妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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寄生虫 (アルフォード視点)

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 何度も何度も手紙を読み直す伯爵家当主を見つめながら、俺は手紙の内容をゆっくりと話し始める。

「伯爵家に辺境貿易を任せるのは不安、しかしサーシャリアは信用できる。故に、サーシャリアの監督下であれば辺境貿易継続も考慮してよい」

 一字一句完璧に覚えているその内容を、俺はゆっくりと告げる。

「しかし、現在の状況下で伯爵家がサーシャリアを見つけられるとは思えず、また虐待の疑いもあるその家に戻れというのもこくであると考えている。よって、辺境泊養女として受け入れを許可してくれるのであれば、辺境貿易継続を許可する」

 俺の言葉が終わっても、伯爵家当主が顔をあげることはなかった。
 しかし、そのふるえる肩をみて俺は説得が成功したことを確信していた。
 そう、俺がこうも回りくどく追いつめていた理由こそ、サーシャリアを伯爵家の支配下から解放する為だった。
 このままでは、常にサーシャリアは伯爵家につきまとわれることとなるだろう。
 その状況を脱する為には、辺境泊の養子と認めさせる必要があった。

 そして、その申し出を今の伯爵家当主は断れないだろう。

 何せ、今の現状伯爵家は滅びる寸前だ。
 この状況であれば、いくらサーシャリアを見下し、利用するとこしか考えていない伯爵家も、首を縦に振らざるを得ないだろう。
 いやむしろ、利用することしか考えていないから縦にふる、そう言うべきか。
 だから、俺は成功を確信していた。

「……そんなこと許せる訳がないでしょう!」

「は?」

 ……伯爵家がそう叫ぶその直前まで。
 茫然とする俺に対し、伯爵家当主はさらに続ける。

「いくら家の為であれ、娘を切り捨てるなど許されるわけがありません!私は絶対にそんなことを行ったりはしません!」

 それは、耳障りのいい言葉だった。
 これがもし、伯爵家当主がいったものでなければ美談となったかもしれない。
 ただ、俺は気付いていた。

 ……語る伯爵家当主の目に何かに縋るような必死さが浮かんでいることを。
 それは決して、子供のことを思う親の目ではなかった。

 ──最後に残った武器をなんとかして守ろうとする、追いつめられたものの目だった。

「折角の申し出ですが申し訳ありません、アルフォード様。辺境泊に娘はお渡しできないとお伝えください」

 ああ、くそ。
 伯爵家当主の御託を聞きながら、俺は思わずそう内心吐き捨てる。
 目の前の男は、今さらながら娘にすがりつこうとしているのだ。
 ここで辺境貿易を継続するより、娘を取り戻した方が先が開けると気付いて。

 あれだけ虐げてきた娘を、この男はまだこき使おうとしているのだ。

「どれだけ不肖の子供であれ、親にとってがかけがえのないものなのです!」

 ぶちり、と怒りが限界に達した音が脳内に響く。
 この時ほど、娘にすがりつくことしか考えていない目の前のくずを殺したいと思ったことはなかった。
 ……娘にすがりついている内心を言い当てるような真似をすべきではなかった、そんな今さらな後悔が胸によぎる。

 それでも、全ての感情を押し殺し俺はあえて笑った。

「……そうか、わかった。全て俺が辺境泊に伝えよう」

「ありがとうございます! アルフォード様!」

 そうして、どうしようもなく膨れ上がった怒りを押し殺し、俺は笑って見せる。
 まだ、自分は伯爵家の味方だと勘違いさせる為に。

「では、ようができたので私は去ろう。伯爵家の諸々についてまだ話合わないといけないことはあるので、また訪ねさせてもらうがな」

「は、はい! お手数をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした! 次回こられる時にはおもてなしの準備をさせていただきます!」

 そう、俺へと頭を下げる伯爵家当主。
 その表情には、隠しようのない疲労感と……それでもやりきったという安堵が浮かんでいた。
 それを後ろに伯爵家を後にした俺は、迎えにあらわれた馬車の中、背バスチャンへと口を開いた。

「すぐにマルクの元にいくぞ」

「まさか、養女の件はうまく行かなかったのですか」

「あの屑どもは今さらになってサーシャリアの価値に気づいたらしい。あの様子では絶対に離す気はないだろうな」

「……まさに寄生虫ですな」

 セバスチャンのその評に、言い得て妙だと俺はうなずく。
 栄養を絞るだけ絞り、サーシャリアに依存する無能達。
 まさに伯爵家は寄生虫だろう。

「だから、徹底的にやる。──あの寄生虫どもは、数日中に報いを受けさせてやる」

 そう告げた俺を乗せた馬車は王宮まで近づいていた。



 ◇◇◇

 更新遅れてしまい申し訳ありません!
 次回から、伯爵家当主視点となります!
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