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プロローグ 短気は損気で牢屋行き

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 「彩子、あんたは短気で馬鹿で泣き虫だから、何か行動するときは一度考えなさいよ」

そう、私如月彩子に友人が忠告してくれたのはいつのことだったか。

 「分かったよ!ぴかりん!」

 「………その名前やめてて言わなかったけ?」

 「……え?」

 「うん、あんたに忠告しても無駄だってことだけは分かったわ……」

 正確な日時は覚えて居ないが、その後、何故かそんな風に心底呆れたように言われて憤慨したことだけははっきりと頭に残っている。
 本当に私は決してそこまで馬鹿ではない。
 現にちゃんと今回だって私はその時の忠告を思い出した!
 これは本当に凄いことだと私は思う。
 流石私!さすわた!さすわた!
 そう言いながら踊っても良いくらいだ。
 何時もは全く忠告なんて頭に蘇らない私にとって今回ピンポイントで友人の忠告を思い出せたことは本当に誇るべきことなのだから。

 ーーー だけど、少し遅かった……

 「えっと……」

 私はふと視線を下ろして、そして座り込んでいる国王に誤魔化すように微笑んで見せる。
 そこに居たのは絶世の美貌を持ったこの国の王である青年だった。
 
 「えっ?」

 だが、彼はまるで何が起こったのかわからないと言うように、

 私が打った方の頬を抑えてこちらを見て居た……

 「本当に惜しかったのに……」

 国王を異世界人である私が打ったという奇行によって静まり返った広場に、私の無念の呟きが漏れる。
 そしてその呟きとともに私の頭に今まで何があったかが蘇ってきた……



 ◇◆◇



この場所、つまり異世界に私がきたのは本当に突然のことだった。 
 友人にアイスクリームをねだっていたらいきなり目の前の光景が歪み、気づいたらこの会議室のような場所にいた、それが今までの経緯。
 そして突然現れたことにこの異世界の人々も驚いていたが、直ぐに説明をしてくれた。
 というのも、私のように異世界に来る人間はかなり少ないが存在するらしく、そんな人間は時々とんでもない偉業を成し遂げるので、丁重に保護されるらしい。
 そして私はその説明を受け、元の世界に戻れる方法がないということに悲しんだり、身分を保護されるという話に幸運を喜んだりもしたが、そこまでは何の問題もなかった。
 ………最初の方全然話が分からず、何度も聞き返したせいでおじいちゃんが真っ白に燃え尽きているけども、何もなかったのだ。うん。

 「だったらお前は後宮に行くがよい」

 だが、今まで黙って話を聞いていた国王が私の横まで来て、口を挟んだ時話はおかしくなり始めた。

 「しかし!」
 
 「こんな得体のしれない人間を後宮になど!」

 私は高級と言われても何をすれば良いのかわから無かったが、横に超絶美形がいることに震えつつ、ただ失礼なおじいちゃん達へを睨みつけるという地味に器用なことをしていた。

 「よい。異世界人の女を抱くのもまた一興であろう?」

 「っ!」

 しかし、その国王の言葉でようやく自分がどんな仕事をさせられようとしているのに気づいた。 
 つまり、国王の妾的な存在になるのだということを。

 そしてそのことに気づいた瞬間、私の中で何かが爆発した。
 それはいつもとんでもない行動をしてしまう前に感じる感覚。

 「巫山戯ないで!」

 だが私はそんなことを考えることもなくいつも通りその感覚に従って、

 「えっ?」

 ーーー 気づけば国王の頬を平手でぶっていた。

 「貴方女の子の純潔がどれだけ大切かも分からないの!」

 私は周りが呆気にとられる中、全力で国王を叱りつけていた。

 「女の子が日々どれだけ白馬の王子……運命の人に憧れているのか分かるの!そんな女の子の夢を潰すなんて何様のつもり!」

 さらに私は所々自分のお茶目な部分、を晒しそうになりながらも国王に向かって怒鳴りつけて、

 「いや、私は国王だが……」

 「それが、え?あ、こ、国王!?」

 ようやく自分がやらかしたことに気づいた。
 急に私は我に帰り、そして私が黙ったことで何とも言えない沈黙が場を支配する……
 それが先程までの経緯だった……


 
 ◇◆◇




 私は表面上は顔を青くして、カタカタ震えながらも落ち着きを装っていたが、内面でもガタガタ震えていた。
 あれ、私やらかした?なんて今更ながらに気づくがもう時は戻らない。
 現在の私は絶体絶命の危機だった。
 国王が情けをかけてくれた(異世界人からすれば)にも関わらず私はそれを断るどころか、思いっきり国王を張り飛ばし怒鳴りつけたのだ。
 不敬罪で切腹なんて言われても仕方がないほどの危機だ。
 あれ?切腹なんて死刑であったけ?
 いや、違う。そんなことを考えている場合ではない。
 今すべきはこの状況をどうやって切り抜けるかだ。
 だけど、この状況は本当に手詰まりで、
 
 「っ!」

 しかし諦める寸前私は、出口が開いたままであることに気づいた。
 そこでは召使いらしき人が開けた場面らしく、この状況で扉を閉めるに閉められなくなったらしい。
 そして私はその扉の状態を見てあることを思いつく。
 
 今なら逃げれると。

 私は同年代の高校三年生の女子の中ではかなり小柄だ。
 だが実はかなり運動能力が高い。
 そしてそんな私が今いきなり走って逃げ出せば、誰も反応できないのできず、逃げはるのではないのか?
 いや、これは相当に良い案だ。
 相手の意表を突く、まさに妙案。
 そう確信した私は自分のいる場所から扉まで、どんな段差があるか、そしてそれをどうやって飛び越えるかまでを一瞬で計算する。
 そして逃走経路を計算した私はニヤリと笑う。
 やばい!今の私はかつてないほど冴えている!
 
 「とあっ!」

 そして高揚感共に私は飛び出して、

 「にぎゃ!?」

 ーーー 突然の浮遊感にいきなり体勢を崩した。

 そしてその浮遊感に包まれながら私は悟る。

 そうだ、今自分がいる場所が台の上で段差があるのを忘れていた、と。

 私は為すすべもなく地面に倒れて行き、そしてごちん、とという音と共に目の前に星が飛ぶ。
 
 意識が薄まって行く中、だから考えて行動しろっていたでしょーが!なんて叫ぶ親友の声が聞こえた気がした……
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