアに強制するつもりはなかった。
だけど、そう言葉を漏らした私に対し、マーレイアははっきりと断言した。
ネストリアは私に恋心を持っていると。
だったらもう、私を阻むものは何もなかった。
「ネストリアとの婚姻を交わせば、僕は正式なマストーリ家と認められる。そして、その婚姻を結べるのは、バーベスト家の騒ぎで貴族達がやけにおとなしくなっている今しかない」
だから僕は、ネストリアにそう言葉を重ねる。
ネストリアも本当は分かっているのだろう。
自分が、わがままを言わなかったとしても、マストーリ家は危機に陥っていたと。
少なくとも、ネストリアの婚約者候補の貴族であれば、それは確実だった。
また、もうマストーリ家の人間は自分を恨んでなんかいないことを。
けれども、あの地獄でマストーリ家の人間が苦しんでいたことを見たから、そしてその地獄のきっかけが自分にあることを知るからこそ、ネストリアは自分を許すことができない。
自分を追い込むことしかできない。
だが、そんなネストリアを見るのは、もう私は嫌だった。
「ネストリア、これはマストーリ家のためなんだ」
ネストリアに婚姻を認めさせるために、私は卑怯だと思いながら、その言葉を告げる。
マストーリ家のため、それはネストリアに対する禁句だった。
一時の出来事で、マストーリ家に尽くすことを自分の贖罪と考えているネストリアに対する。
「………出来るわけが、無いですわ」
「っ!」
……しかしその禁句を言ってもなお、ネストリアは婚姻を認めなかった。
そのネストリアに僕は思わず言葉を失う。
どうしても、ネストリアを説得することはできないのかと、そんな考えが頭によぎる。
けれど、それは大きな勘違いだった。
「それでも、もうアルフォス様に、ご迷惑をかけることなど、出来るわけがないですわ!」
「………え?」
── そして次の瞬間、ネストリアが告げた言葉に、私は自身の勘違いに気づいた。
◇◇◇
「……私には、そんな資格は、ありませんわ」
涙を流しながら、そう告げたネストリアの姿を見た時。
私、アルフォスの胸に広がったのは、やはりこうなったか、という想いだった。
婚約の拒否、そのことに少なくない衝撃を覚えないではないが、私はネストリアはそう答えるだろうことを予想できていた。
いや、それを予想できていたのは私だけではない。
顔に焦燥を浮かべるマーレイアを含めた使用人達、彼らもこの状況になることを想像できていたのだろう。
マーレイアが、こんなサプライズを用意するよう私に進言したのも、何とかしてネストリアに婚約を受けさせるために違いない。
私達が、こうなることを安易に想像できる程、ネストリアは私との婚約を嫌がっていた。
それ以外にも、ネストリアはマストーリ家のために無理をする傾向もあった。
……それは全て、ネストリアの胸の内にマストーリ家が一時味わった地獄に対する罪悪感があるからこその行動。
「いや違うよ、ネストリア。これはマストーリ家に必要な婚姻だ」
そしてそれを知るからこそ、私はここで婚姻を諦めるつもりはなかった。
今まで私は、何度もネストリアへの恋心を諦めようとした。
もう今は昔とは違う。
ネストリアが自分に恋心を持っていないのなら、僕は自分との婚姻をネストリアに強制するつもりはなかった。
だけど、そう言葉を漏らした私に対し、マーレイアははっきりと断言した。
ネストリアは私に恋心を持っていると。
だったらもう、私を阻むものは何もなかった。
「ネストリアとの婚姻を交わせば、僕は正式なマストーリ家と認められる。そして、その婚姻を結べるのは、バーベスト家の騒ぎで貴族達がやけにおとなしくなっている今しかない」
だから僕は、ネストリアにそう言葉を重ねる。
ネストリアも本当は分かっているのだろう。
自分が、わがままを言わなかったとしても、マストーリ家は危機に陥っていたと。
少なくとも、ネストリアの婚約者候補の貴族であれば、それは確実だった。
また、もうマストーリ家の人間は自分を恨んでなんかいないことを。
けれども、あの地獄でマストーリ家の人間が苦しんでいたことを見たから、そしてその地獄のきっかけが自分にあることを知るからこそ、ネストリアは自分を許すことができない。
自分を追い込むことしかできない。
だが、そんなネストリアを見るのは、もう私は嫌だった。
「ネストリア、これはマストーリ家のためなんだ」
ネストリアに婚姻を認めさせるために、私は卑怯だと思いながら、その言葉を告げる。
マストーリ家のため、それはネストリアに対する禁句だった。
一時の出来事で、マストーリ家に尽くすことを自分の贖罪と考えているネストリアに対する。
「………出来るわけが、無いですわ」
「っ!」
……しかしその禁句を言ってもなお、ネストリアは婚姻を認めなかった。
そのネストリアに僕は思わず言葉を失う。
どうしても、ネストリアを説得することはできないのかと、そんな考えが頭によぎる。
けれど、それは大きな勘違いだった。
「それでも、もうアルフォス様に、ご迷惑をかけることなど、出来るわけがないですわ!」
「………え?」
── そして次の瞬間、ネストリアが告げた言葉に、私は自身の勘違いに気づいた。
0
お気に入りに追加
4,055
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
(完)お姉様、ありがとう!ーー姉は妹に婚約破棄され……処刑され……(全5話)
青空一夏
恋愛
姉にコンプレックスを感じていた妹が無意識に魅了の魔法を使い、姉の婚約者レオン王太子を魅了。婚約破棄に追い込むが……
毎日7:00投稿。全5話。
(完)愛人を作るのは当たり前でしょう?僕は家庭を壊したいわけじゃない。
青空一夏
恋愛
私は、デラックス公爵の次男だ。隣国の王家の血筋もこの国の王家の血筋も、入ったサラブレッドだ。
今は豪商の娘と結婚し、とても大事にされていた。
妻がめでたく懐妊したので、私は妻に言った。
「夜伽女を3人でいいから、用意してくれ!」妻は驚いて言った。「離婚したいのですね・・・・・・わかりました・・・」
え? なぜ、そうなる? そんな重い話じゃないよね?
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる