妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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焦燥の日々

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 ソシリアとアルフォードの婚約が偽装だと告げられてから数日。
 私は自身の部屋の中、必死に書類を読み込んでいた。

「……早く、もっと今の状況についてしらないと」

 無意識のうちに、私の口からは呟きがもれる。
 それは、私の心にある焦燥を何より雄弁に物語っていた。

 本来私は、まだ休んでいるようにと言われている。
 けれども、私は数日前のあの日からこうして書類を読み込むようになってきていた。
 そのおかげもあり、徐々に私は様々知識を蓄えてきている。
 そのことで、私は少しだけ自分が余裕を取り戻してもいた。
 昔の知識も徐々に思い出しいてきており、知識を入れることが単純におもしろいということもあるのだろう。

 それでも、私の中から焦燥が消えることだけはなかった。

 自分が本領を発揮するには、もっと知識がいることを私は知っていた。
 特にパフォーマンスが明らかに落ちているとわかる今は。
 さらに何より、タイムリミットが私の焦燥をさらに煽っていた。

 ──皆が私に失望するまでのタイムリミットが。

「……っ!」

 そのことを想像した私の手が止まる。
 自分でもわかっているのだ。
 そんなすぐに皆が自分に失望したりしないとは。
 けれど、皆が失望するという想像だけで私の心臓は締め上げられるのだ。

 ……そして、そのタイムリミットはいずれやってくる。

「もっと、もっと……!」

 その想像に、書類をめくる私の手がどんどんと加速する。
 気づけば、その書類は最後の一ページとなっていた。

「……次のものをとってこないと」

 そのことに気づいた私はゆっくりと立ち上がる。
 そして部屋の外にだれもいないことを確認すると、書類のおいてある部屋へと歩き出した。

 誰もいない廊下に私の足音が響く。
 最悪見つかっても、使用人であれば頼み込んで黙っていてもらうこともできるが、あまり見つかりたくない私は人気のあまりない遠回りの道を通っていた。
 この道を通ると私は、学生時代を思い出していた。
 辺境貿易を始める前はアルフォードの立場も弱く、辺境貿易の計画は秘密裏に行われていた。
 その際、資料を取りにくる時、私たちはこの場所を使っていたのだ。

「……私があのときみたいに動けるようになれば、皆頼りにしてくれるかな」

 そう考えて、私はマルクから聞いた魔物除けのおじいさんのことを思い出す。
 あのおじいさんみたいに、アルフォードが私を必要としてくれるようになれば、私ももっと自分のことを信じれるようになるだろうか。

「未練がましいな、私」

 自身の想像に思わず笑い、しかし心なしか弾んだ足取りで私は資料室に入る。
 そして新しい資料を手に取り……外から足音が響いてきたのはそのときだった。
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