妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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行先は (アルフォード視点)

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 扉がしまり、マルクの存在が遮断される。
 その瞬間、俺は走り出していた。
 王宮内で今まで張り付けていた王子という仮面を投げ捨て、俺は走る。

「あ、アルフォード様!?」

 途中すれ違った侍女が、驚愕しているのが伝わってくる。
 それでも俺は一言さえ告げることもなく、二階まで勢いよく走りぬける。
 このまま、全力でサーシャリアのところに向かおうとして……けれどその目論見が果たされることはなかった。

「アルフォード!」

 背後から聞き覚えのある声、ソシリアの声が響いたせいで。
 想像もしてない声に、俺は反射的に足を止める。

 ……けれど、その瞬間自身の決断を後悔する。
 ソシリアはまだ不安定なはずだ。
 そんなソシリアにサーシャリアのことを伝えて良いものか?
 このまま通りすぎた方がよかったのではないか?
 しかし、立ち止まった以上再度走り出すことができず、俺は振り返る。

「ソシリア?」

 そして変わりきった彼女の姿に、思わず目を見開くことになった。

 伯爵家から帰ってきてから、俺は忙しさとソシリアもまた部屋にこもっていたせいで、遠目に見かけるくらいしか交流がなかった。
 つまり、俺の中のソシリアは崩れ去ったあの時の姿のままで。

 ……故に、今目の前にたつ堂々したソシリアの姿に動揺を隠せなかった。

 いつもと違って、ソシリアの服装は乱れている。
 けれど、その視線にはいつもの、いやいつも以上の力強さが宿っていた。

「……アルフォードなにかあったの?」

 そして何故か、一方のソシリアも俺を見て、驚いたような顔を浮かべていた。

「なんの話だ?」

 まるで想像もしていない問いかけに首を傾げる俺に、ソシリアはなにか言おうとして首を振る。

「いえ、ごめんなさい。そんなことは今はいいの。それより、サーシャリアが……」

「っ!」

 ソシリアの口から出てきたサーシャリアの言葉に、俺は息をのむ。
 まさか、知られていたかと。

 だが、その心配はすぐに消えた。
 心配していた不安定さは、目の前のソシリアからは見受けられない。
 その変化が気にならないことはない。
 とはいえ、ソシリアに問題がないのであれば、俺には優先しなければならないことがあった。

「すまん、ソシリア。話は後だ」

「……え?」

「俺は、サーシャリアを探しに行かないといけない」

 瞬間、はっきりとソシリアの表情が変わった。
 おそるおそるといった様子で、ソシリアが口を開く。

「……何をしにいくの?」

 なぜ、そんなことを聞くのか、そんな疑問が俺の胸によぎる。
 けれど、ソシリアの質問の答えはもう決まっていた。

「ここの残ってくれって、土下座してでも懇願しに行ってくる」

「……え?」

 ソシリアの目が、俺の返答に大きく見開かれる。
 そして次の瞬間、耐えきれず吹き出した。

「ふ、ふふ、そんな真顔で言うことじゃないでしょ……!」

「マルクにも言われた。情けなくて悪いな。でも、どうせ柄じゃなかったんだよ俺は。……思い切りよく諦める賢い男なんて立場なんて、な」

 そういいながら、俺はゆっくりとそばにある窓の方向へと、足を踏み出す。

「だから、精々みっともなく謝罪して来るさ」

「そう。なら、教えてあげる」

 次の瞬間、耳元に口を寄せたソシリアが口を開く。
 それを耳にして、俺の足が一瞬止まった。

「なっ! ソシリア、それは!? もしかして今まで姿をほとんど見なかった理由って……!」

「こうなることは想像してもなかったけど、準備しておいてよかったわ」

 そう言って、笑うソシリアに俺はさらに言い募ろうとして、やめた。
 代わりに、俺は窓に足をかける。
 それで俺のやろうとしたことがわかったはずだが、ソシリアは止めることはなかった。
 代わりに、笑ってつげる。

「情けなくても、懇願してすがりついても、サーシャリアは失望しないわ。だから、存分にやってきなさいな。それが多分、唯一のあの子に届くから」

 そういって、少し寂しそうにソシリアは続ける。

「──サーシャリアの呪縛を解けるのは貴方だけだけだから」

 その声を背後に、俺は窓から体を宙に躍らせた。
 次の瞬間、浮遊感、そして足に衝撃が走る。
 だが、それを無視して俺は走り出す。
 最初はよろめきながら、徐々に全力で俺は足を動かす。

 そして俺は、辺境行きの馬車がでる商会へ向かって走り出した。



 ◇◇◇


 長々と更新遅れてしまい、本当に申し訳ありません!!
 スランプに陥っていたというか、冬の寒さにやられてました……。
 恐らく、そろそろ暖かくなってくれるはずなので、定期更新できるようにさせて頂きます!
 なるよね?
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