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必死の懇願 (伯爵家当主視点)

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 あまりにも非常識な要求、それに私は一瞬なにも言うころができなかった。
 爵位の売却、それが闇社会で存在することは私も知っている。
 けれど、貴族の爵位の価値を知っていればそんな要求など、普通はできないものだった。
 信じられない言葉に茫然とする私と対照的に、マルクの目は冷え切っていた。

「非常識な、とでも言いたげな反応だな」

「い、いえ! けれども、爵位を売却などそれはあまりにも横暴……」

「お前がそれをいえる立場だと本当に思っているのか?」

「……っ!」

 瞬間、マルクのまとう雰囲気に私は息を飲む。
 私よりも遙かに若いのにも関わらず、マルクは信じられない様な威圧感をまとっていた。

「自分がやったことをまだ理解できていないのか、当主殿? この直前で辺境貿易がつぶれることによって起きる損害が、一体いくらだと思ってる?」

「……なっ!」

 その言葉に、私は思わずアルフォードの方へと目をやる。
 そんなこと、一言も言ってなかったではないか、と。
 けれど、そんな私の意図を勘違いしたのか、マルクは鼻で笑って告げる。

「助けを請うつもりだろうが、もう意味はないぞ。第三王子は既に俺に賠償金の支払い期間をのばす様に交渉していて、俺はそれを断っている」

「……そん、な」

 その言葉に、私は第三王子が自身の味方であることを知る。
 しかし、その事実は喜びにつながることはなかった。
 ……ここにマルクが現れた、その事実が何より雄弁に第三王子の限界を物語っているのだから。
 それでも、マルクの言葉を聞くという選択肢は私にはなかった。

「お待ちください、後少しで払える目処がたつのです! だから、そこまでどうか……」

 実際のところ、確たる目処は私にはなかった。
 とはいえ、全くの無策の言葉ではなかった。

 サーシャリアさえ帰ってくればこの状況を打開できるという希望があった。
 だから私は必死に懇願する。

「もう少し、数日でもいいのです。少しでもお時間をいただければ……」

「……はあ。まだ分かってないのか」

 そんな私に対するマルクの返答それは、ため息だった。
 理由が分からず、なにも答えられない私にマルクは吐き捨てた。

「断言してやる。お前が頼みにしているだろう人間……サーシャリアは絶対に伯爵家になどに戻らないぞ」


 ◇◇◇


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