妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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理解したのは (伯爵家当主視点)

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「想像できていると思うが、見てみろ」

 呆然とする私に、そう第三王子は手紙を投げる。
 地面に落ちたそれを拾い、付箋の中の手紙を私は震える手で広げる。
 ……そして、その中に記されていたのは、伯爵家に対する告発だった。

 ふざけるな、そんな言葉が私の喉元までせり上がってくる。
 どうして少し金を請求しただけで、こんな目に遭わねばならないと。
 しかし、その気持ちを抑え私は手紙を握りしめる。

 一瞬、自分の心に迷いが生まれた。
 しかし、直ぐに私はその思いを胸の奥にしまい込み、さらに手に力を込めていく。

 次の瞬間、私はできる限り偶然を装いながら、手紙を破り捨てた。

「おっと、これは失礼いたしました。つい手に力が入ってしまい、申し訳ありません!」

 そういって、私は第三王子へと頭を下げる。
 しかし、その内心私は安堵の息をついていた。
 もちろんこれは、一時的な対処にすぎない。
 それでも、告発する為の材料を失った第三王子は一度帰らなければならないだろう。
 そうすれば、最低限時間とはいえ、対処する為の時間を稼ぐことができる。
 手紙を破くなど、不敬なことこの上ない行為だ。
 激怒した第三王子にとがめられることは避けられないだろう。
 そうしても、今私には考える為の時間がほしかった。

「本当にお前はどうしようもないな」

「……え?」

 けれど、その私の想定と第三王子の反応は全く違った。

「なあ、どうして私が重要な手紙をお前に渡したと思う? ただの不用心でお前みたいな人間に渡すわけがないだろう?」

 そういって、第三王子はさらに手紙を取り出す。
 そこに記されているのは、どれも今まで伯爵家を介して辺境貿易を行っていた商会や貴族の名前だった。

 ──その中には、辺境泊の名前さえ存在していた。

「……っ!」

「理解したか? そうだ、お前が破いたのはごく一つの証拠にすぎない」

「そん、な」

「当たり前だろうが。辺境貿易が、多くの貴族や商会にとってどれだけ大きな存在か、お前は分かるか? そんな多くの組織が落ちぶれた今の伯爵家主導の辺境貿易をよしとする訳がないだろうが」

 その時、ようやく私は気付く。
 部屋を第三王子から隠せたと思いこんでいた自分がどれだけおろかだったか。

 そう、第三王子が素直についてきたのは、確認する必要がなかっただけ……伯爵家の現状を知っていたからに過ぎないのだから。

 そのことに気づいて茫然と見上げる私に、第三王子は呆れと嫌悪のこもった表情で告げた。

「分かっているか? お前はただ、自身の立場を下げただけなんだよ」

 ようやく私が自分のおかれた現状を理解したのは、そのときだった。


 ◇◇◇


 次回からアルフォード視点となります!
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