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忙しさの理由
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「……っ!」
突然響いてきた足音に、私は体を強ばらせる。
一瞬今のうちなら反対側の廊下なら逃げられるかと、思考を回転させる。
……しかし、足音は二つの廊下から響いていた。
瞬時にもう残されたのが扉が開けられないのを祈ることしかないと理解した私は、せめてもの抵抗として机の下に体を隠す。
例え見つかっても、せいぜい資料室に見張りがつくくらいだとはわかっている。
けえど、今の私にとって情報を仕入れることだけが存在意義だった。
故に私は机の下必死に祈る。
開かないでくれ、と。
「……嘘」
そんな私の願いを裏切るように、資料室の部屋の前、二つの足音が止まる。
もはや私にできるのは、その時を待つことしかなく。
……けれど、その私の想像に反し、いつまでたっても扉が開くことはなかった。
何が起きたのかわからず、私の胸に困惑が浮かぶ。
「……じゃないか」
「おう……、……」
その答えは、扉から漏れ出てくる二人の人間の会話が教えてくれることとなった。
一拍おいて、部屋に入る訳ではなく、ただ立ち話をしているだけと理解した私は、小さく安堵の息をもらした。
「……ふぅ」
とはいえ、会話が終わればどちらかが部屋の中に入ってきてもおかしくない。
その思いから、私は外の会話へと聞き耳を立てる。
「そっか、お前は今から休憩か」
「ああ、最近忙しくてやっと暇ができたところだよ」
「俺も、少し前に休憩にはいってもう交代だよ」
そして、聞こえてきた会話に、私はさらに安心する。
そういえば、資料室の近くには文官用の休憩室があった。
おそらく今は、そこから出てきたものと向かうものが出くわしただけなのだろう。
普段こんな所で二人も来ることなどないのだが、これも忙しさのせいだろうか。
……とはいえ、そんな忙しくなる用事など、今存在しただろうか?
そう好奇心に駆られた私は、さらに文官達の会話へと聞き耳を立てる。
「とはいえ、今が土壇場だからな」
「ああ、後もう少しで──サーシャリア様を辺境伯の養女とする準備さえ整うんだから」
その瞬間、私が声を出さないで入れたのは奇跡に近かった。
だが、私の心臓は扉の外に聞こえるのではないかと思うほどに大きく鼓動していた。
これ以上聞いてはいけない、そう思いながらも私は扉の外の声にさらに注意を向ける。
「だな、聞いたか? 数日前伯爵家に乗り込んだ時のマルク様の啖呵」
「ああ、久々に胸がすく思いだったぜ」
「もう少し話していたいけど、そろそろ俺は行くよ」
「あ、そうだな。俺も飯を食っておかねえと」
そう会話を交わし、文官二人は部屋の前から離れていく。
……けれど、そのときには私はほとんど何が起きたのかを理解していた。
突然響いてきた足音に、私は体を強ばらせる。
一瞬今のうちなら反対側の廊下なら逃げられるかと、思考を回転させる。
……しかし、足音は二つの廊下から響いていた。
瞬時にもう残されたのが扉が開けられないのを祈ることしかないと理解した私は、せめてもの抵抗として机の下に体を隠す。
例え見つかっても、せいぜい資料室に見張りがつくくらいだとはわかっている。
けえど、今の私にとって情報を仕入れることだけが存在意義だった。
故に私は机の下必死に祈る。
開かないでくれ、と。
「……嘘」
そんな私の願いを裏切るように、資料室の部屋の前、二つの足音が止まる。
もはや私にできるのは、その時を待つことしかなく。
……けれど、その私の想像に反し、いつまでたっても扉が開くことはなかった。
何が起きたのかわからず、私の胸に困惑が浮かぶ。
「……じゃないか」
「おう……、……」
その答えは、扉から漏れ出てくる二人の人間の会話が教えてくれることとなった。
一拍おいて、部屋に入る訳ではなく、ただ立ち話をしているだけと理解した私は、小さく安堵の息をもらした。
「……ふぅ」
とはいえ、会話が終わればどちらかが部屋の中に入ってきてもおかしくない。
その思いから、私は外の会話へと聞き耳を立てる。
「そっか、お前は今から休憩か」
「ああ、最近忙しくてやっと暇ができたところだよ」
「俺も、少し前に休憩にはいってもう交代だよ」
そして、聞こえてきた会話に、私はさらに安心する。
そういえば、資料室の近くには文官用の休憩室があった。
おそらく今は、そこから出てきたものと向かうものが出くわしただけなのだろう。
普段こんな所で二人も来ることなどないのだが、これも忙しさのせいだろうか。
……とはいえ、そんな忙しくなる用事など、今存在しただろうか?
そう好奇心に駆られた私は、さらに文官達の会話へと聞き耳を立てる。
「とはいえ、今が土壇場だからな」
「ああ、後もう少しで──サーシャリア様を辺境伯の養女とする準備さえ整うんだから」
その瞬間、私が声を出さないで入れたのは奇跡に近かった。
だが、私の心臓は扉の外に聞こえるのではないかと思うほどに大きく鼓動していた。
これ以上聞いてはいけない、そう思いながらも私は扉の外の声にさらに注意を向ける。
「だな、聞いたか? 数日前伯爵家に乗り込んだ時のマルク様の啖呵」
「ああ、久々に胸がすく思いだったぜ」
「もう少し話していたいけど、そろそろ俺は行くよ」
「あ、そうだな。俺も飯を食っておかねえと」
そう会話を交わし、文官二人は部屋の前から離れていく。
……けれど、そのときには私はほとんど何が起きたのかを理解していた。
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