上 下
6 / 35

6

しおりを挟む
 私の言葉の後、広場は静まり返ることになった。
 その広場を前に、私は思わず満足げな笑みを浮かべる。

 これでもう、マストーリ家に対して侮辱できる貴族はいないだろうと確信して。

 私がマストーリ家を侮辱したとして、名指しした貴族は二人。
 また、この広場で働いているマストーリ家のメイドは、4、5人程度しかおらず、そんな人数では誰がマストーリ家を侮辱したかなんて分かるはずがない。

 それだけを聞けば、私のしたことは抑止力となるには不十分に感じるかもしれない。
 だが、私はこれで十分だと判断していた。

 たしかに私側からすれば、中途半端なことをしたようにしか感じられない。
 だが、そんなことこの場にいる貴族達には分からないだろう。

 人混みの中の野次から、誰が何を言ったのか特定した私の姿。
 それだけで相当貴族達は動揺しているはずだ。
 また、側にいるメイド達は全員マストーリ家の人間に思えていてもおかしくはない。

 もし、私の限界に貴族がいたとしても、その貴族達も野次ることはないだろう。
 何せ、限界があること理解できたところで、完璧に私の限界を理解できるわけではない。
 つまりその貴族達には、私がどれだけのことを聞くことができ、そしてどのメイドがマストーリ家の人間か分からないのだ。
 そんな状況で態々私を敵に回しかねない行動を取るわけがない。

 そして、その私の想像通りどれだけ時間が経とうが、貴族達が私に対する侮辱を再開することはなかった。

 「な、なぜ誰も声を上げない!?この女は強欲令嬢だぞ!」

 「そうよ!何で悪者のこの女を責め立てなさいよ!」

 ……たった二人の貴族を除いて。

 そう叫ぶのは、マークと彼の浮気相手である少女だった。
 二人は急変した状況に顔を青くしながら叫ぶ。
 だが、誰一人としてその二人の言葉に反応する貴族はなかった。

 当たり前だろう。
 何せ、私は他の貴族と争っていただけあり、かなりの数の貴族の家の弱みを握っていたり、借金を貸し出していたりする。
 そしてそんな私と敵対しかねない行動を、この場にいる貴族達は取ることは出来ない。
 先程までの貴族達が纏まっている状況は、あくまで自分一人がマストーリに目をつけられる訳ではないだろうと思っていたからの行動。
 そうではないと知らされた今、貴族達に危険を冒すだけの理由はない。

 「相手は憎き、平民上がりだぞ!何を躊躇している!」

 「そうよ!この意気地なし!」

 ……だが、その貴族の事情を理解しても、マーク達は諦めることができなかった。

 何故ならマーク達は理解しているのだ。
 このままでは、本来隠し通せるはずだった婚約破棄の汚名が、明らかになることを。
 だからこそ、マーク達はなんとか貴族達に私を敵視させようとする。
 もう手遅れだと気付きながらも、後に引くことが出来ないのだ。

 「もう良い加減にしてもらえないかしら」

 そして、そんな二人に留めを刺すべく私は口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

(完)お姉様、ありがとう!ーー姉は妹に婚約破棄され……処刑され……(全5話)

青空一夏
恋愛
姉にコンプレックスを感じていた妹が無意識に魅了の魔法を使い、姉の婚約者レオン王太子を魅了。婚約破棄に追い込むが…… 毎日7:00投稿。全5話。

(完)愛人を作るのは当たり前でしょう?僕は家庭を壊したいわけじゃない。

青空一夏
恋愛
私は、デラックス公爵の次男だ。隣国の王家の血筋もこの国の王家の血筋も、入ったサラブレッドだ。 今は豪商の娘と結婚し、とても大事にされていた。 妻がめでたく懐妊したので、私は妻に言った。 「夜伽女を3人でいいから、用意してくれ!」妻は驚いて言った。「離婚したいのですね・・・・・・わかりました・・・」 え? なぜ、そうなる? そんな重い話じゃないよね?

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

なんだろう、婚約破棄の件、対等な報復を受けてもらってもいいですか?

みかみかん
恋愛
父に呼び出されて行くと、妹と婚約者。互いの両親がいた。そして、告げられる。婚約破棄。

処理中です...