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幻聴
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王宮を後にし、私が向かった場所。
そこは、商会だった。
そこで私は、辺境へと向かう馬車を探す。
最低限の荷物しか持たない私の姿はその商会内で明らかに浮いている。
当たり前だろう、少しましになったとはいえ、辺境とはまだ危険な場所なのだから。
そして、このままだと私が馬車に乗れることはなかっただろう。
しかし、私は幸運にもある人間と会うことになった。
「なっ!? サーシャリア様!」
「貴方は……?」
そう私に声をかけてくれたのは、かつて親交のあった商人だった。
彼は私の姿に驚愕したものの、理由を聞かず自分が辺境につれていこうか、と申し出てくれた。
その突然の申し出に驚きながら私がお礼をいうと、彼は他の乗組員にも話を通したいから、自身の泊まっている宿屋に行かないかとまで誘ってくれた。
一瞬その態度に私は疑問を覚える。
いくらなんでも、腫れ物に触るような態度過ぎないかと。
しかし、目の前の商人が誠実な人間であることを知っていた私は、その厚遇に甘えることにした。
私の返事になぜか安堵した様子の商人は、私の体を覆うローブを渡すとささやく。
「……少し、私は商会長と話してこなくてはいけません。その間これで顔を隠していてください」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、私はご恩を返しているだけですから。どれだけ金を積まれようと、恩人を売りはしませんよ」
そう笑って、商人はさっていく。
私がやけに警戒した様子である理由に気づいたのは、その背中を見送っている途中だった。
「……あ、そっか。さすがに伯爵家が私のことを探してない訳がないのか」
そう呟いて、私は自分の考えてなさに思わず笑ってしまう。
考えれば当然の話で、容易に想像できる話だ。
それにさえ気づかないとは、私はどれほど鈍くなっているのだろうか。
この話しだけではなく、今の自分を乗せてくれる馬車がいないのも分かり切った話しだ。
……それにさえ気づかない自分に、私は苦笑する。
「それだけ守ってくれていたのね」
そしてまた同時に、私はそのことに気づていた。
こんな短時間で思い知らされた事実に、私は自分は一体どれだけ頼りきっりだったのかと苦笑する。
そして同時に、思わずにはいられない。
──やっぱり私はここから逃げて正解だったと。
こうして皆が私にしてくれたことを確認する度に、私は思わざるを得ないのだ。
一体どうして、私なんかにここまでしてくれるのかと。
どれだけ考えてもその答えがでることはなくて、だからこそ私は思わずにはいられなかった。
いつか必ず、こんな関係破綻するに決まっていると。
当たり前だ。
こんな一方的に負担をかけるやり方が長続きするはずがないのだ。
……そう分かってるのに、どうしてこんなに私は王宮の方に戻りたくて仕方がないのだろうか。
そう考え、私は苦笑を漏らす。
本当になんて自分勝手なのだとそう思って。
「………リア!」
だから、最初その声が聞こえた時、私は幻聴だと思った。
未だ諦められない自分の心が都合のいい声を聞いていると思おうとしているのだと。
「……シャリア」
「……っ!」
けれど、そう思えたのは二回目の声を聞いた時だった。
私は呆然と声の方向へと目をやる。
……そして、その声が幻聴でもなんでもないことを私は理解した。
次の瞬間、跳ね起きた私は荷物を整えて走り出した。
後ろから迫ってくるアルフォードから逃げる為に。
そこは、商会だった。
そこで私は、辺境へと向かう馬車を探す。
最低限の荷物しか持たない私の姿はその商会内で明らかに浮いている。
当たり前だろう、少しましになったとはいえ、辺境とはまだ危険な場所なのだから。
そして、このままだと私が馬車に乗れることはなかっただろう。
しかし、私は幸運にもある人間と会うことになった。
「なっ!? サーシャリア様!」
「貴方は……?」
そう私に声をかけてくれたのは、かつて親交のあった商人だった。
彼は私の姿に驚愕したものの、理由を聞かず自分が辺境につれていこうか、と申し出てくれた。
その突然の申し出に驚きながら私がお礼をいうと、彼は他の乗組員にも話を通したいから、自身の泊まっている宿屋に行かないかとまで誘ってくれた。
一瞬その態度に私は疑問を覚える。
いくらなんでも、腫れ物に触るような態度過ぎないかと。
しかし、目の前の商人が誠実な人間であることを知っていた私は、その厚遇に甘えることにした。
私の返事になぜか安堵した様子の商人は、私の体を覆うローブを渡すとささやく。
「……少し、私は商会長と話してこなくてはいけません。その間これで顔を隠していてください」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、私はご恩を返しているだけですから。どれだけ金を積まれようと、恩人を売りはしませんよ」
そう笑って、商人はさっていく。
私がやけに警戒した様子である理由に気づいたのは、その背中を見送っている途中だった。
「……あ、そっか。さすがに伯爵家が私のことを探してない訳がないのか」
そう呟いて、私は自分の考えてなさに思わず笑ってしまう。
考えれば当然の話で、容易に想像できる話だ。
それにさえ気づかないとは、私はどれほど鈍くなっているのだろうか。
この話しだけではなく、今の自分を乗せてくれる馬車がいないのも分かり切った話しだ。
……それにさえ気づかない自分に、私は苦笑する。
「それだけ守ってくれていたのね」
そしてまた同時に、私はそのことに気づていた。
こんな短時間で思い知らされた事実に、私は自分は一体どれだけ頼りきっりだったのかと苦笑する。
そして同時に、思わずにはいられない。
──やっぱり私はここから逃げて正解だったと。
こうして皆が私にしてくれたことを確認する度に、私は思わざるを得ないのだ。
一体どうして、私なんかにここまでしてくれるのかと。
どれだけ考えてもその答えがでることはなくて、だからこそ私は思わずにはいられなかった。
いつか必ず、こんな関係破綻するに決まっていると。
当たり前だ。
こんな一方的に負担をかけるやり方が長続きするはずがないのだ。
……そう分かってるのに、どうしてこんなに私は王宮の方に戻りたくて仕方がないのだろうか。
そう考え、私は苦笑を漏らす。
本当になんて自分勝手なのだとそう思って。
「………リア!」
だから、最初その声が聞こえた時、私は幻聴だと思った。
未だ諦められない自分の心が都合のいい声を聞いていると思おうとしているのだと。
「……シャリア」
「……っ!」
けれど、そう思えたのは二回目の声を聞いた時だった。
私は呆然と声の方向へと目をやる。
……そして、その声が幻聴でもなんでもないことを私は理解した。
次の瞬間、跳ね起きた私は荷物を整えて走り出した。
後ろから迫ってくるアルフォードから逃げる為に。
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