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 それは私達がマストーリ領に帰ってきた夜。
 私、マーレイアはお嬢様が寝静まるのを待って動き出した。
 目的地は当主様の部屋。

 「……私がしようとしていることを知れば、お嬢様はお怒りになるでしょうね」

 部屋に向かいながら、私は思わずそんな言葉を漏らす。
 自分が今からしようとしていること、それが決してお嬢様が望まれることではないのは、私自身がなによりも知っていた。
 お嬢様と私は、もう長い付き合いだ。
 あの人が何を考えているかぐらい、私には理解できる。

 「……まあ、そんなこと今はどうでも良いですが」

 だが、そのことを理解しながらも、私は自分のやろうとしていることをやめるつもりはなかった。

 お嬢様が自分よりもマストーリ家のことを優先していることは知っている。
 そう考えるようになった理由も。
 だから私は、今までお嬢様が行おうとしていることに過度な口を挟まないでいた。
 
 ……でも、それは別に私がお嬢様のことを恨んでいるからではなかった。

 私は、お嬢様が悪いなんて一切考えていないのだから。
 確かにお嬢様の言葉でマストーリ家は一時落ちぶれた。
 けれども、それがお嬢様の所為だと言えるわけがないことを私達は知っている。
 それに、アルフォス様ではなく、違う貴族がマストーリ家の当主になれば、もっと酷い事態になっていたかもしれないのだ。

 それを知って、お嬢様を責められる訳が無い。

 しかし、優秀で人一倍責任感が強いお嬢様は、全てを自身の責任だと思い込んでしまった。
 バーベスト家への縁談だけではなく、他にも様々な無茶を犯している。
 私はそれを止められない自分の不甲斐なさを悔い、お嬢様を心配している。

 「なんで、あのようなことを!」

 だからこそ今、私は当主様に対して怒りが抑えられなかった。

 お嬢様の無茶は今に始まったことではなく、だからこそ今まで私達は必至にお嬢様をいさめようとして来た。
 なのに当主様は今、逆にお嬢様に無茶をしようとしている。
 そのことに私は、激しい怒りを覚えていた。
 それを抗議するために現在私は当主様の自室へと向かっていた。

 「とう…………っ!」

 とうとう私は当主様の部屋の前にたどり着いた私は、中の当主様に呼びかけようとする。

 「計画は上手くいって………」

 「はい、ネスト………は上手く騙…て」

 私が部屋の中から聞こえる話し声に気づいたのは、その時だった。
 その話に何か不穏な響きを感じた私は、こっそりと耳を扉に当てる。
 扉は厚く、普通の人間では中の話を満足に聞くことはできなかっただろう。
 だが、諜報として活動してきた私には、なんの問題もない。

 「なっ!」

 そして次の瞬間、私はとんでもない計画を知り、思わず言葉を失った。
 心臓が、ばくばくと音を立ててなり始める。
 これが本当ならば、早くお嬢様につたえなければならない。
 そう考えた私は、いち早くこの場から離れようとする。

 「……まさか、お前に聞かれてしまうとはな」

 「───っ!」

 しかし、その前に当主様の部屋の扉が大きく開けられた………


 ◇◇◇

 ※鬱展開はないです。
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