上 下
19 / 35

19

しおりを挟む
 その後男爵令嬢は、無事契約書にサインをした。
 その際、魔法の契約書の内容を破った時のペナルティを聞いて迷っていた。
 だが少し煽てれば、直ぐにペナルティの危険を忘れて、あっさりとサインした。


 ……その契約書が、自身を破滅に導くと気づくことはなく。



 ◇◆◇



 「……本当に、あの男爵令嬢は救いようがありませんでしたね」

 男爵令嬢が嬉々とした様子で去った後、部屋の中マーレイアはそうあきれた様子で呟いた。
 そのマーレイアの様子は、彼女が男爵令嬢の失態に気づいていることを表していた。
 まあ、あんな契約書にサインする人間が余程の馬鹿なだけなのだろうが。

 「あら、彼女は本当にマークが好きだっただけかもしれないわよ。それなら彼女の未来は幸福かもしれないわよ」

 そう考えながらも、私はそんな言葉を口にする。
 まるでそんな可能性があるとは、思っていなかったが。

 「ご冗談を。彼女はバーベスト家の盆暗息子の見た目と財産に目が眩んだだけの俗物。盆暗息子と共に破滅する未来は不幸以外の何者でもないでしょう」

 どうやらマーレイアは私と同じ考えであることを、その言葉から私は理解する。

 私が男爵令嬢に誓わせたマークと生涯を共にするという条件、それは最悪の条件だった。
 何せ、今回の件でバーベスト家が一気に困窮するのは最早目に見えている。
 そうなれば、バーベスト家の権威は大きく落ち、男爵令嬢は贅沢どころか、かなり厳しい生活を強いられることになるだろう。

 それだけなら、まだましだ。
 今回の件でサラベルトは、私の機嫌伺いのためにマークを自家から追放する可能性がある。
 そうなれば、男爵令嬢は晴れて平民墜ちだ。

 その生活を、あのプライドだけは高そうな男爵令嬢が受け入れられるとは全く思えない。
 だがそれに耐えかね、契約書の内容を違えば、男爵令嬢にペナルティが発生し、彼女の身体に刺青が走る。
 それは貴族の中で最も忌み嫌われることで、そうなれば彼女の実家ももう男爵令嬢を守ろうとはしなくなるだろう。

 つまりどちらにせよ、男爵令嬢に待ち受けているのは平民墜ちする未来だけ。

 「彼女のことは良いわ。私達は早く荷物を纏め直しましょう」

 そう判断した私は、もう会うことはないと男爵令嬢の存在を頭から切り離すことにした。

 「は、はい!」

 その私の指示に反応し、マーレイアは荷物を整理し始める。


 ……その後私たちは、荷物の取り合いを続け、朝を迎えることとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

(完結)お姉様、私を捨てるの?

青空一夏
恋愛
大好きなお姉様の為に貴族学園に行かず奉公に出た私。なのに、お姉様は・・・・・・ 中世ヨーロッパ風の異世界ですがここは貴族学園の上に上級学園があり、そこに行かなければ女官や文官になれない世界です。現代で言うところの大学のようなもので、文官や女官は○○省で働くキャリア官僚のようなものと考えてください。日本的な価値観も混ざった異世界の姉妹のお話。番の話も混じったショートショート。※獣人の貴族もいますがどちらかというと人間より下に見られている世界観です。

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

「地味でブサイクな女は嫌いだ」と婚約破棄されたので、地味になるためのメイクを取りたいと思います。

水垣するめ
恋愛
ナタリー・フェネルは伯爵家のノーラン・パーカーと婚約していた。 ナタリーは十歳のある頃、ノーランから「男の僕より目立つな」と地味メイクを強制される。 それからナタリーはずっと地味に生きてきた。 全てはノーランの為だった。 しかし、ある日それは突然裏切られた。 ノーランが急に子爵家のサンドラ・ワトソンと婚約すると言い始めた。 理由は、「君のような地味で無口な面白味のない女性は僕に相応しくない」からだ。 ノーランはナタリーのことを馬鹿にし、ナタリーはそれを黙って聞いている。 しかし、ナタリーは心の中では違うことを考えていた。 (婚約破棄ってことは、もう地味メイクはしなくていいってこと!?) そして本来のポテンシャルが発揮できるようになったナタリーは、学園の人気者になっていく……。

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...