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「なっ!」
自信満々にそう告げた私にたいし、マークは動揺を隠すことが出来なかった。
どうやら婚約破棄をすれば、さすがの私でも堪えると考えていたらしい。
だが、私にとって婚約破棄も、そして婚約できなくなることも些事でしかない。
そんな些細な出来事で動揺している程度の人間であれば、とっくの昔に私は心が折れている。
「た、戯言を!何を言おうがお前との婚約破棄は覆さんぞ!」
だが、そんなことを知るよしもないマークは、私の動揺を何とか誘うと声を上げた。
「お前の無駄遣いでどれだけの損害がバーベスト家に出たか、お前は理解しているのか!この、強欲令嬢が!」
……強欲令嬢、それはわがままで湯水のようにお金を豪遊する強欲な令嬢だと、影で私を嘲る時に使われる蔑称だった。
もちろん、私は豪遊なんかしていない。
強欲令嬢というのは、私を一方的に疎む人間が広めた根拠のない噂だ。
だが、つり目に、勝気な態度や豊満な身体という外見と、身につけている豪華そうなドレスという要素。
それは人に、私が強欲な人間だというイメージを抱かせるらしく、現在貴族社会では、本当に私は強欲な人間だと思われている。
「強欲なお前を婚約することさえ無ければ!幾ら侯爵令嬢であれ、お前はやり過ぎだ!」
そして、どうやらマークはその私のイメージを利用して、婚約破棄をしようと企んでいるらしい。
大袈裟に被害者ぶり、自分を糾弾する彼の発する言葉に、私はそのことを理解する。
けれども、その判断は大きな間違いでしかなかった。
「あら、私には伯爵家のお金で豪遊した記憶など一切無いのですが?それだけ自信満々に言われるのならば、私がどれだけ豪遊しているのか教えてくださいませんか?」
「っ!」
次の瞬間、私が嘲笑を浮かべながら告げた言葉にマークは今までの勢いを失い、言葉を失う。
その顔は近くにいる私には隠しようがない程青ざめており、それはマークが私の言葉に対する返答を考えていなかったことを示していた。
そのマークの浅慮さに、私は思わず呆れを表に出してしまいそうになる。
流石にその返答ぐらいは用意しているべきだろうに。
「お、お前の身に纏っているドレス……」
しかし思いついていなかったとしても、そこでマークが黙り込むことはなかった。
少し口ごもりながらも、マークは私のドレスを指差し、何事か口を開こうとする。
「これは私がバーベスト家に来た時から身につけていた、侍女に作って貰ったものですが?」
だが、マークがその言葉を最後まで言い切る前に私はそう言い放っていた。
その際に、マークに対して嘲るような目を忘れることなく。
それにマークが、激昂したように唇を噛み締め、再度なにかを言おうとする。
しかし残念なことに、その先がわかりきったマークの発言を悠長に聞く気は私にはなかった。
「出鱈目かどうかは是非、貴方のお父上と兄にお聞きくださいな」
「ぐっ!」
その言葉に、もはやマークは何か文句を発することも出来ず、呻く。
だが、そんな状態になっても私が追い打ちを止めるつもりはなかった。
「それと、現在のバーベスト家の収入の半分を私が稼いでいることを知って今の騒ぎを起こしておられますの?豪遊しているのは、貴方の愛人の方ですわよ」
私はマークの側に近づき、そう耳に囁く。
先程、こちらに勝ち誇るような目を向けてきた、やつれたドレスの少女の方へと目を向けながら。
「なぜ、そのことをっ!」
私の視線に気づいた瞬間、マークの顔には隠しきれない驚愕が浮かんだ。
どうやら、自身の浮気が未だ気づかれていないものだと思っていたらしい。
「貴方を唆していたらしいあの少女に後で伝えてくださる?」
それに内心呆れを覚えつつ、それでも表面上は笑みを浮かべた私は口を開いた。
「侯爵家を敵に回すつもり、と」
その瞬間、マークの顔から血の気が引くこととなった。
自信満々にそう告げた私にたいし、マークは動揺を隠すことが出来なかった。
どうやら婚約破棄をすれば、さすがの私でも堪えると考えていたらしい。
だが、私にとって婚約破棄も、そして婚約できなくなることも些事でしかない。
そんな些細な出来事で動揺している程度の人間であれば、とっくの昔に私は心が折れている。
「た、戯言を!何を言おうがお前との婚約破棄は覆さんぞ!」
だが、そんなことを知るよしもないマークは、私の動揺を何とか誘うと声を上げた。
「お前の無駄遣いでどれだけの損害がバーベスト家に出たか、お前は理解しているのか!この、強欲令嬢が!」
……強欲令嬢、それはわがままで湯水のようにお金を豪遊する強欲な令嬢だと、影で私を嘲る時に使われる蔑称だった。
もちろん、私は豪遊なんかしていない。
強欲令嬢というのは、私を一方的に疎む人間が広めた根拠のない噂だ。
だが、つり目に、勝気な態度や豊満な身体という外見と、身につけている豪華そうなドレスという要素。
それは人に、私が強欲な人間だというイメージを抱かせるらしく、現在貴族社会では、本当に私は強欲な人間だと思われている。
「強欲なお前を婚約することさえ無ければ!幾ら侯爵令嬢であれ、お前はやり過ぎだ!」
そして、どうやらマークはその私のイメージを利用して、婚約破棄をしようと企んでいるらしい。
大袈裟に被害者ぶり、自分を糾弾する彼の発する言葉に、私はそのことを理解する。
けれども、その判断は大きな間違いでしかなかった。
「あら、私には伯爵家のお金で豪遊した記憶など一切無いのですが?それだけ自信満々に言われるのならば、私がどれだけ豪遊しているのか教えてくださいませんか?」
「っ!」
次の瞬間、私が嘲笑を浮かべながら告げた言葉にマークは今までの勢いを失い、言葉を失う。
その顔は近くにいる私には隠しようがない程青ざめており、それはマークが私の言葉に対する返答を考えていなかったことを示していた。
そのマークの浅慮さに、私は思わず呆れを表に出してしまいそうになる。
流石にその返答ぐらいは用意しているべきだろうに。
「お、お前の身に纏っているドレス……」
しかし思いついていなかったとしても、そこでマークが黙り込むことはなかった。
少し口ごもりながらも、マークは私のドレスを指差し、何事か口を開こうとする。
「これは私がバーベスト家に来た時から身につけていた、侍女に作って貰ったものですが?」
だが、マークがその言葉を最後まで言い切る前に私はそう言い放っていた。
その際に、マークに対して嘲るような目を忘れることなく。
それにマークが、激昂したように唇を噛み締め、再度なにかを言おうとする。
しかし残念なことに、その先がわかりきったマークの発言を悠長に聞く気は私にはなかった。
「出鱈目かどうかは是非、貴方のお父上と兄にお聞きくださいな」
「ぐっ!」
その言葉に、もはやマークは何か文句を発することも出来ず、呻く。
だが、そんな状態になっても私が追い打ちを止めるつもりはなかった。
「それと、現在のバーベスト家の収入の半分を私が稼いでいることを知って今の騒ぎを起こしておられますの?豪遊しているのは、貴方の愛人の方ですわよ」
私はマークの側に近づき、そう耳に囁く。
先程、こちらに勝ち誇るような目を向けてきた、やつれたドレスの少女の方へと目を向けながら。
「なぜ、そのことをっ!」
私の視線に気づいた瞬間、マークの顔には隠しきれない驚愕が浮かんだ。
どうやら、自身の浮気が未だ気づかれていないものだと思っていたらしい。
「貴方を唆していたらしいあの少女に後で伝えてくださる?」
それに内心呆れを覚えつつ、それでも表面上は笑みを浮かべた私は口を開いた。
「侯爵家を敵に回すつもり、と」
その瞬間、マークの顔から血の気が引くこととなった。
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